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誰が王妃だって?!

作者: ちすみ



「アイリス・クラウドフォマー、貴様との婚約をこの場で破棄する!」



それは、国王の誕生祭での突然の宣言だった。



「このか弱き令嬢、ソフィア・ランルークに卑劣なことをしていたのはわかっている!」


男の横にいる少女が、驚いたように男を見上げた。

その表情は驚きに満ちている。

それに気づかず男は続けた。



「そんな女をこの国の王妃にするわけにはいかない!!!」



「はぁ?」




何言ってんだこいつ。


誰が王妃だって?!




アイリス・クラウドフォマー




この国のたった一人の“王女”は呆れたように、たった今、婚約破棄を宣言した男、“侯爵家次男”ギルバート・ナーサリを見つめた。











そもそもの話だが、現国王自体が元々、王配である。

先々代の王には数人の子供がいたが、内乱などで命を落としその後王も急死。幸いにして、唯一残された王女は成人しており、この国は女王として即位可能である。又、従兄弟の係であった国王とすでに婚姻を結んでおり、四年後にはアイリスが産まれた。

しかし数年後、第二子出産時に、赤子共々亡くなってしまう。



唯一の王女はまだ幼い。しかしながら、女王の夫は王家の血を引く又従兄弟。

他に継ぐものもいないため、王女の成人まで国王として即位したのだ。



ちなみにこれは、国民の大半が知っているはずの話である。

美談として王配だった自身の立場をよく理解し、王になってからも妃を娶らず、ひたむきに国を考えている良き王となるが、本人はただ後継者争いとか面倒なだけであるのは一部しか知らない。



話はそれたが、幼きころから次期女王として育てられたアイリスは少しばかり口が悪い。これは父の影響だったりする。うん。父が悪い。


それと同時に婚約者も定められた。王妃教育ならぬ王配教育のためである。

それがナーサリ侯爵家次男のギルバートである。

侯爵家で同い年でありながら王家の血が入っていない、そんな理由で選ばれたのであった。



そう、ギルバートが王配となる人物というのも国民の大半が知っている。



しかし、彼は何を勘違いしたのか。



自分が国王になり、アイリスは王妃となると思い込んだというのか?





「…言いたいことはたくさんありますが。まず、そちらのご令嬢に卑劣なことをしていたといいますが、わたくしには覚えがこざいません」


「何を言う!学園で散々直接嫌がらせをしたではないか!授業中に一切話しかけない、無視は当たり前だったと聞いている!俺も確かに見たぞ!」


「…わたくしの間違いではなければランルーク嬢とは学年が違いますので、同じ授業は受けませんよ?」




そもそもの話、授業中なのだから忘れ物をしたとかグループで話し合うとかでもない限り、話しかけないのは普通ではないのか。

無視するも何も普段から彼女に会わないぞ。

それも一つ下の学年である。


そう思い、ソフィアを見ればこちらを見ながら大きく頷いている。


というより、助けを求める表情をしていた。

ギルバートから離れようとしているようだが腰に手をあて引き寄せられていて逃げられないようだ。



「ふん。貴様がやらなくとも取り巻きに命令すれば簡単だろう。常に大勢の生徒に囲まれていた!」


「いや、わたくしに生徒の取り巻きなどおりませんけど」



次期女王ということもあり授業中以外は常にひと回り以上離れた騎士数人が側にいる(今も後ろに控えているんだが)


おかげさまで普通のお友達は皆無である。お友達はだいたいが城通いの貴族の奥方だ。

つまりは学友は皆無である。



「直接嫌がらせをしていたではないか。確かに見たぞ。先程のギルバート様のお言葉です。わたくしがいつどこでランルーク嬢に嫌がらせをしたのでしょうか」


「…揚げ足をとるな!!!」


「あんたが馬鹿なんだよ!!!」


つい本音が出た。

王配教育を受けてるくせになんでこうなったんだ。



「それに貴様は学園祭のときにソフィアに話しかけていたな!それが何よりの証拠だ」


「え、あの。あれはパーティーのドレスをアイリス様に見繕って頂いて、お言葉を頂いただけですよ?」


「そうね。どっかの馬鹿が用意していたドレスを誤解して捨てたせいで沈んでいた彼女を見てられなかったから」


そうなのだ。この馬鹿な婚約者は、彼女が用意したドレスを、わたくしが嫌がらせで差し替えたと判断してその場で切り刻んだのだ。

それを知って、婚約者の責任を取るために、所持していたドレスの中から彼女に似合うものをその場で直して渡したのだ。

後日、ちゃんと採寸した新品を贈っている。



「あと…身分の低い私が発言するのは恐れ多いのですが」


「許します。発言をどうぞ、ランルーク嬢」


「貴様!勝手に指示するな!」


「ありがとうございます、アイリス様。私はアイリス様を始めとした方々に特に嫌がらせなどは受けておりません。無視などは身分の低い者ならある程度は体験することです」


「それもそうね。まずそれを言った本人が挨拶とか無視当たり前だから」


「貴様!ソフィアも嘘をつかなくていい。本当のことをだな…」


「いえ。嘘ではございません。とても申し上げにくいですが、ギルバート様が勝手に間違った判断をされているだけです」


「ソフィア!」


「でなければ、アイリス様を王妃と申し上げないですよね。アイリス様はたった一人の王位継承者なんですから」


なるほど、婚約破棄宣言した時に、何も言わなかったのは驚いていただけか。

周囲の様子を探ると皆が皆、そうだよなぁという雰囲気なのだが目の前の馬鹿は気づいていない。


「何を勝手なことを言うな。俺は、王室から教育を受けてるんだぞ?」


「それは王配としての教育でしょうが。しかも最近、まったく受けていない。わたくしの方があんたの何倍も時間をかけてますけど?」


「だが、王となるのは俺だ。次ぐのは男の役目というのは常識だ!」


「あんたはお母様に謝れ!!この国には何人もの女王がいるのよ!!!」


「先代も合わせて6人ですよね」


「正解です。ランルーク嬢」


ごめんね、ランルーク嬢。この馬鹿。まじで馬鹿に付きまとわれて大変だったね。

ドレスだけじゃ詫びにならない。後で何か見繕っておかないと。


「だ、だが。国王も、王配から王になった。なら俺が最初から王でも…」


「いや、あんたは侯爵家の次男であって王家の血は流れてないでしょうが!!お父様はお母様の又従兄弟であり、王家の血もひいているんだけど!」


「!」



なんで今更気づきましたって顔するの!

侯爵様が泣きそうな顔してこっち見てるぞ。

あと。


お父様がもはや呆れを通り越した無の表情で後ろにいるんだが。


お父様の誕生祭でなにやってんだか。

お父様を「父」と呼ばせてもらえないのに、息子でもないのになぜ強気でいるのか。



「ギルバート・ナーサリ。あなたの立ち振る舞いと、ランルーク嬢に対する過度な勘違いはこの国の王配に相応しいとは思えません。私の方から婚約破棄を申し上げます」


「なっ」


「よろしいですね、お父様」


その言葉に、ギルバート様はやっとお父様がいることに気づいたのか慌てて振り返る。


「あぁ。王配になるという立場にも関わらず、他の娘にうつつを抜かし、あげく王位継承者である娘を王妃に相応しくないとぬかす。本来ならば罪に問うべき問題だ」


「そんな!俺はより良い王になろうと、」


「婚約者がいながら他の娘にうつつを抜かし、しかも勘違いしてるとか、勝手に婚約破棄とかどこがより良い王よ」


「うっ」


「侯爵家の顔もある。侯爵家で再度教育を、施すならば罪には問わん。ただし、当面の婚姻はないと思え」


「…寛大なご配慮、ありがたくお受けします」



侯爵様が前に出て一礼をし、唖然とするギルバート様を連れて出ていった。

そしてお父様が周りを見渡した。



「ふむ。これでこの話は終わりだ。今日はわたしの誕生祭というのに…なんてこと。まぁいい。今宵はこれから楽しんでくれ」



その言葉で、本来の誕生祭の開始だ。


とりあえず、わたくしは目の前にいるランルーク嬢に、最大限のおもてなしをすることにした。













この後、ギルバート様は侯爵の領地で幽閉されたという。

ギルバート様がなぜ王になれると思ったか。単純にお父様が王家でないから自分も王になれると思った。

こいつの王配教育どうなってんだと思ったら話は上の空で聞き流し、自分に都合のいい話しか覚えなかったらしい。

そもそも、お父様、お母様が又従兄弟で血が近いから次は王家の血が交わってない侯爵家が選ばれたはずなんですがね。

学園に入学してから態度が傲慢になっていったからお父様に報告していたし、ランルーク嬢に惚れ込んだという情報は、なんと、侯爵様直々にお父様に伝えられていた。

それもあり、様子を見て婚約解消をするつもりだったがまさかお父様の誕生祭であんな宣言するとは。

だからギルバート様の罪を問わなかったのね。



惚れ込まれたランルーク嬢は何度お断りしても勝手に了承されたと判断されていたそうだ。

だから周りも同情し、だれも嫌がらせなどしていない。

侯爵様がお父様に報告してからはランルーク嬢に護衛をつけたレベルだった。学園祭の件もあったし。


この件で彼女をわたくしの従者として迎え入れた。

いやほら。学園で友人いなかったし。面識あるからいいかな。彼女、男爵家の次女で跡取りでもないし、成績は優秀だったから。

慰謝料含みのつもりで打診したら満面の笑みで了承してくれました。




あと。わたくしの婚姻は隣国の第三王子が婿入りすることになりそうです。

あの場に隣国の代表として居合わせ、その場でお父様に、「両国の良好な関係のためにも次の婚約者にどうでしょうか」と売り込んだと。

その心意気をお父様が気に入って、あっという間に話が進むもんだからつい「私の話をきけ!」って叫んで。

口の悪さを個性と笑ってくれたからまぁいいかと思う日々。




あ、あと。お父様にはわたくしの成人後も国王として頑張ってもらうことになりました。

第三王子が、まだ勉強中なのと、わたくしの経験を積むため。


様子を見て譲位する気でいますが、お母様が亡くなった後、いきなり王位について大変だったらしくゆっくり準備しなさいとのこと。



あと今年の誕生祭がこれなもんで、来年は平和にやりたいとのこと。本音はそれだろ!




おしまい



皆様からの指摘がありましたので

公爵家→侯爵家

王位後継者→王位継承者

に変更しました。


感想、ご指摘、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ソフィアさんがいい味出てました。 [気になる点] 「こいつの王配教育どうなってんだと思ったら話は上の空で聞き流し、 自分に都合のいい話しか覚えなかったらしい。」 本来、この時点で婚約を解消…
[良い点] 馬鹿貴族につきまとわれて困っている立場の弱い令嬢を救い出す王位継承者のヒーロー 王道ですね、尊い ランルーク嬢の反応や言動一つ一つが可愛くてよいです [気になる点] 哀愁漂う王様と侯爵様 …
[気になる点] 普通に国家反逆罪に該当するから処刑では? [一言] 王家の血をひく相手を婚約破棄しようとしましてや王家の血を全くひいてもいないのに王になろうとする此れは国家反逆罪に該当しますね。 国…
2020/10/02 18:53 退会済み
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