一生忘れない五月の第二日曜日
ついにその日が来た。
昨日から準備していたお気に入りのジーンズに七分丈のシャツを着る。
初デートだ。
なのに、気分が乗らないのはなぜだろう。
「そんな顔してたら、彼女だって楽しめないわよ」
「あ、ああ。コマチこそ嫉妬してデートの邪魔なんかするなよ」
「するわけないでしょ」
「……」
なんか、会話が噛み合わない。
昨日、コマチとキスした感触がまだ唇に残っている。目と目が合うと……すっとコマチが視線を逸らした。今まで平然と見つめ合って話していたことが奇跡かと思うくらい、意識してしまう。
僕達は昨日……キスをした。
唇と唇が合わさった時、二人の間の見えない何かが大きな音を立てて崩壊するような錯覚がした。それは……、
――今日という日が来ても、もうなにも怖くない……そんな錯覚だった――。
列車で二駅離れた所にあるカンコドリ遊園地。切符代を節約するために僕とコマチは朝早くから歩いて向かった。コマチの銀色全身タイツ姿で列車に乗るわけにはいかない。
毎日歩いている通学路を超えてさらに歩き続け、約束の十時になる前に遊園地に辿り着いた。
「コマチはどうやって遊園地に入る気だ?」
「大丈夫よ、遊園地ならこの姿でも園内の人かコスプレイヤーで通用するから怪しまれないでしょ」
「……遊園地代、持ってないだろ」
「大丈夫だってば。経費でなんとかなるのよ。それよりも、鷹人は駅まで彼女を迎えに行きなさいよ」
「あ、ああ」
どんっと両手で背中を押された。
「シャキッとしてがんばって!」
「ああ、当り前さ!」
この日のために僕は頑張ってきたのさ。たくさんの作戦も考えたし、入念な準備もしてきた。コマチには悪いが裏工作だってバッチリさ。
遊園地前の駅に辿り着くのとほぼ同時に、ホームへ入ってきた電車から檜が降りてきた。
「おはよう。鷹人君」
思いっきり明るい挨拶をされると、やはり照れてしまう。
「お、おはよう。檜」
檜の私服姿が大人っぽく、一緒に並んで歩いていいものかとドキドキしてしまう。不釣り合いなくらい僕の服装はダサいかもしれない。
「じゃあさっそく行こうか」
「うん」
遊園地のチケットは僕が二人分買った。カンコドリ遊園地のくせに、大人二名で九千円もするのは、ちょっとした詐欺に騙された気分になる。高い料金のせいで遊園地はいつもガラ空き状態だ。だからといって、値下げをしても人気はでないだろう……。
今日のチケット代と檜に支払う千円で小遣いは底を突く。
どんなに楽しくても――今日、すべてに決着をつけなければならない。