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清算


 家に帰ると、自分の部屋が広く感じた。


 コマチは何一つこっちの世界に物を置いて行かなかった。

 インビジブル全身タイツは、僕以外の誰にも見えていなかったのかもしれない。


 僕が見ていたのは、ただの幻だったのか? 明日学校へ行くと、あの日と同じように全員が僕を白い目で見るのか?

 コマチと一緒にいた三十日間は、空白の日々だったのか?


 出会ったその時から、本当はコマチが……好きだった。好きで好きでたまらなかった。

 初恋だった――。


 布団の中で枕に顔を強く埋めて――泣いた。涙が止まらないものだと……生まれて初めて気付かされた……。

 未来から来て辛い思いだけをしたコマチは……いったいなんのためにこの時代に来たんだ? 未来の人が辛い思いをしてまで成し遂げなければいけないこととは……いったいなんだったんだ――。



 いつの間にか泣き寝入りしていた。古い蛍光灯器具のジーという音で夜中に目が覚めた。

 他には何の音も聞こえてこない静かな部屋……。

 大きく息を吐き、押入れを開けてコマチが使っていたモーフを上の段へ片付けようとしたとき、小さなメモが畳に舞い落ちた。


 ――手紙だった。

 コマチが言っていた最後の手紙って……これのことだったのか。


『大好きな鷹人へ』


 最初のその部分を読んだだけなのに……字が読めないくらいグニャリと歪んだ――。


『鷹人がこれを読んでいる頃には、わたしはMP0団体の本社に帰社しています。

 次の仕事が入るので、もう鷹人とは会う事も……話す事も……かないません』


 書かれている字を見るだけで……また涙目のコマチが脳裏に浮かんだ。コマチは最後まで僕に嘘をつき通して帰るつもりだったのだろう……。

『消せるボールペンで書いたから、いつかはこの文字は消えてしまいます』

 消せるボールペンって、そういうものじゃないのにな……最後まで勘違いしているコマチに……笑ってしまう……。


『願わくは、鷹人の記憶から消えないこと』


 ……。


『本当のことを書けないのが……ごめんなさい。鷹人を利用ばかりしてゴメンナサイ』


 利用……。コマチが別れの時にも言っていた言葉だ。利用していたのは僕の方のはずなのに、なぜそんなことばかりコマチは……。


『わたしは、もう大丈夫です。明日の夜にはもうここにはいませんが、絶対に探そうとしないでください。絶対に見つかりませんから……』


『最後に、ありがとう。鷹人。

 わたしの大好きな……鷹人』


「う、うわあああー」

 大事な手紙がクシャクシャになってしまうのに、その時はその手紙を強く握りしめて泣き崩れることしかできなかった――。

「あああああ、あああああー」


 ――いったい、なんなんだよ――。

 コマチは……それでよかったのかよ――。


 未来で、いったいなにがあったんだよ――。過去の人間には、未来を知る権利はないのかよ――!


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