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協力者


 コマチはスマホも持っていない。どこにいるのか分からない。


 コマチには内緒だったが、寝ている時に白い錠剤の数を数えたことがある。

 いつも大切そうにギュッと握って放さずに寝ていた白い錠剤が入った丸い筒状のケース。

 ――昨日、最後の一錠を飲んだはずだ。


 じゃあ、このあとコマチはいったいどうなってしまうんだ? こっちの食べ物は食べられないと言っていた。白い錠剤がどんな作用をもたらすのかさえ僕は知らないが、この時代にいられる時間がほとんど残っていないはずなんだ――。


 コマチはどうして僕の前なんかに現れたんだ? なんのために、なにをしに――。コマチのために僕が利用されただって?

 助けないといけなかったのは、未来でも過去でも――僕でもなく、コマチのほうだったのか――? ならいったい、どうすればいいんだ。

 僕が学校生活を満喫できれば、コマチは幸せになるだと――?

 そんなはずがない――。


 そんなことにすら気付かずに貴重な時間を過ごしていたなんて――。



 未来の人間は寂しさを紛らわすために、今の世界に来て遊んでいるだけなのよ……。

 昔の人達って悩み事や苦労とは無縁で、みんなが生き生きして生活しているって……。


 幻聴のようなコマチの声が聞こえる。頭を強く振った――。

「そんな馬鹿なこと――あるものか!」



 先に帰ったと思っていた菜穂が、駅の改札口から……戻ってきた。

 コマチとのやり取りを見られていたかもしれない。両手で顔を覆って愕然としている僕に声を掛けて……くれる……。


「鷹人……君」

「檜――」

 頭を下げた。

「さっきは……ごめん、どうしても、どうしても……」

 あんなことをしてしまって……。檜は、たぶん僕が男子に見せつけると思っていたようだが、それは違う。

 嘘をついて騙している気がして、打ち明けずにはいられなかった。

「ごめん、本当は、女の子との約束のために、檜をずっと利用していたんだ――」

「許してあげるわ」

 返事が早い!

 ぜんぜん怒る素振りもないところに違和感をもってしまう。


「そのかわり、どういうことなのかをちゃんと話してくれたらね」

「……」


 檜にいきさつを話した。


 ある日突然家に現れた女の子。

 過去からタイムスリップしてきたと言うけれど、過去のことを知らないこと。

 僕が学校に行き、彼女ができるように協力してくれたこと。

 MP0団体じゃなくても、一日数万円が支払われているかもしれない可能性。

 MP0団体はそんな活動していない。両親も知らないと言ったこと。

 そして、最後に「請求書は後日」と告げて、泣いて逃げていったこと。


 目の前から消えたこと――。


 信じてくれるか分からないが、あったことをすべて話した。それが無理やりキスしてしまった謝罪だと思っていた。


「ふーん。分かったわ」

「分かった?」

 僕ですら分からないのに。どうしていいのかすら分からないのに。


「うん。そんなの嘘に決まっているでしょ。MP0団体がお金を取って恋愛成就を見守るはずがないでしょ」


 ……。


「もっと現実をしっかりみたらどう? 本当に、その子の言っていることは信用できないようなことなの?」

 現実を見ようとしても、おかしなことばかりなんだ……。

「なにが本当でなにが嘘なのか……、それすら僕には分からない――」

「たとえば、その子のちょっとした仕草とか癖とかで分からない? 話し方とか、目を見て喋る時と目を見ずにしゃべる時と。人は一緒にいればいるほどお互いの事は分かり合えるはずよ」

「いつも……」

 寂しそうに目を逸らして嘘をついていたんだ。本当にして欲しいこととかは絶対に口に出して言わなかった。

 どことなく寂し気な作り笑いをしているときは、いつも嘘をついていた――。本当のことを言う時だけ――僕の目をしっかり見つめて、まるで怒っているかのように話しかけてきた。


「わたしよりも大切な人でしょ? どこにいるか考えて探してあげて。それがきっと一番の思いやりだと思うわ」

 檜は人の気持ちについて僕やコマチなんかよりもずっと分かっている……。僕達には足りなかった、「人を信用する気持ち」をいっぱい持っている……。


「今までにその子は何度もあなたに嘘をついた。でも、決してあなたを悲しませたくないと思っていた。だったら今度はあなたが助けてあげる番よ。どこかで今も待っているはずよ。思い出の場所とかないの?」

「思い出の場所――」


 二人で行った思い出の場所――。学校と家ぐらいしか行っていない。ローラースケート場は……ここからは遠過ぎる。

 コマチは……水が好きだった。落ちてきたのが風呂なのもそうだが、こっちでは水しか口にしなかった。生きていくために必要な水。

 帰り道、毎日通った湖岸道路。鳥居の間を通すんだって、毎日投げた……平べったい石。


 この遊園地も湖沿いにある。だったら、まだ近くを歩いている――きっと!


「ありがとう檜、ちょっと思い当たる場所があるから行ってみるよ」

「うん。見つかるといいね」


 列車は一時間に一本しか走らない。ここから鳥居まで数キロあるが、走った方が早い。途中で追いつけるかもしれない……。


 もし、僕と会いたくなくて姿を見せてくれなかったら、どうしたらいい? 透明な姿のコマチを、本当に見つけられるのか?


 ――今は悩んでいても仕方がない――なんとしても見つけるんだ!


 未来を――二人の未来を変えるんだ!


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