第1話 アイルの夢と憧れの両親
「父さん、ボクは将来立派なお城の『護衛騎士』になるからね!」
「うん? オマエは何のために護衛騎士になりたいのだ?」
「ボクは父さんと母さんみたいに強くてカッコイイ騎士に憧れてるんだ!」
「まぁ、この子ったら♪」
父さんと母さんはお城を守る護衛騎士として働いていた。そんな二人の姿が子供のボクから見たらとても格好良くて憧れの的になり、今日この日に自分の夢を思い切って打ち明けてみた。だが両親は優しそうな笑顔でボクの頭を撫でるとこんな言葉を口にした。
「アイルよく聞くんだぞ。護衛騎士というのはカッコイイからと言ってなるものではないのだ。この剣はな、オマエの『大切な人』を守るためにあるのだぞ」
「そうよ、そしてこの盾は『仲間』を守るためにあるのよ」
父さんは腰に携えてる剣に目を向け、母さんは右手に持っている盾に目を向けボクにそう語っていた。
「剣は大切な人を守るために……そして盾は仲間を守るために……ある?」
両親にそう言われたのだが、ボクにはその言葉の意味がよく理解できず首を傾げてしまう。
「はっはっはっ。まだ幼いアイルにこんな話は早かったかな?」
「ふふっ。そうかもしれませんわねアナタ。だってアイルはまだ10歳ですもの。きっとこの子も大きくなれば私達が言っていることが理解できるはずですよ」
両親は互いに微笑み、優しそうな目でボクを見ていた。
「おぎゃーおぎゃー」
「おい、赤ん坊が泣いているぞ」
「あらあら大変。ミルクかしらね……」
家中に赤ん坊の鳴き声が響き渡る。ボクは母さんの後を追うように父さんが木で作った揺りかごへと向う。
「どう母さん?」
「ううん。たぶん騒がしかったから起きちゃったみたい。ね?」
母さんはそういうと赤ん坊を抱き抱えた体をゆったりと揺らし、背の低いボクに見えるよう少し前屈みになり寝ている顔を見せてくれた。数日前に生まれたその子はボクの妹で、今はとても安心したようにすぅすぅーっと寝息を立て眠ってしまっている。
「アイル、オマエは兄なのだから妹をちゃんと守るのだぞ。いいな、分かったな?」
「うん!」
父さんはそう言いながらボクの頭を撫でてくれた。父さんの手から伝わる温かさと優しさが心地良くて好きだった。
「そういえば名前は決めたの父さん? もう生まれてから数日も経つよ」
「う、うん。それが……まだなのだ」
生まれてから数日経つと言うのに父さんはまだ妹の名前を決めかねていたのだ。普段剣を持てばカッコイイ父さんなのだが、結婚する際にも母さんの方から言い出した程こうゆう大事な時には優柔不断な人だった。
「ねぇアナタ。ならアイルに決めてもらうのはどうかしら? それにもうお兄ちゃんなんだしね」
「あ、アイルにか!?」
母さんは目で『アイルが父さんの背中を押してあげてよね♪』っと悪戯っ子のような笑いとウインクをボクにしていた。たぶん優柔不断な父さんをからかい、またフォローしてくれているのだと思う。そしてボクも母さんの言いたいことが分かると父さんに向かってこう口を開いた。
「うん! 父さんがいつまでも決められないのならボクが決めたい! ねぇ~いいでしょ?」
ボクは父さんの右腕に掴まり、駄々をこねるように少しだけ引っ張ってみた。
「むむむむ……。わ、分かった分かった父さんの負けだ。負け。今日の仕事が終わるまでに名前を考えてみるからそれでいいのだろう? だから二人ともあんまり父さんを虐めないでくれよ……」
どうやら父さんは初めからボクと母さんの悪戯に気付いてようだ。
「じゃあ父さん、今日もお城への品物搬入の仕事あるんでしょ? ならボクも手伝うからさ」
この世界『エカルラート』では数十年に渡る人間と魔王軍との戦争があったのだが、去年『大賢者様』が魔王を倒して平和が訪れていた。ボクが住む『ツヴェンクルク共和国』はその大賢者様が生まれ育ち、今尚住んでいる国として有名だった。
けれども今は、魔王軍に壊された建物やお城の修復などの復興に力を注ぎ、本来ならお城を守るはずの父さん達『護衛騎士』もそれに駆り出されていた。そして時折お城に入る品物の搬入や検品など仕事も父さんは任されており、ボクもそのお手伝いをしている。まぁお手伝いと言っても軽い荷物を持ったり、検品リストに品物名や数を書き留めチェックするくらいしかできないけどね。
「うん? なんだ、昨日に続いて今日も手伝ってくれるっていうのか? はっはぁ~ん。さてはまた小遣い目当だなぁ~?」
「ち、ちがうよー! き、騎士になるために父さんの動きや仕事ぶりを盗んでいるんだよ!!」
ボクは少し顔を赤らめながらそう反論してしまう。
もちろんお小遣いを貰えるのも嬉しいけど、本当は終わった後に父さんから頭を撫でられるのが好きなだけだった。でもそんなこと言うのは恥ずかしいから言えないし、それに明日は母さんの誕生日だった。
だから自分で少しでも稼ぎ、母さんへ何かしらのプレゼントをしたいって気持ちも重なり、ここ最近は父さんの仕事の手伝いを買って出る様になっていた。それに騎士という仕事を間近で見学する良い機会にもなっていたのだ。
「まったく調子の良いヤツだな~。はっはっはっ」
「ふふふっ」
「ほ、本当なんだからね! ふふっ」
父さんが笑い母さんも笑う、そんな二人に釣られボクまで笑い笑顔になってしまう。ボク達家族は決して裕福な家庭ではなかったが、家族みんなで笑い楽しい日々をただ幸せに過ごしていた。けれどもその『ささやかなシアワセ』さえもボクが偶然にもアレを見つけてしまい、そしてたった一度の過ちを犯してしまうその瞬間が来るまでの話だった……。
第2話へつづく
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またあらすじや設定などはすべて(仮)でございます。話の流れによっては、随時変更する場合もございます><