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秩序の破壊者 ー真龍の憑坐(よりまし)あるいは創石師ー  作者: 湯煙
第一部 情に棹させば流される    第一章 傭兵隊結成
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選択肢

 ダークエルフの族長ダヴィド=ハルは族長を代々務めてきたハル家の家長。

 魅力的なバリトンボイスを持つイケオジで、進歩的な考えの持ち主。これまでエルフやオーガなどの亜人種としか交流のなかったダークエルフが人間社会と付き合うようになったのは、ダヴィド=ハルが保守的な仲間からの反対を押し切ったからだ。


 『人間と敵対してるわけでもない』

 『人間が使ってる便利な農具や鉄具を我等も学び、より良い生活を目指して何が悪い』

 『人間が使ってる楽器で豊かな音楽を楽しもうではないか』


 などなどと、人間社会の文明や文化を少しでも多く取り入れてダークエルフの生活をより楽により豊かにしようとしている。身体的に優れているオーガや魔力的に優れているエルフと渡り合っていくために対等に付き合っていくための苦肉の選択だったかもしれない。仲間の生活のために自分達に足りないモノを補っていこうという気概がダヴィド=ハルにはある。


 おかげで武器も道具もより良くなり、魔獣狩りに滅多に苦労しなくなったし、家事も楽になったらしい。そして何より、人間との交流が生まれたおかげで争いも減った。もちろん相変わらず亜人を蔑視する人間はいまだに居る。だが、人間にはない技術もまた持っているエルフやダークエルフとの付き合いを有益なものとして見る人間も増えていた。


 今のところ、勇気も知恵も持つダヴィド=ハルは一族をまとめられる優れた族長として仲間からも他の種族からも認められている。


 工房の扉を開けて入ってきた族長は俺を見るなり声をかけてきた。


「おおリカルド、やはりブルーノ親方のところへ来ていたか。昨夜のことを聞いたから今日必ず来ると予想していたが、当たっていたようだ」


 細マッチョが多いダークエルフにしては肉付きが良い身体を小刻みに震わせてカッカッカと屈託無く笑う。 


「俺に用がある? 何ですか?」

「そう急ぐな。とにかく表に出てきてくれ」


 中で話せばいいだろうにどうしてと表に出ると、そこには見知らぬ人間達が居た。一目見ただけで貴族とその家族そして護衛達と判る格好でこちらを見ている。


「こちらはドゥラーク領領主マイヤール侯爵家の皆さんだ」


「はじめまして。私はドゥラーク領ベネディクト=マイヤール=ドゥラーク。隣が次女のエリザベス、後ろは従者だ。リカルド君、君に会えるのを楽しみにやってきたよ」


 ベネディクトは一歩前に出て握手を求めてきた。握手を終えると、彼の斜め後ろで佇んでいたエリザベスが濃緑のスカートの裾を優雅につまんで持ち上げ軽く会釈する。


 ――ああ、とても品の良い綺麗な女性だけど、このお嬢さんも政略結婚のために連れて来られたのかもしれないな。まったく女性を政治の駒にするなんて好きじゃない。

 

 そう思うと、とても美しいエリザベスの魅力も半減した気がした。彼女のせいじゃないんだけど、侯爵達との出会いへの気持ちが後ろ向きになったのは間違いない。


「それでだ。貴族様と立ち話もなんだから、これから我が家へ来て欲しいんだがいいか?」


 ダヴィド=ハルは侯爵達に対して友好的な空気を纏っている。多分、ベネディクト達の訪問理由を既に知っていて、できることなら話をまとめたいと考えてるんだろう。


「親方への用事は終わってるからいいですよ」


 少しはアドリア達の顔も見ておきたかったけど、族長ダヴィド=ハルがわざわざ来ての誘いを無碍にも出来ない。それに族長の家で待っていればいいのに、ここまで一緒に来た侯爵達の顔を潰すのも気が引けた。


 ソウヒが「何か面白そう」と言いたそうにワクワクしている。魔獣狩りと家事ばかりしてるから、こういった場面に飢えていたのかもしれない。セキヒと異なり口を挟んできそうだから「大人しくしていてくれよ?」とひと言釘を刺しておくのはわすれない。


 村の外れにある親方の家から村の真ん中辺りの族長宅へ向かった。村の中とは言え、お貴族様も徒歩でだから少々ビックリした。


・・・・・

・・・


 族長宅の敷地内には母屋の他に応接室のような別宅がある。

 母屋より一回りほど小さいが、炊事場と居間が続いて一間になってるようなダークエルフの家と違って、人間の……貴族の家とまではいかないけれど、ちょっとした商家程度の作りになっている。

 人間と交流ができ、取引きなどが行なわれる時に使われている。


 俺達はそこへ案内され、上座の席にはダヴィド=ハルが長男のリック=ハルと並んで座り、彼らを間にするように俺とソウヒは侯爵達と向き合うように席に座った。大きなテーブルを挟んで椅子に座るのは、ここはダークエルフの村なのだと思うと違和感があった。


 型どおりの挨拶を終えると、ベネディクト侯爵は本題を切り出してきた。


「リカルドさん。私と契約しませんか?」

「契約というと?」


 魔石を創石して売ってくれということだろうな。その契約を結ぶためにエリザベスも俺の嫁になんてことを言い出すんじゃないだろうか。


「私の領地、ドゥラーク領を魔獣から守っていただきたいのです」


 魔石を手に入れて自分達で守ろうというんじゃなく、魔獣を易々と倒せる術を持つ俺に守らせようというのか。プライドの高い貴族には珍しい。このベネディクトという侯爵もヴィアーナとはまた違った面白い男のようだ。


 ダヴィド=ハルは興味深げに俺達の会話を見つめている。


「人間同士の争いや諍いには基本的に我等が対処します。捕縛に苦労している賊相手ならリカルドさんやダークエルフの皆さんに対処して貰ってもいいのですが、そうでない相手にはやはり領主が……」


 人間を裁くのは法に縛られている人間。そういうことだろう。俺やダークエルフは法に守られもしないが裁かれもしない。そういう立場の人間が出て対処するのは、魔獣や賊だけにしておきたいと言ったところだろう。……ま、妥当な考えだ。


「契約というのですから対価も決めなければなりませんよね?」

「ええ、一頭当たり、小型魔獣なら大銀貨一枚、中型なら金貨一枚、大型なら最低でも大銀貨十枚。これでいかがでしょう?」

「賊は?」

「賊の規模とこちらの被害の程度でその都度応相談というのではいかがでしょう?」


 率直な感想は、なかなか良い条件と言ったところだろう。

 

「そちらの領地内、もしくは領地のそばに常駐しろとは言いませんよね」

「できれば連絡役は一人領地内に常駐していただきたい。もちろん滞在場所はこちらで用意しますし、経費もこちらで持ちましょう」

「随分と良い話に聞こえます。正直、裏を勘ぐりたくなるほど疑わしいほどに」

「それは我が領地の事情をご存じないからですな」

「事情……お聞かせいただけることでしたら教えていただきたいですね」

「隠すような話ではありません。我が領の主産業は商業です。領内および領外との安全な交流は商業にとって重要です。ドゥラーク領との行き来は安全だと知られれば、商人が集まりやすくなります。商人が多く集まれば客も寄ってきます。その状況こそが我が領地には望ましいのですよ」


 ドゥラーク領がコンコルディア王国南部の東側にあるのは知っている。ヴィアーナが治めている最南端のアレーゼ領の東側だ。海にも接していて王国の他の国とも交流があるらしいという程度までは知っている。


 だけど、この大陸で最大の魔獣生息地リガータの森からは離れている。そんなに頻繁に魔獣被害に遭うようなことがあるんだろうか?


「ドゥラーク領を襲う魔獣はどこから?」

「海からと北のトートブリゲント山脈からですな」

「トートブリゲント山脈?」

「ええ、魔鉱や鉄鉱石などが採れる鉱山があり、王国南部の鉱物資源はトートブリゲント山脈で賄っているのですよ」


 なるほど。海はもちろん山にも魔獣が多数棲んでいる。縄張り争いに敗れ、山から落ち延びてくる魔獣も居るだろう。


「その頻度は……魔獣が襲ってくる頻度はどのくらいですかね」

「海からはそうそう無いのですが、山からは多いです。多いときですと十日に一度、少ないときでも三十日に一度という感じです。そのほとんどは小型魔獣ですけど」

「その頻度ですと騎士団や護衛団は……」

「ええ、全然手が足りません」


 だから報酬が良いのか。

 さてどうするか?

 

 これはダークエルフへの依頼じゃなく俺への依頼だ。だからダヴィド=ハルは静かに見守っている。ただ、できることなら一枚噛みたいとは思っているだろう。人間社会と交流するならどうしてもお金が必要になる。収入の機会があるなら関わりたいだろう。


 ダークエルフは魔獣との戦いには慣れているし、俺が創る魔石を利用できればほぼ無傷で狩れる。だから俺が関わってる魔獣討伐となれば、ダヴィド=ハルには美味しい話だ。


 先日渡した魔石は既に壊れているだろう。使用後数日で壊れて消えるよう霊力で書き込んだのだから、既に失われているに決まっている。


 いくら付き合いがあり恩もあるダークエルフでも、俺が創る強力な魔石をずっと持ち続けられるようにはしない。必要な時に必要な分だけ預けるだけだ。それはダヴィド=ハルも了承している。


 もちろん全ての魔石を、時限消滅するようには創っていない。先日使用した強力すぎる魔石には時限措置を書き込むんだ。だけど、日常的に魔獣討伐を請け負うというのなら時限措置は邪魔になる。まあ、別の内容で措置すれば万が一悪人に盗まれた場合でも悪用されないだろう。使用者制限は必ず書き込んでる。でもダークエルフだろうと、人間だろうとその他の者でも過ちはある。だから何かしらのセーフティは用意するんだ。


「そうだ、リカルド。混血児達を育てているのだろう?」


 ベネディクト侯爵からの依頼をどうしようか悩んでるのは判ってるだろうに、急に話題を変えてきてどういうつもりだ。ダヴィド=ハルを見る俺の眉間には皺が寄っているだろう。


「そうだけど、どうかしたかい?」

「その子達を魔獣討伐専用の傭兵として育てたらどうだ? 賊相手はこちらで請け負ってもいい」


 魔獣討伐専用の傭兵か。それは悪くない。

 リガータの森で暮らしていくのなら否応なく魔獣対策は必須となる。倒すにしろ逃げるにしろ身を守るための技術を誰もが身につけなければならない。ダークエルフも幼い頃から性別に関係なく何かしらの技術を叩きこまれる。……その技術を仕事に活かすのは良いかもしれない。


「魔獣討伐専用の傭兵隊か。それはいいかもな」


 当面は俺が創った魔石を預け、いずれは自分達が錬石した魔石を売るだけでなく、自分達も身を守らせるつもりだったんだ。戦いに必要な武器や防具を作るため、親方に弟子入りする者も出てくるだろうしな。生きるための術を、俺無しに手に入れられる。


「でも、まだ人数がなぁ」

「混血児達を集めたいのでしたら協力できると思いますよ」


 まだ人数が少なく傭兵隊を作れるほどじゃないと俺が頭を悩ませているとベネディクト侯爵が瞳を光らせて口を開く。


「というと?」

「コンコルディア王国では混血児は国法の支配下にありません。ですが私とヴィアーナ嬢の領地では、所有や取引きが許される生き物を決めております。一部の愛玩動物と家畜以外の所有と取引きは禁じています。これはだいぶ前に魔獣を飼っていた者が居たために作られた領法です。そのために二つの領地では事実上混血児を所有することも取引きもできません……」


 所有できなくても、まともな仕事に就けないことに変わりはない。だから闇の仕事や犯罪に手をつけてしまいがちだ。だから領内の犯罪に混血児が関わってるケースが多く、ベネディクトもヴィアーナも混血児の対応には頭を痛めている。


 だから真っ当に暮らせる場所があるならば、領内の混血児を預けたい。それはヴィアーナも同じだろうとのこと。


「ですから、そちらの要望を満たせるだけでなく、私達も助かるのです」

「俺は良い話に思うけど、本人達に確認しなければ返事はできません」

「判ります。それでは三日後にお返事をいただけませんか? 私どもは四日後に領地へ戻ろうと思っておりますので」

「はい、それでは三日後に」


 ベネディクト侯爵達とは別れ、俺とソウヒはリンクス達と相談するため家へ戻ることにした。


「あの人間は、何か口にしていないことがあるようですね。問い詰めたかったんですけど、自重しましたよ」


 帰宅途中でソウヒが口にした言葉にハッとさせられた。


「ソウヒ、どうしてそう思ったんだい?」

「リカルド様は、話がうますぎると思いませんでしたか?」


 確かにそうだ。会話中は感じなかったけれど、終わってみると特にどこもおかしくないから何か不安を感じさせられる。

 だけど、リンクス達のためには傭兵隊は良い考えだ。どのみち魔獣退治の技術は身につけなければならないのだし、身につけた技術を活かせる道があるなら進んでみるのは悪くないはずだ。


「そうだね。でもとりあえずは話を進めるしかないよ。俺一人じゃリンクス全員の面倒は見られない。彼らの将来を保障することももちろんできない。だから……」


 ソウヒに説明しているつもりだけど、自分に言い訳しているような気もして話を途中で止めた。

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