叛逆者
柚希の体を優しく包み込むのは暖かな光。なんて心地よいのだろう。
あぁ、これで《マ……ー》死ねるの《……スター》なら、本も《マスター!!》
頭に響いた何者かの声で柚希は目を覚ました。周りに広がるのは白、白、白。白以外に何もない。自分が踏んで汚すのを躊躇うほどに純白が支配していた。
「ここは……? 確か僕はあのとき……」
ピリッとする痛みがが柚希の頭にはしった。
「あれ? 思い出せない……?」
《体調のほうはいかがですか? マスター》
「うわっ!!」
突如響いた声で驚きの声を上げる。しかし、先ほど周りには誰もいないことを確認済みだ。もちろん再度見渡してみても誰もいない。
「今のは……?」
《マスター、貴方様の頭の中に話しかけています》
ファンタジーはどこまで行ってもファンタジーらしい。
「えっと……どちら様ですか?」
《私は魔道兵器です。魔力で動く機械人形とでも思っていていただければ結構です》
魔道兵器……異世界にはそんなものまであるのかと思いながらも、此処はどこで自分はなぜこのような場所にいるのかを知りたい柚希。
「ここはどこなんですか? どうして僕はここに……?」
《ここは狭間の世界。世界の時間と時間の隙間に存在する、停滞した世界です。そして貴方様は騎士たちに追われ満身創痍だったところを、私がこの世界に引きずり込んだのです》
「そうか、僕はあのとき……」
自然と薄い膜が柚希の目を覆った。視界が歪んで見える。国に嵌められ、味方のはずのクラスメイト達には裏切られた。狭かったが、安定した居場所はもうどこにもないのだ。
「これから僕はどうすれば……」
《マスターにはこの世界で私を見つけてほしいのです。空間に干渉した私は動力源である魔力をほとんど失ってしまい動けずにいます。残った僅かな魔力で貴方様に話しかけているのです。私には自力で魔力を回復する手段がありません。そして、そろそろ魔力が尽きてしまいます》
「……わかりました」
《ありがとうございます。それではそろそろ……。それともう一つ、この世界には魔物の他に僅かな……生……応がひと……ます。気をつ……》
「えっ、あっ、ちょっと……」
魔道兵器との通信が乱れ、途中で切れた。
この後、魔道兵器からの通信はなく、おそらく魔力が尽きたのだろう。
「何もないからどっちに行けばいいかもわからないな。広さもわかんないし……とりあえず進もうか」
立ち上がった柚希は、そのまま真っすぐ歩いて行った。
「何もない……なさすぎる」
何時間経ったのだろうか。いや、何日かそれとも何ヶ月か。
柚希は時間感覚を失っていた。方向感覚は元からない。食べなくても腹は減らないが、不安と恐怖からか喉は水分を求める。
下を見ながら歩き続ける。そして少し時間が経つと、何か変化がないか淡い期待を心に浮かべ上を向く。何も変わらず、ただの白がこの世界を支配していた。今の柚希にとって白は絶望の色である。
「あぁ、魔物だ……」
見飽きていた。この世界の魔物は外の世界と比べ物にならないくらい強いが、倒せないほどではなかった。
この世界では幾ら魔物を倒してもステータスは上がらない。経験値は溜まっているようだが、以前のステータスのまま「停滞」している。
慣れた手つきで魔物を倒し、また下を向いて歩き始めた。
「何をしてるんだっけ……僕は、何を探しているんだっけ……」
目にはもう生気は宿っていなかった。
また「果て」だ。
歩いていくと壁のようなものに触れた感覚がある。柚希はそれを「果て」と呼んでいる。
柚希は違う方向を向いて、再び歩き出そうとする。しかし、今までにはなかったものがそこに存在していた。
「とび……ら……?」
そこにはこの白い世界によく映えた黒の扉があった。扉に近づいていく。柚希はもうこれに縋るしかない。ここが目指した場所なのだろうか。ここが自分の終着点なのだろうか。柚希は手を伸ばし扉を開けた。
扉の先は外とは対称的に暗いが、見えないほどではない。白に慣れすぎた柚希の目が慣れるのには時間がかかった。
石垣に使われるような大きな石が敷き詰められて作られたような部屋だ。側面には松明が列をなして並んでおり、火が灯っている。
中を進んでいくと、祭壇のようなものが見えてくる。その中心には装飾が施された木の棺のようなものが置かれていた。
柚希は祭壇に近づき上ろうと、石の階段に足をかけた。
「ッ……」
突如として揺れが柚希を襲い、上ることができない。後ろでは扉が閉まるような音がした。
足を縺れさせ柚希はその場に座り込んでしまった。
ゾワァッ……
その直後に感じる悪寒。
柚希は体の震えが止まらない。頭がガンガン警鐘を鳴らしている。
GYAAAAAA
大気が鳴き、それが部屋を揺らした。
柚希が必死に顔を上げ、見た先にいたのは異形の怪物。
魔物と呼んでいいのかすらわからないほど悍ましい姿をした怪物がそこにいた。
「な、な……」
恐怖のあまり言葉にならない。
目は顔と思しき場所に複数あり、それぞれが向く方向が違う。この様子だと後ろにも目があるかもしれない。
体は蜘蛛のようになっており、足が十本近くある。怪物を構成するものは、ギョロギョロ動く目と裂けた口以外は金属でできているようだ。
柚希は震えて力が入らない足を無理やり立たせ少しでも動けるようにする。
(こ、こんなの勝てるビジョンが見えない……)
そして、逃げようにも閉ざされてしまった扉には期待できそうにない。
(戦うしかないのか……)
魔力障壁を作り、腰にある短剣を抜いて構える。
その直後、怪物が右側の足を動かした。
「ッ……ガハァッ」
同時に衝撃が柚希の身体を横から襲い、そのまま壁に叩きつけられる。血を吐きそのまま床に倒れた。
魔力障壁がなかったらと思うとゾッとする。
柚希は立とうにも立てない。わき腹からも大量に血が溢れている。意識が朦朧としたまま、目を僅かに上にむけると怪物が獲物を追い詰めるようにゆっくりと柚希に近づいていく。
柚希には心なしかその目は笑っているように見えた。
(もう……意識が……)
ここまでなのかな……
そういえば……
「なんで僕がこんな目に……?」
(お前に力がなかったからだ)
心の奥底で何かが産声を上げた。
「なんで……?」
(お前の意思が弱かったからだ)
禍々しいものだと脳は理解しているが、今はこの声が心地いい。柚希の身体を黒い靄のようなものが包み込んでいく。
「なぜ……?」
「俺が……甘かったからだ!」
その瞬間何かがはじけた音が部屋に響いた。身体を覆った靄が頭の中に吸い込まれていく。
これは祝福とは違う。それとは相反するもの。
〈祝福の反転を確認。祝福は呪禍へと反転しました〉
(今生きるためにはどうすればいい?)
「力を得ればいい」
〈呪禍 《叛逆》を獲得しました〉
——————————
―呪禍—
祝福が反転したもの。
―《叛逆》—
力に抗う者に与えられる呪禍。
戦闘を行ったものから任意でスキルを奪うことができる。
格上相手にステータスが2倍になる。
——————————
呪禍のルートは、—LOOT—(略奪)からきているのだろう。
祝福が神から与えられるものならば
「俺は全てを奪う者」
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