眠れぬ夜に出た答え
薄明りの中、天井を向いて考えていた。朝起きるのが遅い分、夜はなかなか眠くならない。身体が疲れてないからなおさらだ。
……厨二病って、感染すると本当に現実と妄想の区別もつかなくなってしまうのだろうか。
僕の出した答えはこうだった。
この女の子、赤漆コマチは、僕が学校に行かなくなってしまったから母親が申し込んで呼んだ、日雇い派遣のMP0団体(エム・ピー・ゼロ:民間営利団体)の人なのかもしれない。つまり、僕が学校に行く日まで毎日、「不登校を登校させる更正プログラム」に沿って行動を共にし、僕が学校へ行けるようになれば去っていく……。
危ない危ない。歳も近いし可愛い顔をしているから、てっきり騙されかけた。母が知っているのなら、お風呂場に隠れるのも容易いし、見て見ぬフリをすることもできる。
アニメやネットゲームばかりに興味がある僕にとって、過去や未来から来た同世代の女子なんて……刺激的で、ついついあり得ない話でも信じ込んでしまいそうになる――。面倒臭いことばっかりしやがって……。
だが、一つ気になることがある。MP0団体であれば……。
費用はいったいどうなっているのだろう……。
アルバイトの最低賃金はたしか……時給八七〇円くらいだったはずだ。だとしたら、もし二四時間僕に付きまとったとすると……。
一日あたり二〇八八〇円――! 思わずベッドからガバッと上半身を起こした。
「むにゃむにゃ。もう食べられのうございます」
……寝言までなりきっているのが、若干腹立つ……。いや、そんなことより! これからいったい幾らの出費がかさむのだろうか――。毎日二〇八八〇円ずつこの女子に支払われると考えれば、単身赴任中の義理の父だって怒り狂うだろう。
ちくしょう――。
母はいったい何を考えているんだ――。
女手一つで僕を育てるのに大変だったのは分かる。だからできるだけ迷惑はかけたくなかった。再婚すると言い出したときも、自分の気持ちを押し殺してそれに賛成した。
僕は……どうしたらいいんだ……。
チッ……チッ……チッ……チッ……。百均で買った置き時計の秒針が部屋の中に響き渡る。警戒することもなく床では銀色の全身タイツが眠っている。少し汗ばんでいるようにも見える……。吸湿性も悪そうだ……。
よく他人の部屋なんかで眠れると感心してしまう。警戒していない理由は、僕が内気な性格だってことを事前に聞いて知り尽くしているからだろうか。それとも、もし何らかの危害を加えた場合、けたたましい額の請求ができる制度があるのだろうか……。部屋には盗聴器や隠しカメラがセットされているのかもしれないが……僕はこの一週間、ほとんど部屋にいた。他人が入るどころか、母すら入っていない。
「ううーん」
寝返りをうってこっちを向くと、慌てて僕も寝たフリをした。
「はあ~」
ため息しか出ない。だが僕は心に誓った。
――明日、学校へ行こう。
一日たりとも猶予はない。こんな無駄な出費をさせては駄目だ――。