わたしの未来は変わらなくても
「あーよかった。これでわたしの役目もおしまいね」
遊園地を出て駅の改札口で菜穂を見送ったあと、近くに誰もいないのを確認しながらコマチがひょっこり姿を現した。
銀色の全身タイツにに夕日が映って眩しい。時計の針は六時を回ろうとしている。
閉園後の遊園地から駅までは、もう誰も歩いていない。ここの駅も、数年後には無人駅になり、この遊園地も来年には閉園するそうだ。
「お疲れ様でした。じゃあね」
じゃあねって……。
「おい、じゃあって……」
なんか面白くもない映画を見届けた後のセリフのようだ。他に言いようもあるだろうに。
とりあえずは……コマチにとって任務達成。ミッション成功なのだろう。
「コマチはこれからどうするんだよ」
「ええっと、ほら、次の人が……待ってるのよ。他にも学校に行きたいけれど行けないって人がたくさんいて、そこへ行って一緒に手伝ってあげなきゃいけないのよ」
「MP0団体……か? やっぱりそうだったのか」
親やMP0団体はなにも話してくれなかったが、本人には……秘密だよな。
はあ~っとやるせなさと若干の憤りを交えたため息が出る。だが、これで不明な請求にピリオドが打てると思うと、今は達成感とどことなく安堵の息を吐くことができた。
コマチは……連絡先を教えてくれないだろうな。それでも仕方ない。それでもいいと思いそうになった……この時は。
「うん。背に腹は代えられないでしょ。わたしだって稼がないと生きていけないのよ」
「じゃあ未来や過去の話は?」
「ええ?」
目を丸くして大きな声で笑われた。
「アハハ。そんなとんでも話を本気で信じていたの? 彼女ができてもやっぱり鷹人は子供ね」
クックックと笑うのだが……。様子がおかしい。
まるで作り笑いをしているようで――見ていると辛くなってきた。
「まさか、――また嘘をついてるんじゃないのか?」
「へへ、バレた?」
「――こんにゃろう……また嘘つきやがって……。嘘ばっかりついて、最後の最後まで嘘で誤魔化すつもりかよ――!」
「ご利用ありがとうございました~。請求書は後日郵送いたしま~す」
軽くお辞儀して、背を向けて立ち去ろうとする。
「待てよ!」
「……ごめんなさい。わたしのためだけに利用させてしまって……」
――利用……だって?
「さよなら」
「待てったら!」
走り去るコマチの瞳から、大粒の涙が零れていたのを見逃さなかった。
ここで追い掛けなければ僕は、人生において大切な何かを失ってしまう――。
「コマチ!」
走って後を追いかけた、そして手を伸ばし、コマチの手を取ろうとしたその時、――初めて「インビジブル全身タイツ」の真の性能を目の当たりにした。
チャックを顔の上まで閉めた途端に、銀色の姿をしたコマチは空間から完全に見えなくなってしまった――。
――そんな――!
「コマチ―!」
涙で声がかすんだ。
走り去る音も、息の音さえも完全に消え去った――。