表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/20

7 家出してきた王女さまを[かくまう]ことになりました。

    ☆★☆


 家の外へと出た戦乙女は、何者かと対面していた。

 黒の中に少しだけ赤色の混じった、その独特な髪色。誰がどう見ても、趣味が悪いと答えることは間違いない。

 ひょうひょうとしていて、常にニヤけ顔。

 まず町中で見かけても関わりたくないタイプの人間である。


「まさか貴方が来るとは」

「ほぉう……。No.1のミーアさんが居るなら、次に来るのはNo.2が筋ってモンじゃあないかい?」


 そう。彼こそレイルが苦手とする親衛隊No.2、『ガラン・G・ブレイカー』

 王女を溺愛する気持ちが募りすぎて、レイルフィギュアを自費制作するに至った男だ。それだけならばまだあり得る話なのかもしれないが、現在お家に飾られたフィギュアの総数は300個を遙かに越えている。それも同じ物を量産した訳ではない。丁寧に一種類ずつ、構図や表情、服装や質感がはっきりと異なっている。


 つまり、こいつは重度の変態なのである。


 最近では自分自身のフィギュアを作り出し、レイルとキスをする構図の物を作成しようとしているという。更に突き詰めた先の最終目標は、ガランとレイルのフィギュアを溶かして混ぜ合わせ、可愛らしい幼女のフィギュアを新たに作り出すこと。

 この『合法子作り計画』と名付けた計画を、あと数ヶ月以内に実行しようとしている。


 繰り返すが、こいつは重度の変態なのであるッ!


 そして、このような下劣な人間は、当然ライフェリス城からは出禁にされている。

 つまり、レイルと直接対面したことの無い、唯一の親衛隊なのだ。

 だが当然ながら噂話や他の親衛隊によって、情報はレイルの下へと届く。これによって、レイルはこの男には非常に注意して行動するようになったのである。


 レイルは言葉でこそあまり酷い言い方をしていなかったが、脳内ではこの男が猛烈に拒絶されていることは間違いない。


「非常に残念だけど、レイル様は見つからず終い……」

「ふーん、すんごい良い匂いするけどぉ?」

「あてくしもそれに騙された。けれど所詮は民家。少しお茶を飲んで、別の場所へ行ってしまわれたご様子で」


 ミーアはこの男を王女に近づけないために、嘘を吐いている。

 こうすることで、穏便にお引き取りを願おうという魂胆だ。

 もし仮に、こいつがレイルを見つけてしまったならば、ライフェリスへと送還する際に何をしでかすか分かったものではない。最悪の事態を想定しながら動くのも、側近としての務めである。


 しかし、この男はそこまで馬鹿ではない。地味に頭は冴えているのだ。


「ふーん、じゃあさぁ、もう一つ質問いいー?」

「はあ、何でしょう」

「お前何で臨戦態勢なのぉ?」

「……!!」

「目つきも戦う時のそれだったしぃ、なんかさー、いかにも『守らなくてはならない』って義務感に駆られた表情だったよねぇ~」


 誤魔化しはきかない。そこに匂いがあるのだから。


「まー、俺もさー国王から依頼されてる身だからさぁー……――後は分かるな?」


 先ほどまでのヘラヘラとした表情は消え去り、光で鎧を纏い、戦士らしさが露わになっていた。


「ええ、前々から思っていたけれど、貴方のことが嫌いでね」

「そりゃ戦うには好都合ってモンだ。嫌い合っていた方が、全力を尽くせるだろう? お互い死ぬ気でいこうや」

「そうね。どちらがレイル様を手にするか。ここでハッキリさせましょう!!」


「「いくぞ!!」」


 近所迷惑な戦闘が始まろうとしていた。



    ☆★☆


「本当に倉庫で大丈夫ですかね……」

「分からない。だけど、まず相手は倉庫を知らない。結構分かりづらい所にあるし、まず隠れるなら最適なところだと思う」

「流石ルオンさんです……!」


 レイルには、裏庭にある金属製の倉庫へと隠れてもらうことにした。

 屋内に隠れていると思っているだろうし、ここならば分かりづらいことだろう。

 それに、俺はある作戦を思いついていた。


 非常に馬鹿らしいものであると思われるかも知れないが、彼女が隠れる以上は、これが最も行いやすいものだ。


「全幅の信頼をおかない程度でお願い。一応出口は二つあるから、何かあったらさっき言った通りに」

「計画性のかまたり……」

「塊だ。藤原家じゃないんだから」


 ただ、この「ゲーム」に相手が乗ってくれるかは完全に運だ。どのような追っ手が来たのかは分からない。もし仮に、心に余裕が無い人が来てしまったなら、この計画は全くもって意味を成さないだろう。

 これはレイルにとって、かなりのリスクを伴うゲームだ。だから当然、彼女自身からは承諾を得ている。


 最善なのはミーアが片付けてくれることだが、それを突破されてしまえば、戦いで勝利することなんて到底不可能。


 堅苦しいものは嫌いだ。だから簡易的でかつ、自分達が傷つかないものを選びたかった。

 だからこそ、ゲームなのだ。


 相手が有利に見えるゲーム。ある意味でトリック。

 先ほどレイルは、何故自分が匂いを消して風呂場に行ったのか。その理由を話してくれなかった。

 だがそれはミーアに聞かれたくなかったからであって、俺に対してなら普通に話してくれた。


 度肝を抜いた。そんな力を持った人(宇宙人だけど)がこの世に存在するのかと。

 だがそれは、瞬間移動なんかではない。もっと高次元な、地球の人類には到底不可能な業だ。当然、そのような力を使うのだから、疲労は蓄積する。そのため長時間は利用することは出来ないが、短時間であれば有効な方法だ。


 俺は別に天才って訳じゃない。だから常識で勝負するしかない。

 だけど、レイルは非常識な能力を持っている。

 常識と非常識での化学反応を起こした奴なんか居ない。だから俺が起こしてやるよ。


 いつでも来い。王女様を[かくまう]のはこの俺だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ