幼女(あほ)と本来の目的
「へぶっ」
女の子が出してはいけないような声がこの部屋によく響いた。祭壇の後ろはほぼ絶壁。そしてそこそこ高さがあった祭壇から落ちたのだ。棺ごと。
「こらぁぁぁ!! 何をするのじゃ、お主! そしてその顔!! いたいけな少女を蹴落としておいて、なんだその目は!!」
逆さに落ちた棺の下から顔を出して怒る少女。柚希にとって幼女が怒っているだけだ。全然怖くない。それに自らを「いたいけ」などと言っている奴ほど可愛らしさなど皆無なのだ。そもそも「のじゃロリ」は阿保みたいに年がいっているのはお約束だろうと柚希は思っている。
「うるさい。何が快眠、何がガーディアンだ! こっちは何もない世界を頭がおかしくなるような時間ずっと彷徨って、黒い扉が現れたから希望だと縋ってみれば訳分かんねぇほど強い怪物と戦わされたんだぞ! 謝れ!!」
ほとんど柚希の八つ当たりに等しい暴論ではあるが、切羽詰まっていた柚希には仕方のないことだろう。そんなことは知りもしない幼女は柚希に言葉を返す。
「な、なんじゃと! そんなの眠りを妨げられた妾のほうが迷惑を被ったのじゃ! お主が謝れ!」
「よく寝たとかほざいていただろうが」
「うっ……」
幼女は言葉に詰まる。
「そ、それよりもお主、なにもない世界から来たと言ったかの? 誰も入れないはずなのじゃが……」
(話逸らしやがった)
少し気まずそうな顔をしながら話を逸らす幼女。柚希は幼女にもの言いたげな目を向けるが、話がしたいので数秒だけにする。
「まぁいい。誰も入れないはずはないだろう。現に俺はそこを徘徊していたわけだし」
「なんでお主はそこにいたのじゃ?」
「あー、それは……なんでだったか。すまん、忘れた」
頭の中を探してみるがどうも思い出せない。
「そこが大事ではないのかの……」
「仕方ねぇだろ。もう生気すら失いかけていたんだから。いずれ思い出すだろ。それよりこの部屋はなんだ。いきなり現れたんだが」
「この部屋は妾の睡眠部屋……と言いたいところじゃが、封印部屋じゃ。妾を封印しておくためのな」
幼女の顔に少しだけ影が差したのを読み取ったがスルーする。
「そういえばお前はなんだ、封印されるってことはただ者じゃないんだろ?」
「なんだとはこちらのセリフじゃが……妾は魔法神ウルじゃ。外の世界『ナディア』では魔神と呼ばれておる。お主が倒したのは妾の封印を守るためのガーディアンじゃな。本当はお主に感謝せねばならぬ。封印を解いてくれてありがとうなのじゃ」
(魔神か……解いちゃいけねぇもの解いちまったんじゃねぇか? 無防備なうちに……殺るか……?)
「おい、お主。今よからぬことを考えたじゃろ……。魔神とは言っても魔法神じゃ! 悪事など働いておらぬ!!」
「じゃあ、なんで封印なんかされてたんだ?」
「うぐっ……それはその……」
ウルは言葉に詰まりながら話し出した。魔法神ウルはもともと、魔法に長けた種族、「魔族」に崇められていたらしい。しかし、魔族と人族が戦争を起こし、人族が「勇者召喚」を行った。その力は魔族からしてみれば凄まじいものだったらしい。そして勇者と魔王がぶつかり、魔王が討たれる寸前にこう言ったそうだ。
「我らにはまだ魔神様がついておる。せいぜい足掻くんだな」
この戦いを見ていた魔法神ウルは、「面白そうじゃ、乗っかってやろう」という軽いノリで勇者の前に現れ、
「よくも妾のかわいい眷属たちを!! 消し炭にしてやるわぁぁぁ!!!!」
そのまま魔法をぶっ放して加減に失敗し、大陸のほとんどを更地にして、ナディアの発展を数千年遅らせたとして神々に封印されたらしい。
(……)
柚希はあほすぎる理由に言葉が出ない。そしてこの幼女のせいで犠牲になった人族や魔族は沢山いただろうに。
神はもっと利口だと思っていた柚希だが、このときから神に対する認識を改めなければならないらしい。
「そ、その目を辞めんか! 若気の至りじゃ! それよりもお主はなんじゃ? 見たところ人族のようじゃが」
若気の至りで大陸が更地になるのなら、いままでに何度世界が滅んだことか。
「速水ゆず……いや、こっちの世界ではユズキ=ハヤミか。勇者召喚で地球から呼ばれた。濡れ衣を着せられて捨てられたんだ……が……あ、思いだした。そういえば、魔道兵器がこの世界に引きずり込んだとか言っていたな、俺を助けるために」
ウルは考えるようなそぶりを見せ口を開いた。
「そうか、勇者じゃったか。それに魔道兵器……。おおかた魔力で動く兵器か? いや、意思疎通ができるのならば機械人形か何かかの?」
「まぁ、そのようなことを言っていた気がするな。その口ぶりからすると知らないみたいだな」
「すまぬ、妾が封印される前までの情報は全て揃っておるのじゃが……それ以降にできたと考えた方が良さそうじゃの。それに、この世界に干渉できるとなると相当高位の者が創った可能性があるの」
「ふーん、そうか。まぁ詳しいことはわからねぇんだろ?」
「そうじゃの。それで気になっていたのじゃが……その魔道兵器とやらはどこにおるのかの?」
柚希はウルから目を逸らしながら答える。
「あっ……そいえば魔力が切れているから探してくれって……やべっ……助けてもらったし敵じゃねぇみたいだから探しに行くとするか……」
「お主、忘れておったな?」
ウルはジト目を柚希に向ける。先ほど柚希がウルにしたように数秒間たっぷりと。
「……だから仕方がなかったって言ったろ」
「はぁ、とりあえずここを出ていくのじゃろ? お主には妾の加護を授けよう。それと扉はもう開いてるはずじゃ。すぐにでも出れるじゃろう」
「お前は出ねーのか?」
「多分、妾の封印が解けるのはまだ先じゃろう。今回のはイレギュラーなことじゃろうて。反省はしておるし罰はしっかりと遂行しようと思っての。適当なガーディアンを置いてもうひと眠りするのじゃ」
お前寝たいだけだろとは口に出さない。
「んじゃーな。まぁ、会うことは滅多にねぇだろうが」
「お主も達者での」
そう言ってウルは下から引っ張て来た棺の中に入り蓋を閉めた。
「さて、俺も行くか」
柚希はそう呟いて黒い大扉を押し開け、再び白い世界へ戻るのだった。
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