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人間一回目のタキ先生と雪の国  作者: 有沢真尋@12.8「僕にとって唯一の令嬢」アンソロ
第三章 《SS》

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呪術的な何か

 生き猫の毛と古代文字(?)の書かれたカード。


「これは呪術的な何かなんだろうか」


 タキがどういった意図で贈ってきたのかが、全然わからない。

 悩むことに疲れたサトリは、昼食後アキノに相談をすることにした。


「今朝、ドアの前にこんなものが落ちていたんです。なんて書いてあるか読めますか?」


 ひとまず、空色のカードを見せてみる。

 珍しく眉間にぐっと皺を寄せたアキノは、カードをしばし睨みつけてから言った。


「読めない。どこの国の言葉かもわからない」

「アキノ様でも?」

「これはどこから?」

「今朝ドアの前にあったんです。これと一緒に……」


 たぶん送り主はあの人で。

 まだ名前を口にするのは業腹な男を思い浮かべて、サトリはトニさんの毛玉を掌の上にのせて見せた。


「これって」

 呟いたアキノが、突然「はっ」と感極まったように掌で口元を覆った。


「ど、どうしましたか?」

「サトリ、すごいよ!! わからないはずだ、これ猫語だよ!!」

「んー?」


 生返事をしたサトリの曰く言い難い表情に構わず、アキノはサトリの肩にがしっと手を置いた。


「トニさんからだね! 何か良いことしたの!? すごいよ!! トニさんから感謝状をもらったんだね!! 僕でもまだそんなことないのに!」

「殿下、これを書いたのは人間じゃないかと」

「トニさんだよ!!」


 大きな瞳を潤ませて言ってくるアキノは冗談を言っているようにも思えない。

 きらきらとした目でカードを今一度見直し、「トニさん字がうまいな」と呟く。


(これは間違いなくあの人から……。トニさんからなの? でもトニさんは一緒に寝ていたし、カードを残していくならドア前より枕元の方が)


 そもそも猫はカード書かないですよね?

 それとも「そういう演出」なの?

 自分が関わっていると思われたくなくて、トニさんが差出人だと誤認するように毛玉を添えたの? 


(誤認するわけが)


 とは思うものの、アキノは完全に舞い上がって、「これシュリにも見せてこようか」と言っている。

 何かと勘の鋭そうなアキノが感謝状だというのなら、呪術的な何かではないのかもしれない。書かれているのはそんなに悪いことじゃなくて、添えられていた生き猫の毛玉にも意味が……。


 真面目に考え始めて、サトリはそんな自分を後ろから蹴とばしたい気持ちになった。

 余人の及ぶところではない人の思考回路など、想像しても仕方ない。

 昨日の今日で、歩み寄り? を見せたということは、お互い水に流そうと、そういう意味ではないかと思いつつ。


(伝わらないと、意味がないんですってば)


 結局、本人にカードを突きつける勇気はどうしてもなくて、カードも生き猫の毛玉もサトリの部屋の机の奥の奥にしまい込まれた。

 トニさんの毛玉は春になったら庭に撒いてしまおう、それまで保管するだけだ、と自分に言い訳をしつつ。


 * * *


 サトリは知らない。

 アキノが、その後シュリにカードの話をしていたことを。

 少女めいた可憐な美貌に、悪そうな笑みを浮かべて言った言葉を。


「珍しく気の利いたこと書いていたから、意地悪したくなって教えなかったんだ。なんだろうね、先生あんなことも言えるんだ。驚いちゃった。いや、文章だったからかな」

「随分とまあ。殿下、らしくない顔をしていますよ」


 シュリに揶揄されて、アキノは肩をそびやかす。


「悪人面にもなるよ。中途半端に優しくして何がしたいんだよ。黙って一人寝してろ、サトリもトニさんも渡さない」


 苛烈な物言いに、シュリは曖昧な微苦笑を浮かべるにとどめた。

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