見つけた。見つかった
ガードレール沿いを走り続けると日はすっかり西へと沈んだ。
どれだけ走り続けただろうか……ようやく赤い鳥居が見えてきた。
もしもここにコマチがいなければと考えると、気が遠くなりそうな恐怖に胸が締め付けられる。息は上がり、シャツもズボンも汗でベトベトだった。
ポチャン――。
小さくだが、はっきりと音が聞こえ、静かな湖面に丸い波紋が広がった。
――間に合った――。
「おい、なにしてるんだよ。帰れなかったのか」
「――!」
ハアハア荒い息を落ち着かせる。
「ずっと探していたんだぜ。バカだなあ、帰る場所がないのなら、僕の家にこればいいじゃないか」
「……」
「姿を見せろよ、コマチ」
「……いやよ」
背後から声がして後ろを振り返るが、コマチの姿は見えないままだ。
「……泣いているところなんて……見られたくないもの。それに……お別れの手紙……書いた後だから……」
「――手紙?」
そんな手紙、受け取っていないぞ。
「……また嘘ついていたんだけどね、本当はわたし未来でも一人ぼっちなの。帰っても誰にも相手にされないの」
一人ぼっち……。
僕と同じ……なのか? いや、それは違った……僕は一人ぼっちなんかじゃなかった。
家族がいた。友達がいた。先生がいて、他にもたくさんの人に守られていた。
「僕は……未来に一緒に行けるのか?」
「……無理よ。人が過去や未来になんて行けるはずがないでしょ。それに、わたしは未来から来ている訳じゃないの」
「過去からって言うつもりか?」
この期に及んで。
「それも嘘。鷹人の意地悪……最初から信じてなかったくせに」
目を凝らしてもどこにもコマチは見えない。空間の歪みすら見えない。――でも、声だけは目の前から聞こえてくる。手を伸ばせば届くくらいの距離にいる。
きっと見つめ合っている――。
「あの白い錠剤は、わたしの姿と意識をこの時間の空間に定着させ、あたかも人がいるように見せることができる「発色性疑似薬」なの」
「発色性……疑似薬?」
「……うん。未来と過去を人が行き来するには、もっともっと高度な技術が必要で、まだ人間がその姿で過去や未来を行き来することなんてできない。でも、意識や壊れても支障がない錠剤だけなら、特別な装置で過去の空間に送り届ける技術が完成したの」
錠剤と……意識?
「な~んてね。本当はどれだけ凄い技術なんだか分からないんだけど、わたしは無理やりそんな機械に入れられて、意識と薬だけでこの世界に送り込まれたのよ」
「送り込まれた?」
未来から? 無理やり? コマチの言っていることが理解できない――。
コマチはここにいる。今だって話し合っている。なのに……。
「わたしは、未来から来た形のある幽霊のようなもの」
「未来から来た形のある――幽霊?」
「うん。この銀色全身タイツもわたし自身も、鷹人のお風呂のお湯でできていて、表面とわたしの意思だけを錠剤の効力で維持し続けているの」
――お風呂の……お湯?
湖から冷たい風が吹く。
「でも、それももうおしまい。あと数分で薬の効果が切れれば、わたしの意識は二三四五年に戻されてしまうの」
――二三四五年! 実際にコマチが生活している未来は、二三四五年なのか――。