13 寝ても覚めても。
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「おとーさま、ギレイって何ですか?」
私が幼い頃から、当たり前のように存在していたそれ。
それは私達ライフェリシア家の王国が誕生して直ぐ後に、王であるお父様が制定したものだった。
みんながしているのだから、これが当たり前。
ギレイを行うことは素晴らしいことなんだ。
と……昔は生活の一端を担う、至極当然のものとして認識していた。
全てを民に捧げるなんて、お父様は素晴らしい……なんて思っていて。
けれど、歳を重ねていく度に心境は変わっていく。
最初はお父様に対しての心配だった。
民に全ての時間を割いて生きることで、自分の時間……プライベートなんて無くなってしまう。お父様はそれで幸せなのだろうかと。
そして成長するにつれて、自分の後先についてを考えるようになる。
考えるのは自分の将来。
一人娘の私は、このまま行けば女王になる。
そのことに異常な不安と、嫌悪感を覚え始めていた。
そう。気付いたら、私はお父様なんかよりも自分の心配をしていたのだ。
自分も、お父様のように忙しい毎日を過ごすのか。
求められていたのは「王として」の王のみ。「個人として」の王は、民に求められてはいない。
そんなお父様を十年と見続けていたら「将来は自分を殺して、王として生きろ」と言われているように思えてしまって仕方が無くなった。
ある日、就寝の直前に、お父様に尋ねた。
「お父様、自由に生きるとは何でしょう」
答えは返ってこなかった。はぐらかされて、頭を撫でられて。
挙げ句、最後には「女王様になる前に、様々なものを見て学びなさい」と来た。
ライフェリシア家に、人権は無い。それがこの時はっきりした。
儀礼とは、父親という絶対悪が作り出した絶望の象徴だ。
私はその絶望から逃れるために、地球まで逃げてきた。
妖精から、力を授かって……。
☆★☆
――ん。
鳥のさえずりが聞こえる。
朝日が眩しく、目が開きづらい。
上下に身体を伸ばして全身に血を行き渡らせた頃に、ようやく周囲が見えるようになる。
「妙に、リアルな夢だったな……」
……フェリシア?
まあいいか。
自分の部屋の、自分のベッド。
頭や背中はじっとりとしていて、あまり気分のいいものではない。
俺って、こんなに寝汗をかく体質だったかな……。
いつもより長い時間眠ったような気がするけれど、それでも疲れがとれたような気がしない。
夢を見ていた訳だし、浅い眠りだったのか。
「…………」
ゆっくりと起き上がって、窓から射す光を見つめる。
しかしまあ、壮大な夢だったな。
宇宙人の王女さまが押しかけてきて居候をする、不思議なリアルファンタジー。
名前は確か、レイルって言ってた気がする。ミーアなんて子も出てきたな。
ああ、全部夢だった。そう、壮大な夢を見ていたからこそ長い時間眠っていたような気がしたんだ。
これを物語にしたなら、面白いものが書けそうな気がする程度には凄い夢。
母さんに言ったら喜ぶだろうなぁ……。
……?
誰かが扉をノックしている。
「ん……母さん?」
「レイルです、睡眠の摂り過ぎは身体に毒ですよ」
「…………」
――夢ではなかった。
昨日あった出来事は全て、紛れもない真実。
決して夢として昇華しきれるものではなくて、現実で終わらせねばならない、言わば一つのタスク。
「……ルオンさん?」
「ぁ、ああ!! まだ寝ぼけてるみたい」
夢であったなら、どれだけ良かったことだろう。
「お母さんが待っていられてますよ。早めに下りてきてくださいねー」
「はいはーい。分かったー!」
自分は別に、彼女らが居ることによる嫌悪感を感じている訳ではない。
寧ろその点に関しては、昨日の時点で自分なりに折り合いが付いている。
それよりも、自分に付きまとう責任だ。
彼女らを受け入れたことで、自分には責任の一端が発生している。
母さんが容認してくれたからと言って、俺が責任から逃れることは、決して出来ない。
自分の行動一つで、レイルの運命を大きく変えてしまう。
誤った判断をすれば、彼女はライフェリスへ逆戻り。
逆に、全てが良い方向へ転がったなら、彼女は地球で生きていくことができる。
冷静に考えると、判断を誤る可能性の方が高い。
全てが良い方向へ転がるのは、数あるバッドエンドへの分岐を退けた、たった一つだけ。
おまけに、追っ手が何人やって来るのかは分からない。
その追っ手の数だけ、俺は判断をする必要性に駆られることになるだろう。
彼女と契約を交わした以上、レイルを[かくまう]覚悟は決まっている。
だが、本当に自分なんかが守り抜くことができるのか……。
全く自信が持てない。理屈で考えてしまってるからなのか。
それとも、取れていない疲れのせいで、若干気持ちが落ち込んでしまっているのか……。
……本当、どうしちゃったんだろうな、俺。