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コマチに内緒ごと


「なにかいいことでもあった?」

「え? いや。あ、ああ」

 なんでコマチはこれほどまで鋭いのだろうか。無言で学校から下校していたのに。

「檜菜穂と今日、ちょっとだけ話をしたんだ」

 怪しい金銭のやり取りについては伏せておく――。

「え、本当に? やっるじゃない、人は見かけによらないのね」

「あのなあ、見かけで人を判断するなよ」

 前髪をパサッとやって恰好をつける。


 ……って、やっていることは見かけよりも情けないのだが……。なんとか正月のお年玉が底をつくまでに目標達成しなくてはいけないのだ。


 ――一日千円で、一日二〇八八〇円にカタをつけなくては――!


「……僕が本当に檜菜穂と付き合ったら、コマチは帰れるんだよな。その……未来か過去かMP0団体へ」

「うん、そうよ」

 笑顔でそう答え悲し気な素振りなどは一切しない。業務遂行に確かな手応えを感じている表情なのが見え見えだ。ちょっとくらい嫉妬してくれてもいいのに……。女の子は思った以上にクールなので嫌になってしまう。


「よーし、それじゃあ、一日でも早く帰れるように協力してやるよ」

「えー、なんか複雑う」

「仕方ないだろ、うちは貧乏なんだから!」

 払えるものなら毎日二〇八八〇円払ってやりたいさ……とは言えなかった。


 コマチみたいな妹が欲しかったとも……言えるわけがなかった。



 郵便受けの下から家の鍵を出すと玄関を開けて上がった。コマチはいつものようにヒタヒタと全身タイツのまま上がる。土足というのだろうか……玄関が土で汚れていないか確認する。母にバレては大変だ。

「それより、お風呂は入らなくていいのか?」

 僕が学校に行っているあいだ、わざわざ隠れて待っている必要などないのだから、その間に家の風呂に入っておけば……と言いかけて止めた。留守中に家の中をウロウロされれば、本当に何か盗まれるかもしれない。

 僕はまだ百パーセントコマチのことを信じている訳じゃない。なんせ、得体の知れない発言が多過ぎる。嘘ばっかりつく……。


「やだ~、また一緒に入りたいの?」

 胸元を隠すお決まりのコマチの仕草にため息が出る……。誰も見ていないよ。そこは。

「あのなあ……」

 コマチの胸は決して大きくない。檜のほうが倍ほど大きい……気がする。コマチの小さな胸なんか、見たいとも思わない――。

「……そうじゃなくて、お前、うちに来た日から風呂に入ってないだろ?」

 「また一緒に」とか言うなよ。頭をブンブン振って浮かび上がってきそうな想像図を振り払う。コマチが来たあの日、一緒に入っていた感など一切なかった。残念と言えば……残念だ。

「安心して、このインビジブル全身タイツは銀イオンがタップリ含まれていて、消臭抗菌! ぜんぜん汗臭くもならないし快適なんだから」

 そう言いながら胸元をパタパタしやがる――!

 中学二年生の男子を、いったいなんだと思っているのか――! 挑発的行為だとは思わないのだろうか。

「うん。まだ大丈夫」

「……まだってどういう意味だと問いたいぞ……」


 女の子の汗って……男の汗みたいに匂うのだろうか?


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