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こんにちはーお久しぶりです!
妖精の羽の番外編ですー!!
今回はシャルロットさんのお話。長くなりそうなので2部に分けてみました!
ぜひよろしくおねがいします!
さて、どうしたことかしら。
温室のサボテンが伸びきっている。やけに黄色がかったサボテンだ。というか、サボテンなんてこの部屋にあったかしら?
つい先日までは、この屋敷には人がいた。7人の小さなドワーフ。それぞれが各々違う色の帽子をかぶっていて、大きな鼻とクリンとした目が特徴的だった。
彼らは、私に姫を目覚めさせてほしいと頼んだ。悪い呪いにかけられた美しい姫を。
だから私は薬を作ってあげた。その時にこの温室に来たけれど、確かにサボテンなんて見なかったはず。
ふーむ、どうしたことかしら?
頭を抱えること、約10分。
「そうだわ!」
シャルロットは手をポン、と合わせ、声を上げた。
「閃いた!」
どうして思いつかなかったのかしら?私も老けてきたのね……。
温室から出て私室に向かう。ここは普段人に入れることはなく、私のプライベートルームだ。
私室の中央には焦げ茶色のテーブルがあって、読みかけの分厚い本が3冊ほど重なって置かれてある。
その前にはふかふかの一人掛け用ソファ。
視線を奥に移すと、以前のクライアントから貰ったスノードームやドライフラワーのリースなど、趣味の良さそうなものが置かれてあるのが見える。
しかし部屋は暗く─と言っても電気をつけていないだけで視界は十分に明るいのだが─なにも音がしない様子から、なんだかひどく寂しい。貰い物も影を落とし、つまらなさそうにそこにあるだけ。
今はたったひとりで屋敷の中ね、と、自嘲気味にシャルロットは呟いた。
「えい」
シャルロットが手を空にかざすと、半透明な杖が光りながらどこからともなく出てきて、彼女の手の上に落ちた。
彼女が杖をひと振りすると、部屋はいっぺん、まるでイケナイ部屋のようなピンク色に変わってしまった。
先程まであった焦げ茶色のテーブルやソファ、奥の貰い物たちは、一瞬にして見えなくなった。
なんだか鼻につく匂いをさせるこの部屋は、全くイケナイ部屋などではない。断じて違う。
ここはシャルロットの研究室。
亜空間を作り出す魔法で、彼女は私室の中に、全く別の研究室を作り出してしまった。
しかしどうしてこんな色かというと、魔法に失敗してしまったからだ。後から空間の色を変えることは可能なのだが、使っていくうちにこの色が気に入ったらしい。
部屋の中には銀色の長机が並べていくつも置かれてあって、その上にはいかにもな感じのフラスコとビーカー、水晶玉やら魔導書やら……得体の知れない何かまで、所狭しと置かれていた。
「さてと、始めましょうか」
1人呟くシャルロットに反応するように、ビーカーの中の液体が結晶となって一粒一粒出てきた。
緑色のそれはまっすぐとこちらへ飛んできて、シャルロットが広げた薄い紙の上に落ち、ドロリと溶けてゼリー状になった。
さらに、彼女が手を前に出し、青い板に向けて指をさす。そして人差し指をクイッと自分の方へ折り曲げると、青い板は音もなく彼女の手元に飛んできた。
まるで料理でもされていくように、青い板は細かく砕かれていく。
飴細工のように艶やかで透明感のある青い粒は緑色のゼリーと混ざって、みるみるうちに固体になっていった。
「デュオ・オーラヴ・リュク・リエール………」
シャルロットがその表面をひと撫でして呪文を唱えると、それは瞬く間に鏡へと変わった。
「ふぅ」
水気のないおでこを拭う仕草をして、シャルロットは息を吐く。
鏡を向き、
「さて、鏡さん?過去を映して!」
と語りかけると、鏡の表面は何やらモニョモニョと動き出した。
「んっ、まぁ!」
ぼむっぼむっと、鏡の上に形作られた目と口が開き、変な声を上げる。
「おはようございますっんっふ!」
マダムと呼ぶのがふさわしいほどの喋り方に、シャルロットは眉をしかめることもなく話しかける。
「ねぇ、鏡さん。温室の過去を映してほしいの」
赤い髪をかきあげる仕草に、思わず吸い込まれそうになる。
しかし鏡は、目を3度ぱちくりとさせた後、答えた。
「まぁ、色っぽいご主人様ねぇっんふっ。
いいわぁ、私の名前はトリシア。時空を超えてありのままを映す鏡…んふぅ。」
トリシアはそう言うと、全身を輝かせる。
「してご主人様?過去と言ってもいつを映せばいいんですのん?」
「そうね…とりあえずここ3日の温室の状態を早送りで、お願い」
「わかったわぁん!」
トリシアは目を閉じると全身を一層輝かせて、温室の様子を映し出した。
「これが、3日前よん!」
映された映像は薄暗い夜の温室だった。
花達は蕾を閉じ、木は葉を項垂れるように下ろして、眠りについているようだ。
地上から見るよりも遥かに近い月がぼんやりと輝き、ただ一つ、月下美人だけがその花を広げている。
見る限りでは、何もおかしなところはない。
「ねぇトリシア?次の日をお願い」
「わかったわぁん!」
早送りのように過ぎていく鏡の中の風景は、普段見ることの出来ない、早朝の温室を映し出す。
眠りから覚めたように伸びをする花や木が、主人が起きてくるのを待っている。
そこへ、私が現れた。
下ろされた赤い髪を揺らしながら目をこする。
私ってば、こんな眠そうな顔してるのね、少し恥ずかしい…そう思ってクスリと目を細めた瞬間、黒い影が温室の外に見えた。
「…?なにかしら。トリシア、ストップ。」
「今のところねん!」
「そう、お願い」
トリシアがパチパチと2度まばたきすると、鏡は先ほどの影をまたも映し出した。
「ねぇ、これ…もっと鮮明にできる?」
「任せといてぇん!」
ぐ、ぐ、ぐ…と、3段階にわけて鮮明度が上がっていく。
一番近くなった時、その影が誰なのかが明らかになった。
「…でも、なんで?」
それからもシャルロットの周りでおかしなことは度々起こった。サボテンが伸びるだけではなく、赤かった花瓶が黄色に変わっていたり、カーペットがひまわりの形になっていたり…。
「どうもおかしいわ?何なのかしら?」
シャルロットは首を傾げる。
ちょうどその時、シャルロットの館にはお客さんがいた。人間界で高名な探偵で、ある理由で困ってしまって調べ物をしていたところ、裏サイトでこの館の事を知ったそうだ。
「ふむ、シャルロット嬢、この変化、黄色ばかりですな」
「黄色?」
「そうです。考えてみてください、伸びたというサボテン、色は?」
「…確かに、黄色がかってたわ。それに花瓶も、カーペットも。」
「でしょう。最近、なにか黄色に纏わるものでも泊めました?」
「…!もしかしたら」
シャルロットはエントランス左側、奥に続く廊下を走る。いち、に、さん、し、ご…右側の5番目の扉には、ドアノブに小さなりんご柄のカバーがかかっており、シャルロットはその扉を勢いよく開ける。