新たな旅立ち
「さて、どうやって探したものか……。その方法が分かんねぇから俺はこんな場所を徘徊していたんだっけな」
放り出されてから目的を見失うまで彷徨っていた柚希には、この世界での冒険は軽くトラウマ物である。
少し考えた柚希だったが、ステータスに追加されたとあるスキルを思い出した。
「『気配察知』あんじゃん」
前の戦闘で得たスキル。今の察知可能範囲は2.5㎞だ。『ナディア』では大活躍間違いなしのスキルではあるが、ここの全体の広さは未知である。
「この広すぎる場所で2.5㎞は心許ねぇな……発動させながら進むか……」
柚希は『気配察知』を発動させながら、フィールドを走り始めた。
2時間ほどだろうか。移動していると察知可能範囲の隅の方で、明らかに魔物とは違う気配を読み取った。柚希はすぐさま方向を変え、移動を再開する。
魔物を蹴散らしながら進むこと数分、気配のした場所へとたどり着いた。そこには座り込んで動かない女の子の姿がある。一応警戒して近づいて、肩もゆすってみたが反応はなかった。おそらくこの子が魔道兵器なのだろう。
「普通の人間にしか見えないが……てか、なんでメイド服なんだ」
その少女はなぜかメイド服を身にまとっていた。白い世界でより輝く白銀の髪に、魔法神と同じくらいの美貌を兼ね備えている。
魔道兵器という物騒な名前にメイド服というのはどうかと思うが、美少女なのでスルーする。
「魔力を込めるんだっけか。どこに込めればいいんだ?」
早速問題が浮上する。服の下などにあったら大問題だ。性格が変わってしまった柚希でも流石に尊厳は弁えているつもりである。
とりあえず見えるところから探してみるかと魔道兵器の周りをぐるっと回ってみると、首元に小さな魔法陣が描かれているのを見つけた。
「なるほど、此処に込めればいいのか」
そう言って魔法陣に手を翳すと、柚希の身体の中から何かを吸い取られるような感覚を覚えた。手のひらから魔法陣に向かって黒い魔力が流れ込んでいく。
この魔力の色は柚希特有の色であり、普通の人の魔力の色は基本的に白だ。呪禍が柚希の体内に影響を及ぼし、体の中を流れる魔力の色が変化したのだ。
魔力を流し始めて数分経ったが動く気配がない。込めるところを間違えたかと思うが見た感じそこ以外に無いし、魔力が吸われる感覚もある。
(これ、何回にもわたってやらなきゃいけないやつか……?)
めんどくせぇと思うが、ここから出るためにはやるしかない。しかも1分ごとに結構な量の魔力を持っていかれる。
魔力を流し始めて1時間ほどが経過した。すると、魔道兵器の身体を淡い光が包み込み始めた。重力に逆らうように上へと螺旋状に流れる光が幻想的である。
しばらくして光がやんだかと思うと、これで最後だと言わんばかりに柚希は一気に魔力を抜き取られる。
(これはまずい……!!)
手を引っ込めた時には一足遅かった。だんだん意識が薄れていく。そのまま柚希は魔道兵器の横に倒れ込むようにして気を失った。
「ん……、あぁ、そうですか私は……」
隣に横たわる柚希を見つけ、柔らかな笑みを零す。
「やはり、マスターの魔力は暖かいですね。あの時と同じように」
少女は柚希の頭を抱えて自分の太ももの上に乗せ、マスターが目を覚ますのをじっと待った。
後頭部が柔らかいものに包み込まれるような感触がする。この何もない世界に来た時に感じた、あの暖かな光のような感覚だった。
「……なんだこれは」
柚希が発した第一声はそれだった。目を覚ましたらメイド服の美少女に膝枕をされていたのだから無理はない。そしてその手は柚希の額に置かれ、動いていた。つまりは撫でられていたのだ。
「気分はいかがですか? マスター」
何事もないかのように問いかけてくる美少女メイド。
「あ、あぁ、もう大丈夫だ」
そう言って起き上がろうとする柚希の身体を魔道兵器が支えてくれる。まだ少しふらついていたため柚希にとってはありがたかった。
立ち上がった柚希は、同じように立った魔道兵器と向かい合う。
先に口を開いたのは魔道兵器だった。
「改めまして、マスター。私は魔道兵器でございます」
お腹の前で手を組んできれいなお辞儀をしてくる魔道兵器。
「あぁ、速水柚希だ。マスターはやめてくれ。柚希でいい。なんかむず痒い。それとお前は俺の敵になりうるか? もしそうなら容赦はせんが」
「いえ、そのようなことは断じてありません」
軽い威圧を言葉に乗せて聞く柚希。それを魔道兵器は難なく受け流し、即答した。
「そうか、まぁ信じよう。俺を助けてくれたしな」
「いえ、当然のことです」
「そんで魔道兵器は……てか、名前はないのか? 呼びづらいんだが」
「それでしたら柚希様が名付けてくださいませ」
名付けなんかやったことないんだがと思いつつもこれから常にそばにいるであろう人?物なので真剣に考えることにする。
(まぁ、メイド服着ているし、側近みたいなものか……。だったら……)
「んじゃぁ、お前の名前は『ニア』だ」
「わかりました。私はこれからニアと名乗らせていただきます」
機械に感情があるのかはわからないがニアはどことなく嬉しそうだった。どうやら名付けは成功したらしい。言わないとは思うが、「こんな名前は嫌です」なんて言われようものなら、泣きながら逃走を図ったに違いない。
「お前は出会ったときから俺をマスターと呼んでいたな。なぜだ?」
「私が目覚めたときに以前のマスターと同じ魂を検索した結果、該当したのが柚希様でした。しかし、以前のマスターに関する情報は制限により一部が開示できないようになっています。そのため、私にも記憶が残っていません。以前のマスターが施したものかと」
「それは俺の権限でも開示することはできないのか? あとニアは何ができる?」
「すみません、高度な術式が組み込まれているようです。現在のマスターでは開示することは不可能かと……。私は、兵器ですので戦闘では力になれると思います。また、一部制限はありますが『ナディア』の情報を閲覧することができます。」
「それならいい。そんなに興味があるわけでもないしな。それとお前がものすごく役に立つことはわかった。とりあえずこの苛立たしいほど白しかない世界から出たいんだが」
「わかりました。しかし、こちらから『ナディア』へは干渉することができず、座標を設定できません。転送場所はランダムになりますがよろしいですか?」
「あぁ、構わない。あのクソ王国に戻る確率が減るのならな」
「わかりました。それでは空間の裂け目を開きます」
(まぁ、関わるかどうかはわからんが……そんときには)
「俺を貶めた大臣と勇者には死ぬのがぬるいような絶望を味合わせてやるよ」
柚希の口元がにやりと歪んだと同時に裂け目に呑み込まれ、二人はこの世界から姿を消した。
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