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機装天使のアポカリプス 〜アイドルヒーローは世界を救う!〜  作者: 早見 羽流
第2章 美少女天使スクリュー・ドライバー
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呪われた力! 大翼のジェミニ登場

「生意気な害獣どもに光の制裁を! AA(アドバンスアクト)――シャイニング・レイ!」


 シルバーくんが手に持った槍を掲げながらそう叫ぶと、ゴゴゴゴッ! という轟音と共に幾筋もの光の柱がチヌークの周囲に出現し、そのまま次々と海面に突き刺さった。水しぶきとともに大海原に機獣の残骸が飛び散る。

 これが第二世代最強天使の必殺技……。恐らく今の攻撃だけでフェアリー級やペガサス級の機獣が相当数仕留められただろう。私も負けていられない。フェニックス級を撃破した関枚(せきひら)姉妹と入れ替わるように前に出ると、私は必殺技を発動した。


「私もいきます! AA――ライトニング・パニッシュ!」


 ――バリバリバリッ!


 私の放った稲妻は海面に大きく広がり、シルバーくんが撃ち漏らした機獣も片っ端から葬った。……ふぅ、相変わらず相当疲れるけど、ライブ配信の視聴数が安定しているのか、今すぐにエネルギー切れになりそうな気配はない。もう一発くらいならなんとか撃てそう。


 シールドの周りに集まっていた機獣たちは、シルバーくんと私の攻撃でほぼ殲滅されたかに思われた。……しかし


「……チッ、やはりか」


 シルバーくんが悪態をつく、海面に浮かぶ仲間の残骸をおしのけるようにして、その下から新たな機獣の群れがわらわらと姿を現したのだ。これではキリがない。


「……ラスティー・ネール。出番だ」


「はーい! 任せといて!」


 私に代わって前に進み出た『ラスティー・ネール』の秋茜(あきせ)さんは、両手を前方に突き出すと、目をつぶってスゥゥっと深呼吸をした。そしてゆっくりと目を開けて


「これもみんなの笑顔のため……AA(アドバンスアクト)――ラヴ・ビーム!」


 ふざけた名前だけど、彼女の必殺技の威力は計り知れない。秋茜さんの両の手からそれぞれ放たれた二条のピンク色の光の筋――ビームは、海面上の機獣に突き刺さり、焼き払う。

 さらに彼女が両手を動かすと、ビームはそのまま向きを変えて敵を切り裂いていった。威力と範囲を兼ね備えた必殺技はさすがアイル・エンタープライズのエース天使(アイドル)を担っているだけのことはある。

 順調に機獣を掃討していたビームだったが、左手から放たれていたビームがある所で一体のクジラを模した大型機獣の背によって受け止められた。


「えっ……?」


 驚愕の表情を浮かべる秋茜さん。彼女も初めての経験なのだろう。すぐさま右手のビームも同じ場所に撃ち込んで、火力で敵の装甲を打ち破ろうとする。しかし、敵はビクともしない。どうなっているの……。


「撃ち方やめ。……どうやら現れたようだな」


 シルバーくんの合図で秋茜さんがビームの照射をやめる。ピンクの光が収まったことで、私は『光学バイザーグラス』を通してその敵の姿をしっかりと確認することができた。

 1km弱くらいは離れているであろうクジラの背に乗っているのは、紫の装甲をまとい、同じく紫の大盾を持った戦士――『未確認』。前戦ったドS女とも、柊里ちゃんが戦った大剣使いとも違う、見たことのないタイプだ。


「クジラの背中に未確認が乗っています! 数は1、大盾を持っています!」


 光学バイザーグラスは私の特権なので、恐らく他のメンバーは私ほど詳細には確認できていない。私はチヌークのローター音に負けないように叫んだ。


「やはりか、アラウンド・ザ・ワールド!」


「うかがみちゃんに指図しないで! わかってるよ、出番でしょ?」


 先程から見せ場がなくてご機嫌ななめのようだった笑鈴が苛立たしげに答えると、秋茜さんを押しのけて出入口から外へ飛び出そうとした。

 しかし、光学バイザーグラスで未確認の姿をチラチラ確認していた私は違和感を覚えた。攻撃を防ぎ終えた敵の大盾が赤く光を放ち始める。

 違う……あれは攻撃を防いだんじゃなくて……吸収した……?


 ――ということは


「危ない! ビームが来ます(・・・・・・・)!」


「「「!?」」」


 機内の空気が一気に冷えきった。笑鈴が背中からドアの取っ手のようなものを取り出した。そして前方で構えると、ガシャンという音がして取っ手から緑色の骨組みが広がり、骨組みの間には同じく緑色のビームの膜が張られた。折りたたみ式の盾だ。


 笑鈴が背中のジェットパックを噴射してチヌークから飛び出すと同時に、未確認が構えた大盾からピンク色のビームが発射された。敵は秋茜さんのビームを吸収し、そのまま反射してきたのだ。

 私は死を覚悟して、咄嗟に隣にいた秋茜さんの腕にすがりついてしまったが、秋茜さんも似たような状態で、私の身体をぎゅっと抱いてくる。……柊里ちゃんが見たら発狂しそうだ。


 しかし、ビームはチヌークを直撃することはなかった。その寸前で笑鈴の構えた盾によって防がれた。でも秋茜さんの放ったビームはかなりの火力だ。いくら笑鈴が第三世代の機装(ギア)だといっても、防御特化ではない笑鈴に受け止めきれるかどうかはわからない。笑鈴はビームの勢いに押されてジリジリとこちらに押し戻されてくる。


「――笑鈴っ!!」


「まだ……まだ死にたくないよっ!!」


「旋回だ!! 回避しろ!!」


 ビームと盾がぶつかり合う轟音、そしてプロペラのローター音の中、私たちは口々に悲鳴を上げた。ピンクの閃光が目の前に迫り、シルバーくんが両手で顔面を覆うような仕草をした。秋茜さんは私を抱きしめながらもビームとの間に自分の身体を入れて庇ってくれようとする。この人意外と優しい……?


 ――バシュンッ!!


 というなにかが吹き飛ぶような音がした。私は今度こそ死んだかと思った。でも、私は生きていた。ビームは笑鈴の盾を吹き飛ばしたものの、そこで照射は終わり、私たちまで届くことはなかった。盾を失った笑鈴は、そのままチヌークの出入口に突っ込んできて、関枚姉妹に受け止められた。が、その体はぐったりとしている。どうやら衝撃で気を失っているらしい。


『センパイ! センパイ! 大丈夫か!? 生きてるか!? 生きてるよな!?』


『大丈夫、生きてるよ。配信で見えるでしょ?』


『今の衝撃でドローンが操縦不能になった』


『なっ!?』


 柊里ちゃんからの念話(テレパシー)に、私は頭を抱えた。ドローンがやられたということは、これ以上ライブ配信の視聴数を増やすことができないということだ。つまり私はこの先、エネルギーの補給を受けずに戦わなければいけない。まだ余裕があるとはいえ、未確認もいるのにこの状況はかなりまずかった。


「クソッ! なんなんだあいつは……」


 シルバーくんが悪態をつくと、秋茜さんが私の身体から手を離して、彼の肩にポンと手を乗せた。


「あれが『未確認』、一筋縄でいく相手じゃないんだよっ」


 第二世代最強だとチヤホヤされていたシルバーくんにとって、戦ったことがない未確認を少なからず甘く見ていた部分があったのかもしれない。何度か笑鈴に未確認が撃退されていることから考えても、笑鈴さえいればなんとかなると思っていたのだろう。だが相手は第一世代とはいえ、たった五体で天使52人を葬った難敵だということに変わりはなかった。


「アラウンド・ザ・ワールドはもう戦えないか……我々だけで奴をなんとかするしかないな」


 いや――違う。私は窓から周囲を見回した。


「いいえ、それだけではありません。――囲まれています」


「なんだと!?」


 もう完全に余裕を失ったシルバーくんが窓に張り付く。窓の外にはチヌークの周囲を囲むように飛んでいる四体のドラゴン級機獣と、その背に乗っている未確認たちの姿があった。クジラに乗っているものも含めて合計五体の未確認。そのうちの一体が、ドラゴン級の背中から大翼を広げて飛び立ち、こちらに向かってきた。


「やぁやぁ、人類(にんげん)諸君ご機嫌よう! わざわざ来てくれて悪いねー! 僕の名前はジェミニ。早速だけど、さっきのおもてなしは気に入ってもらえたかな?」


 大翼の未確認はチヌークの出入口近くの空中で滞空すると、子供のような甲高い声を合成音声にしたような声でこちらに呼びかけてきた。


「我々がお前らごとき害獣に屈するとでも思っているのか?」


 シルバーくんが不敵に言い返すが、その体は小刻みに震えていた。


「いや別にどーでもいいんだけどね。どうせ死ぬなら楽しんで死んだ方がいいでしょ? だからさっきのは僕とカプリコーンからのプレゼントってわけ」


「……馬鹿にしやがって――」


「ふーん、まだ満足できてないみたいだね? 大丈夫、ここで終わらせるわけないよ。もーっと楽しんでもらわないとね! さあ、ショーターイム♪ あははははっ!」


 ジェミニと名乗った未確認はパチンと指を鳴らすと、笑い声を上げながら遠ざかって行った。と、同時に気を失っていた笑鈴がゴホッゴホッと咳き込んで目を開けた。


「――て」


「どうしました?」


「なにか言いましたか?」


 目を覚ますなり何かを訴えようとした笑鈴の口元に耳を近づけて、関枚姉妹が首を傾げる。でも様子がおかしい。笑鈴の息は荒くて、顔は紅潮している。熱にでもうなされているような感じだ。


「――いっ、だめっ!」


「……?」


「我慢……できない! はやく、わたしから離れて(・・・・・・・・)!」


 笑鈴が悲痛な叫びを上げると、関枚姉妹が背中に手を回して片手剣を引き抜く。……がそれよりも早く、笑鈴が両手に構えた剣が二人の胸を貫いていた。機装のパーツや血が飛び散る。秋茜さんがひいっと小さく息を漏らした。


「……ぐっ、うかがみちゃん」


「う、裏切ったんですか……」


「ち、ちが……あぁぁぁぁぁぁっ!?」


 信じられないといった表情の関枚姉妹。笑鈴は我を忘れたように叫び声を上げた。あれは明らかにおかしい。なにかに操られている……?


「笑鈴ーっ!!」


 私はかつての仲間(とも)の名前を叫びながら突進した。どちらにせよこのまま笑鈴を放置しておく訳にはいかない。私が咄嗟にとった行動は、笑鈴を仲間たちから引き離すこと。狙い通りタックルが決まって、私と笑鈴はもつれ合いながらチヌークから落下していった。






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