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sandglassto  作者: 池端 竜之介
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危機

  休んで4日目に、山田は会社に出た。

案の定机の上には、書類が山積みとなり、上司は、あれやこれやと言っていた。

軽く受け流して、山田は書類を優先順位に分けて、午前中にほぼ仕事を片付けていった。

午後からは、クライアントへの打ち合わせに出かけた。

とくに休んだからと言って、会社がつぶれるわけではない。

仕事の出来が、遅れるだけだ。

クライアントからの要望の要点だけ書き留めて、Surfaceを抱えて喫茶店に入った。

テキストデータに項目をまとめて、会社のクラウドシステムに放り込むと、コーヒーに口をつけた。

スマートフォンに、田代の名前が表示された。


 山田は、まだ2日もたっていないのに依頼したこと何かあったのかと思い、画面をタップした。


 「山田、この前の案件、稟議していないよな」


 といつになく緊迫した声で田代が叫んでいた。


 「稟議には出したが、リスクが高いのでやめるように意見しておいた。」


 「それならいいが、あの国の政権が崩壊するかもしれないぞ」


 「ソースは?」


 「大手が資本を引き揚げ始めている、まだ確定ではないがリスクマージンを取っているとしか思えない」


 「わかった、データを送ってくれるか」


 「ああ、わかった。送るがまだ未確定なので取り扱いは慎重にしろよ」


 といって田代は電話を切った。


 SurfaceのメールBOXにすぐにデータが来たので、確認する大手企業が軒並み、持ち株のを売りに出しているのか、外貨預金の金利が上がっていた。

外貨預金では、金利が高いものは国の保証がないからで、国債が売れないから金利が高くなる。

つまり、信用のない国の外貨は金利が高くなるのだ。

日本の金利は低く抑えてあるが、そのせいで国債の金利も安い。

仮に日本経済に不安が走れば、金利をあげないと国債はうれなくなる。

また、国債の金利が上がれば、それだけ金利負担が増え経済は崩壊する。

外貨の金利は上昇は、国家の経済状況を映している。


 山田はすぐに会社に戻った。


例の女性社員が、ほかの社員とお喋りに興じていたが、無視しして部長の席まで急いだ


 「部長、先般のK国との合弁企業への資本参加の件ですけれども稟議は通ったんですよ」


 「あれは取締役預かりの案件になっている」


 「まさか、資本参加してはいないですよ」


 部長は押し黙った。


 山田は稟議の中で、田代からの報告で、K国の内情が不安定で現政権が崩壊する危険があることと

リベート額が異常に高すぎるのでやるようにと稟議したのだ。


 「まさか、出資したんですか」


 「詳しくは知らんが、取締役会の承認で出資した聞いている」


  山田は、田代からの情報をプリントアウトした物をだした。


 「政情が不安定なのですよ、政権が変われば出資金の回収も不可能になります。」


 「しかし、取締役会での決議事項だ」


 「なにを言ってるんですか、年商400億の会社が20憶も出資してこけたら倒産ですよ」


 と山田は怒鳴った。

 そもそも、K国では100%外国資本の会社は設立できないので、49対51の比率で出資する、当然山田の会社単独ではないが、リターンを多く得るためにかなりの比率で出資することになる。

今回の合弁会社は、大規模プランテーションへの出資なので、先物取引の要素が大きい。

さらに外貨(ドルだて)なので為替差損もある。

現在のドル高のおかけで安く済んでいるが、世界の警察を気取る米国が、紛争へ介入すればあっという間にドル安に転じる。


 「すぐに取締役に連絡してください」


 部長は青い顔をして、携帯で連絡を取っていた。


 山田は、自席に戻ると関連の情報を集めだした。

 他の営業社員は出払っており、山田が作業をしながらクライアントからの問い合わせ作業をしていた。

 

 山田が他の電話対応中に別の電話がなったが、誰も電話を取ろうとしなかった。


 「誰か電話をとってくんないかな」


 とお喋りをしている女性軍に向かっていった。


 「営業電話、よく分からないし」


 と以前と同じセリフをのたまわった女子社員がいった。


 山田の顔色が変わったのを見た、他の女子社員が


 「山田さん、すみません、私が応対します」


 といって電話を取ってくれた。

 その社員は、入社5年目だが、山田が出かける時や、帰ってきたときに"お疲れさまです"と声をかけてくれる、女性だった。


 電話の内容を確認し終えると、山田はカッとなる気持ちを抑えて


 「田崎さん、いい加減にしませんか。私はあなたに好かれようとは思わないが、仕事をする上ではチームだと思っています。ましてや、あなたは私の先輩で、主任です。わからなければなぜ知ろうとしないのですか。自分の得意分野だけでやっていけるほど会社は甘くありませんよ。20年以上も同じ仕事していけば、だれでもその道のプロですよ。しかし、それでこれから通るほど、世間は甘くありませんよ。」


 と言い放って自席に戻った。

 言われた田崎はふてくされたような顔をして、周りの女性軍に同意を求めていた。


 先ほど電話を取ってくれた、木村という女性社員がメモを持ってきた。


 「山田さん、富山商事の山本さんからの電話で、代行輸入の部品の件で電話を欲しいそうです」


 「木村さんありがとう、迷惑をかけてごめんね」


 「こちらこそ、お忙しいにお手伝いもできず。お手伝いできることがありましたら、おっしゃってください。」


 といって、頭を下げた。

 そういえば、彼女は去年の冬に営業の若手と結婚したばかりだった。

 この会社では、社内結婚が多い。

 結婚しても辞めなくていいし、会社も推奨している。

 お互いの状況が理解できるので良いという意味でだ。

 もっとも、社内教育をして育てた人材を結婚や出産で失うのは会社の損失だという考えを持っていた。

 それは至極正しいことだと、山田も思っていた。

 だから、妻の裕子が働くことにも異議を唱えなかった。

 しかし、弊害もあることを認識しなければならない。

 かくゆう先ほどの、田崎も社内結婚組だ。

 旦那は、どこぞ支店の部長だ。

 家庭内離婚よろしく、両親の介護と称して別々に住んでいるらしいとのうわさを聞いていた。


 山田は、とにかく資料をまとめた。

 山田の資料が纏め上がったころに、取締役が帰ってきた。

 山田はすぐに資料を抱えて取締役室に入った。


 「話は、本当なのか」

 

 と資料に目を通し終わった取締役が深刻そうな顔で口を開いた。


 「確証はありません。噂の域を出ないのかもしれませんが、大手の動きはどちらに転んでもいいようにリスクの分散を図っているものと思われます。現政権が倒れると右寄り政権が誕生すると考えられ、軍部が後ろ盾となる危険性出できます。そうすれば、米国も自国安全保障と資産をめぐり圧力をかけるはずです。そうなれば、出資している会社経営も被害が出ると思います。経済制裁をかけられると一発でしょう。」


 「しかし、事業はすでに動き出している。いまやめれば賠償問題でもめることになる。戦争保険にも入っていない」


 「今すぐに違約金を払っでも撤退すべきだとと進言します。」


 「すでに2回目の払い込みをしている。4億以上の損失となる」


 「とにかく現地の弁護士と現地駐在員で交渉して違約金を払ってでも撤退すべきです。確かにこの投資は、昨今の日本の健康ブームに合致したリスクの少なくリターンの多い投資でした。しかし、K国は過去においてもクデターにより政権が変わっており、一時は左寄りの政権時期もあり、その時にはかなりの外国企業が損失を被ったはずです。」


 「わかった、すぐに検討しよう。引き続き情報収集をしてもらえないか」


 「わかりました。情報がデリケートなので外部からの情報提供を仰いでもよろしいでしょうか」


 「かまわん、正確で新しい情報を逐一頼む。」


 取締役は、すぐに他の役員を呼んで緊急の会議を開くようだった。・


 山田は取締役室を出るとすぐに、田代に正式に情報の確認を依頼した。

 すでにかなり情報を集めていて、政権交代は間違いないらしかった。

 外国資本の引き上げもやはり水面下での様子見らしかった。


 その日は夜遅くまで、山田は情報の収集をして12時を過ぎてアパートに戻った。

 部屋に入ると、前と違っていることに気づいた。

 そういえば、この前来た、美香子が部屋を片付けていってくれたからだ。


 あんまり食欲がなかったので、ナッツをかじりながらウイスキーをショットであおった。

 明日の朝シャワーを浴びることにして、6杯目のショットを飲んでベッドに倒れこんだ。

 疲れていたのか、そのまま寝入ってしまった。


 ひどく疲れた一日だった。

 

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