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囁きの森

真っ先に視界に入ってきたのは木目の入った巨大な壁だった。柚希の周りには木々が生い茂り、薄暗い。夜なわけではないようだ。木々の隙間からうっすらと光がこぼれている。しかし、地面を照らせるほどの強さはなく、草にうっすらと膜を張るみたいに広がっているだけだった。柚希たちが立っている場所も踏みしめられていたような跡はなく、人が近づかないほどに森の深いところみたいだった。


「ニア、此処はどこだ」


「ここは、囁きの森の奥ですね。精霊の住処となっている森です。人族には精霊が見えませんのでどこからともなく声が聞こえてくるこの森はそう呼ばれています」


「ふーん、精霊ねぇ」


先ほどから柚希の周りを飛びまわるものがいた。羽虫かと思い、はたき落そうとしたが今の話を聞いて精霊かと納得する。そして何故か柚希には本来見えないはずの精霊がしっかりと見えていた。手のひらに乗る大きさまで人を小さくしたかのような造形に、背には蝶の羽を細くしたような羽が生えている。


「俺の周りを飛んでいるのは精霊か? 妖精って感じなんだが」


「そうですね。柚希様のおっしゃった通り妖精です。しかし、精霊の一種ではありますのでどちらでも同じですよ」


未だ柚希の周りを飛ぶ精霊たちは、この薄暗い森でも容姿が見える程に光っていた。これは精霊が光っているのではなく、精霊は羽にも魔力が通っているので薄い羽から魔力の光が漏れ出ているためだ。精霊は人族たちとは違い、魔力に属性を持つので様々な色が飛び交っていた。


「なにしにきたのー?」

「いきなりあらわれたー」

「まほうー?」

「にんげんー」

「どうするー?」

「どうするー」


精霊たちは口々に言葉を発していた。会話をしているわけでもなく、はたまた柚希に話しかけているわけでもないようだ。


「おい、精霊。ここはなんだ」


「しゃべったー」

「にんげんしゃべったー」

「みえてるのー?」

「こわいー?」

「どうするー?」

「レメさまー?」


「「「「「「にげるー」」」」」」


「ちょっ、おい!!」


一斉に飛び去って行く精霊たち。目の前の壁に吸い込まれるように消えていった。精霊たちは小さいうえになかなか速く、隙をつかれたような今の状況では柚希は捕まえることができなかった。


「なんなんだよ」


とりあえず柚希たちは森に不自然に建てられたような壁に沿って歩いていくことにした。壁を一度鑑定してみたが弾かれて何も知ることができなかった。そしてその表面には魔力障壁が張られているようで、触れないように進んでいく。森に深いところとあってか小学生低学年ほどに背丈の高い草が生い茂っているためなかなか進みにくい。柚希の持ってる『変質』のスキルで作り替えてしまおうかとも思ったが、この壁の向こう、おそらく何らかの国に目を付けられるのも嫌なので我慢しながらかき分けて進んでいた。


精霊たちとの会話から10分ほど進んだところで人らしき影が見えてきた。


「ニア、一旦様子を見よう」


「はい」


柚希たちは草に隠れて、その隙間から覗いて観察する。鎧を纏った門番らしき人物が二人。その後ろには大きな木の門があるが閉じられていて中の様子を知ることができない。その前には舗装された道があり、こんな森の奥でもどこかとの交流はあるようだ。


「あの耳は……エルフか?」


「そうです。どうやらエルフたちの国についてしまったようですね」


「エルフと人族って確かクソ仲が悪かったんじゃ……」


「はい、私も知識としてしか持っていませんが、100年ほど前まではエルフも人族の領土で暮らしていたようです。しかし、その時代の人族の王が気に入ったエルフの女に逃げられたとかで奴隷制度を復活させて捕えようとしてエルフと戦争になったとか。不干渉の協定を一方的に人族側が反故にしたようです。エルフは比較的美男美女が多いため未だに奴隷制度は解除されていず、奴隷には獣人族たち亜人と呼ばれている人々も対象になっています」


「ちっ、腐っていたのは人族の国そのものだったか。胸糞わりぃ話だ。てか、この世界にはあの幼女といいそのクソ王といい頭悪い奴しかいねぇのか……」


呟いたそのとき草の向こうから声が飛んでくる。


「おい、そこにいるのはわかっている!! 誰だ! 姿をあらわせ!!」


どうやら見つかってしまったらしい。エルフ二人は武器をこちらに向けて戦闘態勢に入っている。バレていては仕方がないので両手を上げて降参のポーズをとりながら門番たちの前に姿を見せた。


「なっ! 人間だと!……そうかお前たちが報告にあった人間か!! おい、早くレメ様にお伝えしろ」


片方の門番が門の中へと消えていった。


あれからさほど時間が経っていないにも関わらず情報が行っているとは、すごい情報網である。おそらくあの精霊たちが何かしたのだろう。


「『報告にあった人間か!!』なんて言われてもその報告知らねぇよ。まぁ、俺たちは一応人間だ」


世界的に受け容れられなくても自分はまだ人間でありたい、柚希の切実な願いである。


「何をしに来た!! 攫って奴隷にでもする気か!!」


「そんなつもりはねぇよ。俺たちはここに飛ばされてきたんだ。たまたまついたらこの国だった、ただそれだけだ」


「そんなこと信じられるか!! そうやって今までのように攫って行く気だろう!!」


「うわぁ、ぜってぇ信用してくれねぇやつだよ、ったく……。いつか……ファスムだっけ、あの国滅ぼしてやる」


自分が信用してもらえないのはエルフと戦争を起こしたどこぞのバカのせいということで、滅ぼすことを誓った柚希だった。

一回捕まるしかねぇかなと考えていた柚希だったが、此処で門の中から一人の女性エルフが姿を現した。


「武器を下ろしなさい。大丈夫です。その人族が言っていることは本当です」


「しかし、レメ様、人間は……!!」


「大丈夫です。私の目がそう言っています。それにあの人族の後ろに控えているのはおそらく魔道兵器……あの方と同じということです」


「魔道兵器……!!? まさか2人目が!?」


「そういうことです」


話を勝手に進められているのを傍観していた柚希がもう待てないというように口を開いた。


「身内で完結させないでもらえるか……? そろそろこの腕が限界なんだが。結局俺たちはどうしたらいいんだ?」


「あなた達には城に来ていただきます。大丈夫です、客人としてもてなしますのでご安心を。申し遅れました、私、この国ルタリアで宰相を務めておりますレメと申します。お見知りおきを」


きれいなお辞儀をしてくるレメに対し、吊りそうだった腕をほぐしながら柚希は答えた。


「俺はゆz……いや、ユーズだ。こっちはニア」


「ニアです。ユーズ様にお仕えしているメイドです」


「では、こちらへ」


門へと進むレメの後ろに続いて柚希たちも歩き出した。






















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