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1.

朝ごはんをあなたと


1.

  

 スマホのアラームは、六時にセットしている。本当はもう少し早く起きたほうがいいのだけど、早くかけても結局二度寝して一回地獄を見たので、ギリの時間にセットして一発で起きるようにした。自分にはこれが合っている……のだと思う、たぶん。

 実家暮らしのツケというやつを噛みしめながら、カーテンと窓を開けて、朝日と冷気で強引に体を覚醒させた。近所の老犬が鳴いている。こっちも朝ごはんだ。


 冷蔵庫の中には、ラップにくるんだ今日の夕飯が並んでいる。父親の方が早出、早帰りなので、夜のうちに作っておかないと間に合わない。ちなみに朝は、食パンとコーヒーがあればいい人間なので、助かっている。

 お弁当には、昨日の残りの野菜炒めと卵焼きを入れることにした。賞味期限の近い卵を消費せねば。十玉のパックは、やっぱり二人では多すぎた。


 レシピはネットに頼りっぱなしだ。スマホの画面は小さすぎるので、よく使うやつは印刷して冷蔵庫に貼っている。

 そういえば、母親はほとんどレシピを見ずに作っていたけど、分量は自然と覚えられるものなのだろうか。

 眠い頭で考えながら、リズミカルに菜箸で卵をかき混ぜる。


 働きはじめということもあって、お弁当も夕飯も出来合いで済まそうと思っていた。が、一ヶ月経って、家に来た電気代と水道代の明細を見て驚いた。一人暮らしの比じゃない。

 なにより、振り込まれた給料が衝撃だ。なんであんなに引かれてるの。なんなの、所得税だけじゃないの。年金とか本当にいるの。これに加えて市県民税とか、そら、役所に文句も言いたくなるわ。

 それに、今は断然父親が稼ぎ頭だが、定年まであと十年。再雇用もあるけど、十年後には自分が父親を扶養に入れて、支えていかないといけないのだ。

 振り切るように、液状の卵と調味料を混ぜる。しっかりと、でも泡立たないように。


 卵焼きは、火の通りが早いから好きだ。

 丸いフライパンだから成形に手間取るけど、わりと手慣れたと思う。卵焼き器は、大学で実家を離れた途端、役目を終えたのか姿を消していた。


 包丁で切って、焦げた部分を下にして盛り付ければ、なかなかの見栄えだ。


 一番出来のいいやつを、母親にあげよう。

 

 初任給が入った夜中、ポチした花籠は、五月初旬の忘れた頃に配達された。

 アレンジメントに挿された定番のメッセージを見て、複雑そうな顔をした父親に、ちょっと罪悪感がうずいた。初任給で父親にプレゼントしたのは、そこそこのネクタイだ。父の日は奮発しよう。


 艶のある金色の卵焼きは、ほんのり甘い。母親の味に似ているかと聞かれると、似ているようでちょっと違うとしか言いようがない。味の記憶なんて、ドラマほど確かじゃない。


 レシピ、聞いておけばよかったな。



 できるなら、隣で一緒に作りたかったよ。



 ふと、母親の声が聞こえた気がした。



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