ラピス、両親と話す
暖かな日差しが私を包み込んで、私は「ああ、また朝か。また私はあの人たちに暴力を振るわれるのを耐えなくてはならないのか。」といつもどおりの最悪の目覚めをする。ああ。早くこの日々が終わってくれないかと思いながら目を開けるとそこに飛び込んでくるのは天蓋。
「知らない天井(?)だ」
そう言いながら私はああ転生したのだったなぁという事を思い出す。それなら前世のように殴られたりはしないだろうかと淡い期待を抱きながらもやはりそんなことは無いのだろうなあと思うのだ。それはともかくとして、重く、そして小さい体を起こすと私の寝ているベッドに突っ伏して寝ている美人さんが1人見えた。この人は多分この間私を助けてくれた人だな。多分私のお母さんにあたる人なのだろう。にしてもこの体。少なくとも赤ちゃんではないことは確かだ。なぜ今になって記憶を思い出したのか、それともこの体はわたしではないのか、わからない。
そうしてしばらくうーんうーんと唸っているとさっきの美人さんが起きて、目が合うと即座に一言。
「起きましたのね!!!!!!」
それにうんと頷くと
「良かった……助けられて本当によかった……」
と泣きながら私を抱きしめてくるので私は困惑してしまう。こんなことされたのはいつ以来だろうか。そうして抱き枕になった気分で暫く静かになされるがままにしていると、
「あ、あの人呼んでこないと!!少し待っててちょうだいね!あなたー!!!!ラピスが起きましてよーーー!!!!!」
そう言って部屋から飛び出ていった。うん、嵐のような人だな。
「おはようラピス!」
「あなた様!うるさいですわよ!」
その言葉と共にバン!とドアを開けて入ってくるのはさっきの女性と大柄な男性。少しびっくりしてしまった。強面だし。えっと、多分あの時にいた人だから父にあたる人なのだろう。
「お、おはようございますっ……」
少し、いやかなり緊張しながら私はそう言う。前世で挨拶なんてまともにしたのは母が生きていた頃が最後だったし……まともに私と喋ってくれる人なんていなかったし。しかし、父(?)が固まって震えている。何故だろう。私はまた何かやらかしてしまったのだろうか、結局前世のような生活になってしまうのだろうかそんな考えが頭の中をぐるぐると駆け巡る。そうしているうちにその人は私のところにツカツカと歩いてきて、私は怖くて目を瞑ってしまう。しかしそのあとの感触はいつもの様な鈍痛ではなく優しく包み込んでくれるような温かさと
「か、かわいすぎる……!」
という言葉だった。私が、かわいい?いやいや、ないでしょと困惑しているとドカッという音が聞こえて父が下に倒れていた。
「ごめんなさいね。ラピス。怯えなくていいのよ。私たちは訳もなくあなたを傷つけたりしないわ。」
とそういいながら母は優しく微笑み、私を抱きしめてくれたが私はどう反応したらいいのか全くわからなかった。というか未だにこの状況に理解が追いついていない。
「く、くるしいです……」
「あ、ごめんなさいね。ところで私たちのことはわかる?」
「は、はい。お母さんと、お父さんでいいんですよね?」
「うん。そうよ。私たちの娘なの。改めて自己紹介するわね。私はローゼン・ファーレンハイツ。そこで倒れてるのは私の旦那様でジークよ。よろしくねラピス。」
「は、はい。よろしくおねがいします……」
「うんうん。ところで、ラピスは記憶って残ってるのかしら?」
ここはどう答えるのがいいだろう。私の、瑠璃としての記憶があるというべき?いや、それはないだろう。ラピスとしての記憶があるかどうかというのを聞いているはずだ。それならば
「い、いえ。あまりというか、まったくないです……」
「やっぱりそうなのね……」
「はい…おもいだしたほうがいいのですか?」
「ううん。あなたがそうやって記憶を失っているということはその記憶はそれだけ辛かったという事。無理に思い出す必要は無いわ。それにあなたはもううちの娘なのだから、そんなことは忘れてしまいなさい。もうあなたに嫌な思いなんてさせないわ。」
「そうだぞ!ラピス。私たちは君に危害を加えたりなんてしないさ。」
しばらく触れていなかった優しさというものをこの人たちから感じた。暖かく、そして包み込んでくれるような。そんな優しさだ。
「あ、あれ。わたし…」
「な、泣かないでおくれ。ラピス。もう大丈夫。大丈夫なんだ。」
そう言って優しく二人で私を撫でてくれる。そんな二人に挟まれながら私は泣きじゃくり、泣き疲れて再び寝てしまうのだった。
「ラピスは疲れて眠ってしまったか。色々話すのはまた後になりそうだな」
「ええ、そうですわね。ところであのことはこの子には話すのですか?」
「いや、聞かれるまで話す気は無いよ。とりあえずあの子達にも話すつもりは無いしね。」
「ええ。それがいいと思いますわ。この子に無闇に思い出して欲しくない。あの時の反応を見ましたか?この子は確実にあなたが自分のことを殴ると思って怯えていました。」
「ああ。記憶はないというのにあそこまで怯えるということは相当な事があったんだろうな。本当にあの人は許せない。こんな子にそんなことをするなんて。」
「ええ。それに私たちがきちんと守っていかないとこの子はどうなるか分かりません。心聖石があるということはそれだけの力を持っているということ。きちんと生き方を教えてあげないといけませんわ。」
「もちろん。いつごろラピスは起きてくるだろうか。起きてきたらあの子達も呼んで全員でご飯を食べよう。」
心聖石(追記):なんらかしらの力を持つもののみが持っている。強い意志が力と聖石を生む。
そんな劣悪な環境(推定)で過ごしてたのにご飯食べれんのかとかは無しの方向でどうか……