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ただの護衛騎士(仮)と世界を救った大賢者様の娘(偽)  作者: 月野兎姫
第一章 プロローグ 一度の過ちと一枚の金貨の代償
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第3話 謎の木箱と刻まれた紋章

「んっ? なんだアイル、もしかしてもうへばったのか?」

 父さんはボクが手を止めているのをサボっているのと勘違いしているような、そんな口ぶりでそんなことを言ってくる。


「ち、違うよ。ボク、まだまだ全然疲れてはいないよ! でも……あのさ、父さん。これって昨日父さんと確認した木箱なんだよね? なんだか一つ増えてる気がするんだけど……」

 ボクは慌てて訂正しながら、木箱が増えている事を思い切って言ってみた。


 すると父さんは慌てながらもやや怒った口調で、ボクがいる階段下の方までやって来る。

「なんだ? 昨日ちゃんと数を確認しなかったのか? もしかしてアイル……オマエ間違えたのか!?」

「違うってば! 昨日は確かに7箱だけだったんだよ!! それはこのリストに書かれてるんだもん、父さんだって最後にはちゃんと確認するでしょ!」


 ボクは自分のせいではない事を示すよう、名目が書かれたリストを昨日の部分まで開き、父さんの方へと向け見せてみる。いくら護衛騎士の子供とはいえ、さすがにボク一人だけに仕事を任せっきりには絶対しない。父さんは最後には必ず再度確認して仕事を終える。それは昨日も同じことだった。


「まぁ……確かに、な。どれどれそのリスト表を見せてみろ」

 父さんは最初疑ってかかったが、ボクの言葉の意味を把握するとリストを受け取り一つ一つ指で追いながら確認していく。


 確認作業をしている父さんに昨日も数だけはしっかりと確認していたが木箱の隅々まではよく覚えておらず、自信なさげにしながらも紋章のことも告げてみることにした。

「それにさ、父さん。この持ち手部分あたりに隠れるようなおかしな紋章みたいな印があるんだよ。たぶんコレも昨日は無かったと思うんだけど……」

 他の場所の木箱には無いようだからたぶん間違ってはいないと思うのだけれど、確実だという自信は無かった。


「紋章だと? 木箱にか?」

「うん。ほら、ここに……ね? あるでしょ?」

 ボクはしゃがみながら持ち手部分の金具を持ち上げその場所を指差す。父さんもボクに釣られるよう左膝を着きながらそれを確認する。その紋章は赤く何かの花びらを(かたど)ったような形をしていた。花びらが5枚の特徴ある形だったが、生憎ボクにはそれが何の花なのか知らない。


「この紋章はもしかして、ス…………ト・フ…………スなのか? だが何故こんなモノがここに刻まれているんだ?」

「……父さん?」

 父さんはその紋章を見た瞬間、何かを考えるように顎に右手を当て何かを呟いていた。だがその呟きはあまりに小さく、肝心のその紋章の名前らしき部分がボクには何を言っているのか分からなかった。そんないつも冷静なはずの父さんの行動に疑問を思いながら不安になって呼んでみたが、返事は無かった。


「父さ……」

「……アイル。とりあえず中身を確認するぞ! あっちからバールを持って来てくれ!!」

 再度呼ぼうとしたら返事もせず、父さんは木箱の中身を確認するから手伝えと言って来た。ボクは訳も分からずそれに従うことにした。


 本来砲弾は緊急時に使用するため、木箱には釘止めをしない。だがこれは昨日運ばれたばかりだった。通常砲弾などの爆発物を運搬する際には過って蓋が開き、落ちて爆発しないよう釘止めがされているのだ。


「んんっ! な、なんだこの重さは昨日とは比べ物にならないぞ!?」

 普通砲弾が入っている木箱などは大人が二人掛かりでようやく運ぶのだが、力持ちの父さんは一人で持ってしまう。父さんはその内一つを床に置くと再度脇にある紋章を確かめるよう指でなぞっていた。


「はい父さん、コレ!」

 ボクは父さんにバールのようなモノを手渡す。

「んっ。もしかすると中身は砲弾ではないかもしれない。アイル、危険かもしれないから少し離れているんだぞ!」

 ボクは父さんの指示に従い、少し離れて様子を見守ることにした。


「ん、んっ~っと。これはヤケに硬いな」

 ギィギィッ。父さんは上蓋の隙間へとバールの細く曲がっている部分を捻じ込み、てこの原理で力を込めて開けようとしていた。だが普段なら片側だけ開ければすぐに開くはずなのに、普段よりも釘の数が多いのか硬いと感じるらしい。父さんは正面だけでなく、右側左側とバールを捻じ込んで少しずつ開けていく。


 ギィーッ。そしてようやく上蓋を開けることができ、父さんは中身を確認する。ボクも箱の中身が気になってしまい、ついつい近づいて見てしまう。するとそこには……。


「これって……砲弾……だね?」

「ああ、そうだな。中身はちゃんと砲弾のようだな」

 そこにはいつもと同じように砲弾が収められていたのだ。触って確かめてみるが、別に特段変わった様子は無かった。


「うん? だが変だよな? いつもより明らかに入ってる砲弾の数が少ないぞ。普通なら四個は入っているはずなのにこれには二個しかない……なら何でこんなに重いんだ?」

 いつも木箱を運んでいる父さんはその違和感が気になるのか、首を傾げ考えていた。ボクも身を乗り出して中を覗き込んで見ようとする。

「うわっと!? あ、危なかったー」

 だが身長が低いため勢いをつけてから身を乗り出したせいか、危うくでんぐり返しをして木箱の中に入ってしまうところだった。


「こらアイル! 気をつけないと怪我するぞ!!」

「ごめんごめん……ってアレ? この端にあるのは???」

 すると砲弾下の板張りの端っこの方に布切れのような物が挟まっているのを見つけた。もし身を乗り出して木箱手前へと顔を突っ込んでいなければこれには気付かない程、それは小さな布切れの端だった。


「父さん、この隅っこに少しだけ出てるのって布切れじゃないかな? もしかしたらこの木箱なんだけど、板が二重底(・・・)になってるんじゃ……」

「なんだと!? アイルどこだ!! これは……アイル、中の砲弾を取り出してみるから少しだけ離れていろ! 早くっ!!」

 父さんはボクが運良く見つけてしまった(・・・・・・・・)布切れを指で摘まみ確かめると、砲弾を取り出しその板底を確かめると言いボクに退くように言う。普段温厚な父さんとは思えぬ慌てようにボクも慌てて木箱から離れる。


「ん……っと。アイルこれが転がらないよう抑えててくれるか?」

 ゴッ、ゴッ。父さんは箱の中から砲弾を二個取り出し床に置き、ボクにそう声をかけた。

「わ、分かったよ!」

 砲弾は良く飛ぶようにと丸く磨かれているため、床にそのまま置いてしまうと転がってしまう。ボクは床に降ろされた二個の砲弾を両手を使い転がらぬよう抑えながら、木箱を覗き込む父さんの様子を窺う。


「ピッタリと張られているな。ならこれで……」

 底板と横板には布切れ程度の隙間しかなく、とてもじゃないが指は入れらない。父さんは右腰に携えていた小さなナイフを取り出すとその隙間へと差し込みこじ開けるようだ。ボクもその中身が気になり、持っていた木札を砲弾周りに支えとして置いて木箱を見ようとする。


 ガッ、キンッ! 父さんが板の隙間へとナイフを差し込むと木とは明らかに違う、軽い金属音が反響した。

「まさか……」

 父さんにはその音を聞いただけでそれ(・・)が何か分かったような言葉を口にするとナイフを左右へと揺さぶり、底板をこじ開けるよう内側へと力を入れる。


 グッ……グッ……。そのナイフは本来敵に捕まった際などに縛られたロープなどを切る緊急用に使うため、刃が短く厚さも薄い。また底板が硬すぎるのか、それとも単にナイフが強度不足なのか、父さんが内側に力を入れると刃がプルプルと振るえている。


「んっ……これでどうだ?」

 どうにか底板を持ち上げる事ができ、父さんはその隙間へと指を突っ込み持ち上げようとする。


 ガッ……ガッ……ガッ……。だが底板と横板があまりにピッタリとしているため……いや、これはピッタリと言う言葉には当てはまらない。何故なら『例え誰かに見つかっても開けられないよう』にと、わざと木箱よりもやや大きめの底板がはめ込まれていたのだ。


「アイルすまないが、この板を抑えててくれ」

「あっうん」

 そしてどうにか頭を入れられるほど底板が持ち上がると、父さんは頭を突っ込みながら中を調べ始めていた。ボクは板を抑えながら覗き込むとそこには木箱の底一面に茶色い麻布が敷かれていた。


「んっ」

 父さんはその麻布を指で少し摘まみながらナイフの刃を当て横に切る。ビィッ、ビィーッ。布が裂けるような音とともに綺麗に引き裂かれていく。


「これは金貨じゃないか。それもこれほど大量の!?」

「えっ? 金貨って……」

 父さんは今まで聞いた事が無いような驚きの声と共にその隠された中身が金貨であると叫んだ。そしてボクにも見せるように右手に握ったその金貨を差し向けてくれた。それは眩いばかりのコイン状の金貨であり、表面には箱に刻まれているのと同じ紋章が刻印されていたのだった。

挿絵(By みてみん)



 第4話へつづく

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