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6 戦乙女の意思に惹かれた。

 特に今興味がある話は全部聞いたような気がするので、とりあえずリビングでくつろぐように指示しておく。ちなみに、自分の名前をどこで知ったのか。これを聞いたところまたもはぐらかされた。

 どうやら話す気は更々ないらしい。


 自分は夕飯の準備のためにキッチンに居る。

 面倒くさがりの自分であるが、こう見えて料理は出来るのだ。それなりに……。


 料理の準備段階ということもあって、リビングからの声が良く届く。


「にしても、儀礼って本当に面倒ね」

「面倒とは思ったことはありませんが……けれど、ここしばらくのレイル様はだいぶお疲れのご様子でしたね……」

「気付いてたのね。変に気負わせちゃったかな……」

「いえ。レイル様の身にかかる火の粉を払うのがあてくしの務め。当然の義務でございます」

「ありがとう、ミーア」


 なんだ、想像よりもずっと平和な会話じゃないか。

 混沌とした二人が会話をするのだから、それはもう酷いものになると思ったのだけれど……。


 あ、これか。これがマイナス×マイナスはプラスになる方程式の例か。

 数学が極端に苦手な自分にとって、マイナスが二つ掛けられたら何故プラスになるのかは中学の頃からの疑問であったが、たった今それが解消されたような気がする。


 ……というか、毒にも薬にもならないような会話だし、別にプラスという訳でもないか。


「ところで、親衛隊って三人だったよね?」

「はい。後二人おります」

「その人らは向かってきてるの?」

「さあ? これはあてくしの単独行動ですし、詳細は判りませぬ」

「そっか、出来れば来て欲しくない人が居たから安心したかも」

「というと……癖が強いNo.2でございましょうか」

「うん。失礼かもしれないけど、ちょっと性格が……ねえ」

「性格……ですか……」


 レイルが拒絶するほどの性格って……。どんな奴なんだ。

 寧ろ気になる。遭いたくはないけれど気にはなる。

 かと言って、自分から積極的に聞きたいかと問われたら微妙なところである。第一自分は今ご飯の準備で忙しいのだから。


「……そっか、性格ですか」

「ミーア? どうかした?」

「いえ、何でもございません」


 ミーアは始めて、弱々しい声を出した気がする。

 そのNo.2とやらに対して、何か思うことがあるのか。

 そんなことを思っていると、ミーアがこちらにやってくる。


「何かお手伝い出来ることはございますか?」


 意外だった。彼女らに手伝うという考え方があるとは。

 いや、レイルは王女だから仕方ないが、寧ろミーアにとっては得意分野ということなのかもしれない。

 親衛隊を名乗っている以上、側近としての役割もあるだろうし。


「そしたら、そこの食材を水にさらしておいて」

「さらし?」

「あ、水洗いしといて」

「かしこまりました」


 そんなに難しい言葉だっただろうか。まあ通じなかったなら仕方ない。

 水にさらすってそこまで田舎言葉かな。


 本日のメニューはナスとピーマンの味噌炒めだ。

 調味料の配分によって好みが分かれる料理だが、彼女らの口に合うものが作れるだろうか。


「なあ、ライフェリスの人って少し甘い物と少ししょっぱいもの、どっちが好き?」

「基本的に甘い方が好みで、しょっぱいものも嫌いではございませんよ」

「なるほど、ありがとう」


 そうと分かれば砂糖とみりん少々多めだな。対して醤油は少なめ、味噌は定量でいいだろう。


「…………」

「どうした? ぼうっとしてるぞ」

「……いえ、何やら不穏な匂いを嗅ぎ取ったもので」

「不穏?」


 先ほどまでには考えられないような表情だ。真剣そのもので、先ほどの風貌と合わせたら美しい戦士としてしか映らない。


「レイル様!! この方の誘導に従って隠れてくださいまし!!」

「え!? ええ。わかったわ!」


 ミーアはその瞬間、再び鎧を纏った姿へと変化する。

 戦闘態勢になった……ということだろうか。


「何があったって言うんだ……?」

「これは……恐らく追っ手の匂い……邪な、味覚に苦みを伝える匂い……!」


 そう言い残して、ヴァルキリー・ミーアは外へと走り出していった。


 窓ガラスから、風の強さが伝わる。

 それだけ、自分が周囲の物音に敏感になってしまっているのか。


 ミーアは心からレイルを守ろうとしている。

 守るために全力で戦おうとしている。


「…………」


 ぼうっとしているだけでいいのか?

 周りが真剣な中で、自分だけ事を拒絶して、思考停止をしていていいのか……?


 考えろ、考えろホシノ ルオン……!!

 今、俺が取るべき行動は……。


「レイル、今すぐ倉庫へ」

「えっ……」

「早く、案内するから」

「あ、は、はい!!」


 彼女自身を[かくまう]こと。

 俺がレイルから、最初にお願いされたことだ。

 これまでは状況が飲み込めなかったし、事態がよく分からなかったから、答えを出さなかった。


「レイル、上手く言えないけどさ……」


 けれど、今なら……。今、この時なら、踏ん切りが付きそうだ。

 覚悟を決めて、声に出せばいい。


 落ち着け……口を開いて、腹から声を出すんだ……!!


「お前を、かくまってやる……!!」

「……!!」


 このような気持ちになったのは、ミーアの意思があったからだ。

 それ以上でも、それ以下でもない。


「だけど、勘違いしないでくれよ。ミーアの心意気に惹かれただけだから」

「それでいいです。ルオンさんに[かくまって]頂けるのなら……」


 そうと決まれば始めよう。

 彼女の気持ちを無下にしないためにも、できる限りを尽くしてやる。

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