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甘いクレープ


 コマチはもう入園しただろうか……。ひょっとすると、お金も払わずにどこかから忍び込んでいるかもしれない。

 あんなに目立つ銀色全身タイツ姿なのに、いざ隠れると忍者のように気配がなくなる。遊園地内で見つかれば大勢の客に騒がれそうなのだが、今のところ見渡してもそれらしい人だかりはできていない。


 コマチに気を取られていてはいけない。今日は檜と一日楽しそうにデートをして、本当に彼女ができたように演じなければならないのだ。

 乗り物に乗る順番も大体は決めていた。ちょっと穏やかな乗り物から順にならしていき、ジェットコースターはお昼ご飯の前だ。観覧車でのキスシーンも考えたのだが、コマチから見えなかったら意味がないからそこはパスで……。


 チャンスは人が帰り始める閉園前の一瞬だ――。


「次はあれに乗ろうか」

「うん」

 下調べの甲斐があり、檜と僕は本物のカップルのように遊園地を楽しんだ。内心怯えていたジェットコースターも乗ってみるとそれほど怖くなく、むしろそのスピード感に体が興奮した。一瞬だけだが、檜が僕の腕にしがみついていたのは内緒だ。

「あー怖かったね」

「そうか? これくらいなら何回でも乗れるぜ」

「えー凄い! 鷹人君って度胸あるね」

「ハハハ」

 素直に喜んでおこう。度胸なんて……僕なんかには似合わない言葉だ。



 順調なデートだったのだが、突如アクシデントに襲われた。…・…お昼ご飯代がない。アクシデントというよりは計画ミスだ。財布に千円札が入っているのだが……これは檜に払うお金だ。

「お腹空いたね」

「そ、そうだなあ……」

 チラッと財布を見るが、もう千円札が一枚しか入っていない。小銭入れには……ギザギザの付いた十円玉が一枚だけ……。

 檜にお金を持っていないと思われるのが情けなく感じたのだが、

「大丈夫よ、お昼はわたしが奢ってあげるから」

「え?」

「こう見えてもわたしってお嬢様なの。入園料を全部出してくれたんだから、お昼くらいは御馳走するわ」

「檜……」

 自分で自分のことをお嬢様と言い切る檜が、普通に面白いと感じた。「こう見えても」って、いったい僕にはどう見えていると考えているのだろうか。……腹黒く裏表の激しいドS系美少女?

「……お嬢様なら、貧乏人からさらにお金を巻き上げるなと言いたいぞ」

「それは鷹人君が自分から払うって言ったからじゃない」

 怒ることもなくクスクス笑われた。


 ぜんぜん自慢にならないけれど、檜のこんな性格を知っているのは学校で僕だけなのだろう……。お金に貪欲だったり、そのくせ自分で自分のことをお嬢様って言ったり。

 だとすると、檜は学校ではわりと我慢しているのかもしれない。成績優秀で誰にでも好かれるお嬢様を演じ続けなくてはいけないのだ。


 本当は、困っている人をもっと困らせて楽しむタイプなのに……ブルル。


「なにが食べたい?」

「檜の食べたいものでいいよ」

 奢ってもらえるんだから、贅沢も文句も言いません。

「ねえ、わたしのこと菜穂って呼んでよ」

「――え?」

「だって、付き合っているフリをしているんでしょ。だったら名前で呼び合わなくちゃ不自然だわ」

 ……それも今日で終わるのだが……檜はそのことを知らない。

「そうだな。じゃあ、……菜穂」

「やだ、ちょっと照れるじゃない。急にどうしたのよ鷹人!」

 そういって肩をパンと叩かれた。

 本当に映画のワンシーンのようなデートだ。なりきっている! ……菜穂のその演技力はいったいどこで身に付けたスキルなのかと聞きたい。吹奏楽部はこっそり演劇部も掛け持ちで活動しているのだろうか。



 檜がお昼に選んだのは、クレープ屋さんのクレープだった。


 これって、お昼ご飯になるのだろうか……。薄っぺらい生地に白いホイップクリームとバナナやイチゴなどのフルーツ。


 雲のように純白の生クリームは、甘い味がした……。


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