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一日ロスか――


 学校に行こうと決めた次の日、その決意は意外な人物に阻まれるのだった――。

 風邪を引いて寝込んでしまったのだ。僕ではない、コマチがだ――。


 ――二〇八八〇円が寝込んじまってどうするんだよ――!


「はあ……はあ……、大丈夫よ、明日にはきっと治るから……」

「だから、その「はあ、はあ」ってやめろよ!」


 お前のセリフ、「はあはあ」が半分以上を占めてるぞ!


「タイムスリップした時に……時空の歪みに酔ったのよ……はあ、はあ」

「嘘つくな。風呂に浸かり過ぎてのぼせて、髪を乾かさないから湯冷めして風邪ひいただけだろ?」

 玄関に何分しゃがんでいたんだ? もっと早く扉を開けていればよかったと……なぜ僕が後悔しないといけないのか!

「はあ~」


 風邪薬なんか家にあったかなあ……。うちはみんな体だけは丈夫だから、インフルエンザにもかかったことがない。

「大丈夫だよ。大丈夫だから心配しないで」

「心配なんかしてねーよ」

 心配なのは一日当たりの日当料金だ。大損害だぞこれは。一日学校に行かないだけで僕の一ヶ月のお小遣い以上の金が吸い取られていく……。

 MP0団体だったらいいが、もしこれが一般学生向けの有料サービスだったら……さらには悪徳商法だったとしたら……最悪だ。


 だが、だからといって本当に熱を出して寝ている女子を追い返す訳にもいかない。母に相談しようにも早朝から仕事に出掛けている。製造ラインで働いているから仕事中には連絡もできない。


 リビングのテーブルには僕の昼食がお弁当になって置いてある。いつでも学校へ行けるように毎日準備してくれているのだ。

 ……申し訳なく思う。本当なら今日、学校へ行こうと思っていたのに……。


「お粥なら食べられるか?」

 作ったことなんて一度もない。土鍋に御飯と水を入れてグツグツ炊けばできるだろう。

「ううん。大丈夫だよ。わたしの食べ物はちゃんと持って来ているの」

 コマチが取り出したのは、小さな白くて丸いお菓子のような錠剤だった。銀色の全身タイツのどこに隠し持っていたのだろうか。

「じゃあ、水持ってくるよ」

「うん」

 持ってくる前にその白いお菓子を口に一粒だけ入れてバリバリと噛み始める。


 水を飲むと少し元気になったのだろうか。身体を布団から起こした。

「ちょっと……あの……」

「どうした?」

「便所借りていい?」

 頬が赤い。

 便所っていう言葉に大きな違和感を感じた。「かわや」じゃないんだ……。

「あ、ああ、いいよ。階段を下りてすぐ横の扉だ」

「ありがとう」

「洋式だけど、使い方は分かる?」

「大丈夫」

 トットットと階段を降りていく。江戸時代に洋式トイレはないだろうと気遣ったつもりだったのだが、熱のせいでか分からないがどうでもいいようだ。


 ……はて、コマチ一人にして良かったのだろうか。


 借家の一階には親の通帳やカードなど貴重品が置いてある。盗まれたりすれば大変だ。だからといって、トイレに行った女子を追いかけてよいものだろうか……。扉の前で見張る必要があるか? 家の壁やトイレの扉は薄くて防音性も悪い……。


 トットットと直ぐに階段を上がってきた。そしてまたモーフを着て横になろうとするコマチに体温計を渡した。

「とりあえず熱だけでも測ってみろよ。もし四十度もあったら大変だから」

「うん。……あっち向いてて」

「え、あ、ああ」

 ――なんで赤くなるんだ僕の頬! コマチの頬が少しだけ赤いのは熱の赤さだ。

 くそ、負けた感。平常心が足りないんだ。こんなことでは駄目だ、もっと大人にならなくては!


 ピピピ、ピピピ。

 音に振り向くと、銀色全身タイツの胸元チャックを下ろして体温計を取り出しているところを見てしまい、慌ててもう一度背中を向けた。

「七度二分だわ……」

「あ、ああ、そうか。なら微熱だな」

 37.2℃なら普通の風邪だろう。動き回らずに寝ていたら治るはずだ。

「じゃあ、今日はベッドで寝ろよ」

 少しだけだが、その言葉を言うのが恥ずかしかった。

「え、いいの?」

「今日だけだぞ。……どうせ母さんは夜まで帰ってこないし、義父さんは単身赴任だから気にすることないから」

「ありがとう」

「僕は隣の部屋でパソコンしているから、なにかあったら呼んで」

「うん」

 それだけ言って部屋を閉めようとした。

「あ、それと、部屋の中をゴソゴソするんじゃないぞ」

 見られたくない物、見られるとやばい物が多々あることに気が付いた。

「大丈夫よ、見ないから心配しないで」

 ……心配だなあ……。

 だが、全裸を見られておいて、他に何を見られれば恥ずかしいというのだろう……。小さい頃のアルバム? 小学校の卒業文集? 刺繍で作った自作お守りは……見られたくない。


 扉を閉めると隣の義父の部屋に入り、パソコンの電源を入れた。

 今日もネットゲームをして一日が過ぎていくのだろう。


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