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こぺっとの頭の悪い短編集

不気味な噂

作者: こぺっと

方々より、全く意味が分からないとのお声を頂いております。

とにかく、是非最後までお読みいただければと思います。

「おう、佐藤。お前、昨日あんな所で何やってたんだ?」

「あんな所?」


 朝の通学路。校門の前。隣を歩く田中が問う。

 俺は何を訊かれているのか良く分からなかった。あんな所とはどこか?と疑問を口にすれば、田中は校舎の上を見た。


「あんな所って、そりゃあ」


 俺達の間を温い風が吹き抜ける。


「屋上だよ」


 それはある、ジメジメとした梅雨の日の事だった。



「何だって言うんだ、全く」


 俺は深々と嘆息した。この日、一日を通して色々な奴から同じような質問を受けたのだ。

 彼ら曰く、昨日の夕方、俺は屋上の貯水タンクに登っていたらしい。因みに貯水タンクというのは、屋上にある大きな円柱の物体だ。

 そんな物に登った記憶など当然無いし、そんな用事も無かった。

 彼らの話を総合すると、俺は貯水タンクの上で何やら夕焼け空を見上げ、不気味な叫び声を上げていたらしい。おおよそ人の声とは思えぬ叫び声で、オカルト好きな三上は「UFOでも呼んでいたのか?」と目をキラキラさせていた。

 その後散々UFOの話を聞かされて、オカルトに興味が無い俺は辟易としたものだった。


「何だよチャネリングって、屋上に呼ぶんだったらUFOじゃなくて……。まぁそれはいいか」


 一瞬、とある女子生徒の顔が頭に浮かんで、わぁっと顔が熱くなる。それを振り払おうと、俺は頭をぶんぶんと振った。

 閑話休題(それはさておき)、俺は帰宅部だ。昨日はまっすぐ家に帰り、その時刻、つまりは17:30頃は家でテレビを見ながら寛いでいたはずだ。

 残念ながら父と母は仕事で居なかったが、恐らく俺の妹も証人になる。


 結局のところ、貯水タンクの上で奇声を上げていたなどということは、"俺"の預かり知らぬ"俺"の話なのだ。気味が悪いやら薄ら寒いやらで、どうにも落ち着かない。


「ドッペルゲンガーって奴か?見たら死ぬって」


 田中が言う。


「やめてくれ、ただでさえ気持ち悪いのにそんな。お前ら口裏合わせて俺を揶揄ってんのか?」

「んなわけねぇだろ。こんな質の悪い冗談、喜ぶのは三上くらいだぜ」


 冗談ならば良かったが、そういう訳でも無いらしい。

 まさかパラレルワールドにでも迷い込んでしまったのだろうか。



「佐藤、掃除終わったら、後で職員室に来い」


 放課後、担任の沢田に呼び出しを受けた。

 別件なら良いが、もしこの噂で呼び出されたのならば、いよいよ冗談の可能性は低くなってしまう。学校中で俺を騙すドッキリなど、誰の特になるというのだろう。新手のいじめか?

 正直なところかなり憂鬱だ。俺は掃除を手早く終わらせると、胃が痛くなる思いで職員室へと足を運んだ。全く溜め息が出る。


「おお、よく来た。何で呼び出されたか分かるか?」


 沢田は特に説教するという素振りもなく、世間話でもするような気軽さで俺に尋ねた。

 しかし、彼は目に見えて怪訝そうな顔だ。


「いえ、よくわかりません」

「昨日の事だ、何か思い当たらないか?」


 心当たりはあるのだが、身に覚えがない時。こういう問いには何と答えるのが正解なのだろうか。


「いえ、別に」


 とりあえず俺は全く分からないというように回答した。

 身に覚えがないのだから、仕方ない。しかし、そう思うのとは裏腹に、俺は自分で分かる程度には緊張している。

 沢田は溜め息を吐いて、呆れたように言う。


「お前、昨日勝手に学校の屋上登って、しかも貯水タンクの上でなんか奇声上げてたって聞いたぞ。冗談にしても質が悪い、一体何をしてたんだ?」

「先生までその話ですか。生憎ですが、俺には全く身に覚えがないんです。先生は、その時実際に俺を見たんですか?」


 やや語気が強くなる。何だか後ろめたいみたいでバツが悪い。というよりも、こうも同じ話を何度も聞かされると、だんだん自分がおかしいのかと疑うようになってくる。自分の記憶は本当に正しいのか?

 沢田は頭をポリポリとやりながら、「うーん」と唸った。


「いや、俺は見てないんだ。ただ、他の生徒や、ほら、数学の後藤先生。彼女が見たって言ってるんだ。一応話を聞いておく必要があるだろう。担任として」


 そう言うと、沢田は数学教師の後藤を呼んだ。

 後藤の授業は俺も受けているし、何度か疑問点について質問しに行っている。それなりに面識のある教師だ。

 俺はいよいよ訳が分からなくなった。もしかして、本当に俺が間違っているのか?


「すみません、後藤先生。それで昨日の屋上の、佐藤だって言ってましたよね」

「ええ、あ、佐藤君。君、一体どうしたのよあんな所で」


 後藤は真面目に心配するような、そんな目で俺を目で見ている。嘘を吐いているような気配など、微塵も感じさせない。


「先生、それ、俺じゃないです。俺は昨日、最後の授業が終わってすぐに帰宅しました。家には妹しかいませんでしたが、アイツがきっと証人になります」


 俺が訴えると、二人は顔を見合わせて、溜め息を吐きました。


「あのなぁ佐藤。お前の妹、一年C組の佐藤 美里だろ?悪いが、彼女には後藤先生が既に確認している。昨日お前が家に帰ってきたのは19時過ぎだったそうじゃないか。家に帰ってきても何だかボーっとしていて、何だか様子がおかしかったって聞いてるぞ?」

「そんな、絶対あり得ません!」


 本当に俺が間違ってるのか?そんな疑念に血の気が引いて眩暈がする。もう冷静ではいられなかった。

 俺は沢田の制止も聞かず、職員室を飛び出した。


「俺は確かに昨日、直ぐに家に帰ったはずだ!」


 記憶が食い違っている。根本的に何かおかしい。本当に別世界に迷い込んだのか?

 おかしい、とにかくおかしい。

 グルグルと回る思考。とにかく美里に確かめないといけないと、俺は美里のいる教室へと足を速めた。


「美里!」


 俺は妹のいる教室のドアを勢いよく開けた。


「……お兄ちゃん?」

「おい、美里。ちょっと話があるから来てくれ」


 教室に入るなり、友達と談笑していた美里の手を乱暴に掴んだ。そして、彼女を教室の外へと連れ出し、ズンズンと進んだ。


「ちょっと!お兄ちゃん!何処にいくの!?」

「いいから、ちょっと来い!」


 俺が向かったのは、屋上への入り口に繋がる階段だ。そこは、あまり人が来ない。


「美里、俺は昨日、何時に帰ってきた?」

「……19時過ぎだったけど。というよりも、昨日何してたのよ。お兄ちゃんのせいで、私も色々友達に言われて散々だったんだから!」


 美里もまるで俺がおかしいかのように、そう責め立てた。

 梯子を外された。そんな心細さ、心許なさだ。

 俺がおかしいのか?何かの病気なのか?オカルトは興味が無いと言ったが、まさか狐憑きとかそんな類のものか?そうだとしたら、俺はこの先自分自身を制御することも出来ないのか?

 自分自身が信じられなくなったとしたら、俺は一体何を信じればいいんだ。そんな思いに俺は声を荒げた。


「嘘つくなよ!俺が昨日家に帰ったのは16時過ぎだろう?!俺は居間でテレビ見を見てたはずだ!テレビを見ながらコーラを飲んでいた!……そうだ、確か、お前とお笑い芸人、スカンクパンプの話をしてただろう!?」

「……お兄ちゃん」


 一気に捲し立てたせいで乱れた呼吸。

 顔を青くする美里の瞳は不安げに揺れている。何故だ、何がおかしいんだ。


「お兄ちゃん、お兄ちゃんは昨日、何をしてた?」

「普通に学校に行って、授業を受けて、帰った。家に帰ってテレビ見て、飯食って、寝た!」


 声が廊下に反響する。

 美里は信じられない様子で俺を見ており、違うとでも言いたげに小さく顔を左右に動かした。その表情は今にも泣だしそうだ。一体何が違うというのか。


「……お兄ちゃん、今日は何日か分かる?」


 やや躊躇いがちな声。しかしその問いは俺の心臓に刺さった。何故だか分からないが、酷く重要な問いだと直感した。

 俺は直ぐには答えられなかった。口の中が渇くのだ。今日が何日だ?そんなことは決まっている。決まりきっている。だが、それがもしも違っていたら?

 呼吸は浅くなり、鼓動もドキドキと早くなる。……今日はいつだ?


「10月、31日」


 声が震えた。美里は「やっぱり……」と悲しそうに首を振った。


「今日は、もう11月1日よ」


 足から力が抜ける。有り得ない。嘘だ。そんなこと有り得ない。

 もしそうだというなら、俺の10月31日は何処に行った?昨日の俺は何をしていた?分からない分からない思い出せない。


「ハハ、嘘だろ?なぁ」


 乾いた笑いが漏れた。

 おかしい、おかしいおかしいおかしい。

 現実感が無い。頭が回らない。昨日の俺は一体、何をしていたんだ。

 グルグルグルグル思考が回り、俺の口から得体の知れない乾いた笑いが漏れた。その瞬間、俺の意識は闇に沈んだ。プツリと切れた、テレビみたいだった。



 ☆



「アハ、アハハハハハ!」


 兄の姿をした何者かから、不吉な嗤い声が発せられた。その目は焦点があっておらず、不気味に血走っている。


「クッ!まさか、お兄ちゃんが!猫兎!」

「ハイヨー、ミサトちゃーん」


 私の陰から現れるファンシー生物、猫兎。彼は所謂地球外生命体。


 今年の四月、私たちの住む町、朝霧町に隕石が降ってきた。

 彼はその時、隕石と一緒にやって来たのだという悪の意志、ウィヌシカと呼ばれる存在を追って地球へとやってきたマジカル生物だという。


 そんな意味の分からない生物である彼は、私に秘められたマジカル力があることに気付き、私に一緒に戦ってほしいと協力を求めたの。

 その時から、私は佐藤 美里という普通の女の子から、マジカル☆ヨルカという裏の顔を持つ、マジカル乙女になってしまった。


 私はちょっと恥ずかしい変身シーンを経て、マジカル☆ヨルカに変身。とってもマギカなステッキを振りかざすと、マジカル力を使って呪文を唱えた。


「マジマジョマギカ、マギルルルー!このド腐れ外道!お兄ちゃんから出てけええええ!マジカル☆C4!爆ぜちゃえええええええええ!!」


 悪霊退散、私の魔法がお兄ちゃんに巣食ったウィヌシカを穿つ。

 勿論魔法の力で人体に影響はないからお兄ちゃんの体は全く無事!環境にも優しいから全然問題ないわ。


「ギャヒャヒャヒャヒャ!!!」


 歪な悲鳴を上げて倒れるお兄ちゃん。


「お疲れ様ダーヨ、ミサトちゃーん!ウィヌシカの反応は消えたみたいダーヨ!」

「うん。ありがとう、猫兎!」


 良かった。無事に倒せたみたい。私は変身を解いてお兄ちゃんに駆け寄った。


「お兄ちゃん!」

「大丈夫ダーヨ、気絶してるダケダーヨ」


 私はお兄ちゃんの無事に、ほっと一息ついた。

 まさか、自分の家族が危険に曝されるなんて。これはもっと緊張感をもっていかないとダメみたい。一体いつまでこんな生活が続くのかしら。


「あ、ミサトちゃーん!体育館の方で、ウィヌシカの反応が!」

「分かったわ!」


 私は既に三体のウィヌシカを倒しているけれど、まだまだ先は長いみたい。


 私はお兄ちゃんをそっと寝かせて、その場を去った。

 次の犠牲者を助けるために、マジカル☆ヨルカは今日も走る。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

「馬鹿らしかった」の一言でも、感想を頂ければ嬉しいです╭( ・ㅂ・)و ̑̑ グッ !

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