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第4章 鴨川にて―「コニチワ」の前に「鴨川沿いを散歩する」


天狗の鼻はなぜ長いのか。それは、小さい頃から学校で成績を取り続け、クラスでのあだ名が「天才」だったからである―というのはもちろん冗談である。

しかし、鞍馬に行ったことで、私は鼻が少し低くなった気がするのであった。心に余裕が出てきたともいえるであろう。それもこれも、天狗の棲む鞍馬と鼻の高い外国人旅行客のお陰であった。旅の目的はその過程にある、とは言い得て妙である。


私は鞍馬寺本殿に辿り着きしばらく滞在してから、五条のホテルに帰ることにした。それは、起きたのが昼であり今も午後4時近い上に、鴨川沿いを散歩したい気分になったからである。

「鴨川沿いを散歩する」―これほど洗練されたフレーズが他にあるだろうか。鴨川という京都を代表する河川沿いで、散歩という枠に囚われない、文字通り自由な活動を行う。京都の良さを凝縮した一言であると私は感じる。外国人に日本語を覚えてもらうなら、「コニチワ」の前にまずこのフレーズであろう。



このような次第で、私は出町柳駅へ帰ってきたのであった。日は西に傾いおり、南北に流れる鴨川沿いを歩くと西日をもろに受けることとなる。

しかし、夕日を浴び、全身をオレンジに染めながら散歩やジョギングをする人々の、東へ長く伸びた陰が交錯する瞬間に立ち会えば、私は絵画の中の人物になると確信していた。その決定的な一瞬を、かのクロード・モネに描いてもらいたかった。欲をいえば、私も豪奢な額縁に入れられ、マルモッタン美術館に展示してもらいたかった。


さて、寝言は寝てから言うことにして、私は川端通りを渡り、鴨川沿いの散歩道に降りて行った。

この辺りは鴨川の分岐点で、上空から見るとちょうどY字形になっている。ふと空を見上げると、鳶が鳴きながら旋回している。鳶など祖父母の家のある田舎でしか見たことがなかった。京都の街は、自然と都市が上手く調和しているのであろう。鴨川沿いで弁当を食べると鳶に襲われるというのは本当なのだろうか。

私はホテルの近くの五条大橋まで行くには、この鴨川沿いの道を南に下り続ければよかった。

とはいえ、ここから五条まではかなりの距離であった。電車ではあっという間であったが、ここから南を見渡しても、手前の大きな橋に遮られて三条大橋すら見ることができなかった。もちろん、五条大橋は三条大橋の向こうの、四条大橋の更にその向こうである。


駅近くのコンビニであんパンと飲み物を買っておいた私は、飲み物を少し多めに飲んでから、「鴨川沿いを散歩」し始めた。

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