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結論のそのあと

「やっほーナオ元気?」


「ん?ああ、有里か」


「ええーっなんかこうもっといい反応してよ。『うわっ!表かと思ったら裏だった』とか『いっ、いきなり声かけんなよ』とか何かあるでしょ。普通!」


 そうだ、この問題も一切片付いていなかった。今日から、この県立富楽園ふらくえん高等学校に真田を除く裏人格が転校してきた。形式上は双子ということで通っているみたいだ。さすがに堅香姉妹は裏人格を合わせて四つ子という設定には無理があったみたいなので双子の姉妹の双子たちという壮大な設定になっていた。


(まあ、それも無理があると思うけど)


 裏の有里花は双子の姉として有里と名乗っていた。


「ちょっとー!なに、ぼーっとしてんのよ」


「いてっ!」


「ああ、ごめんなさい。力加減がわからなくって。強くたたきすぎちゃった」


 おれの横に金髪ツインテールで小麦肌バージョンの有里花が横に立っていた。


「でっ、何か用?」


「うーんとねぇ。真田君どんな感じかなと思って」


「真田と仲良かったっけ?」


 ふと、疑問に思ったことをぶつけてみる。


「いーや、そんなに仲良くない。あたしなんて、今朝会ったばかりだから」


「さいですか」


「ただ……」


「ただ?」


「私たち自身も勝った後どうなるか知らされてないんだよね」


「それってつまり…裏人格全員がってことだよな?」


 有里花は「もちろん」と自信満々に胸を張って答えた。


「じゃあ、どういうモチベーションで勝負するの?」


「どういうって言われても…うーん。やれって言われればやるって感じかな」


「いいのかよ。ある意味、命かかってんのにそんなモチベーションで」


「いいのいいの。どうせ、もともとはいないはずの存在だし」


「そんなもんか?」


 「そんなもん、そんなもん」といいながら一緒に歩いていく。


 やっぱり、表裏関係なく有里花は有里花でいつも通り話せた。むしろ、こっちの有里花のほうが話しやすい気がする。

 表のほうには言えないけど。


「私ね、このゲームは後悔から来てるんじゃないかって思うの」


「どうして、また急に」


「なんとなく…かな」


 “後悔”か…なんとなくわかる気がする。例えば、真田なら工作を続けている自分が裏で勉強だけに専念している自分が表だったわけだし。


「私も、そこまで頭が良くないから全部はわかんないけど。だって、ナオもそうでしょ。ミオがいるってことはそこから《・・・・》始まっているってことでしょ」


「そこまで、わかっているとは恐れいるよ」


「でしょ、幼馴染舐めないでよ」


「痛っ!」


 また、背中を強くたたかれた。

 当の本人は「ごめんごめん」といいながらそのまま歩いて行ってしまった。


「おい、水戸ちょっといいか」


「うわっ!びっくりしたー。いきなり声かけるならせめて正面にしてくれよ」


 ちょうど、階段のピロティー部分に村瀬が立っていた。


「悪い。さすがに、山郷やまさとの待っている横に待つのも変だと思って」


 有里のやつ俺が入ってすぐぐらいから待ってたな。


「はあー、どうせお前も真田だろ」


 「もちろんだ」と答えて一緒に廊下を歩いていく。

(この廊下学校で一番長いらしいからこの感じだとあと二人は登場してもおかしくないな)

 そう考えている中、真っ先に口を開いたのは村瀬だった。


「お前から見て、あいつは変わったか?」


「また、それは難しい質問だ」


「率直な感想でいい」


 「あと、端的に頼む」と念を押されてしまった。


「率直に言うとあまり差はないと思うよ。たしかに、ところどころ違う部分とかはあるけど別人って感じはない」


「やっぱり、そう思うか」


「やっぱりってことは村瀬もそう感じたってこと?」


「まあ、そういうことだ」


「じゃあ、前に真田が言っていたみたいに『死ぬわけじゃない』ってことが証明されただけってことだろ」

 「それはそうなんだが…」とつぶやいて何か考えているようだ。


「何か気になることが?」


「やっぱり、同じ人間ではない気がする」


「それはそうだろう」


「……」

 村瀬は驚いた顔でこっちを見る。


「なに?」


「いや、まさか同意されるとは思わなくて」


「ひどいなー。俺をなんだと思ってるんだよ」


「スイス的な立ち位置のやつ」


「永世中立国ってことか?もっとましな褒め方してくれよ。裏村瀬君・・・・


「はははっ、なんだばれてたのか」


「ばれるよ。有里花と有里みたいに外見的な特徴がないからパッと見はわかんないけどね。少なくとも俺の知っている村瀬一は『スイス的な立ち位置のやつ』なんて回りくどい言い方はしないしボケない」


 いつもの村瀬ならたぶん俺のことをストレートに『仲裁役』っていうはずだ。それぐらいまっすぐに話すやつだ。

 「お前、表のおれに対してなかなかひどいこと言うなあ」といいながら、村瀬は首を傾げて自分の頭をなでた。


「でっ、おれに何の用?」


「別にない。ただ、真田がどうなったかの確認とあいさつに来ただけだ」


 「じゃあな」と言ってそのまま裏村瀬はさっきまで進んでいた方向と反対方向に歩いていった。

 表の村瀬のために言っておくならあんなかっこつけた去り方もしない。いつもはもっとそっけないくかつスマートに去っていく。スマートな去り方がどんなものかと聞かれれば言葉にはできないけれど「なんかかっけー」っていう感じだ。


「あっそ」


「ねえ、ナオー」


「うわっ!なんだよびっくりしたー」


「そんなに驚かなくてもいいんじゃないかな」


 いやいや、誰だって突然真横から抑揚のない声がすればびっくりするって。ホラー映画とか、いかにもってところで30秒スキップ押す人だから、おれ。まじでダメな人だから。


「でっ、なに?」


「部活に入っていいかな?弓道部」


「なあ」


「ん?」


 ミオはなにか?という顔をしている。


「あのさあ、それっていきなり真横に現れて聞かなきゃいけないこと?」

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