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sandglassto (何度でも繰り返す時間)  作者: 池端 竜之介
14/17

夏至

 不意の偶然の中での出会いだった。

 桜の花の咲く中で、出会った。

 何もなければ、出会うことなどなかった二人だ。

 山田が、一番つらいときに一緒にいてくれた。

 過ごした時間の長さではなく、密度の濃さがより鮮明に人を印象づける。

 まだ、美香子と会ってから、3か月くらいしかなかった。

 その間に、離婚もした。

 よく月には、転勤だ。

 目まぐるしく時間と人生の転機が訪れていた。

 そして、また新たな展開を生もうとしていた。


 美香子を病院に連れていった次の日、田代が病院にいる山田を訪ねてきた。

 田代を病室から連れ出すと、


「警察に届けた。もうすぐ所轄がくるはずだ。強姦は親告だが、傷害は別だ。山田、お前の覚悟はどうなんだ。」


 山田は、ぐっと拳を握ると


「乗りかかった船だ。やるさ」


 田代は頷いた。


「もう調べに入っているが、相当の毒親だな。育児放棄も仕方がないと思うくらいだ。彼女の母親も育児放棄をされていた。もともと、私生児のだったんだ彼女の母親は。連鎖するんだよ。こういうことは・・・」


 田代は悔しそうな表情を見せた。


「とにかく、彼女のそばにいてやってくれ。」


 と田代はいって帰っていった。


 程なくして男性と女性の警察管が事情聴取にきた。

 事情が事業なので、美香子は個室の病室に入っていた。

 美香子は警官を見て怯えていた。

 山田はそんな美香子に、声をかけた。


「大丈夫だ。何も心配はいらないから、すべて正直に話すんだ。」


 美香子は、ゆっくのと頷いた。


 警察は、美香子から怪我をした状況について、詳細に時系列に沿って質問を繰り返した。

 当然、状況の説明となり婦人警官がゆっくりと言葉を選んで質問していた。

 美香子はときどき、山田がいることを確かめたうえで、事情を説明していた。

 山田は、美香子の受け答えを聞きながら、心の奥で怒りが増していくのを感じていた。


 後は体の傷の写真を取るので婦人警官と美香子を残して、男性警察官と外に出た。


「ひどいもんだ。」


 と男の警官が言った。


 山田も頷いた。


「ところで、あなたは被害者とは、どのような関係なのですか」


 山田はあまり勘繰られたくもないので、名刺をだして身分を提示した上で、友人であると告げた。


「知り合って、どれくらいですか」


 と警官が訪ねた。


「3月くらいです」


「失礼ですが、特別な関係は?」


 職業柄しかたがないのかもしれないが、肉体関係の有無の確認にはすこしむっとしたが、きっぱりと否定した。

 その表情を確認したのか、警官は表情を柔らかくした。


「彼女は以前にも、一度逮捕されています。履歴がありました。今回の身元保証はあなたがされるとか。」


 山田は、事務的に


「そうしたいと思いました。彼女の家庭の事情は少しは知っているいましたし、一人くらいは大人が味方にいてもいいじゃないですか。退院後は、私が面倒を見て同居します。」


「まだ、世の中にはそのような奇特な方がいらっしゃるんですね。」


 と警官は、軽く頭を下げた。


「強姦は、親告罪です。どうされますか」


 と警官が訪ねた。


「彼女次第です。私は、彼女の意志に任せます。」


 と山田はキッパリといった。


「裁判では、相当辛いことを聞かれますが、警察も万全のサポートをします。」


 と警察官は遠慮がちに言った。

 たしかに、法廷ではその内容が、言語化されて生々しく伝わることがあるらしいとは聞いていたが、それでも、美香子には戦ってほしいと願っていた。

 逃げれば、いつまでも過去にさいなまれる。

 自分で犯した罪であればそれも仕方ないのだろうが、他人に踏みにじられたことで、自分が苛まれるのは、おかしいことだと山田は思っていた。


「どのような結果においても、彼女を信じます。私は、彼女のことは娘だと思いますので。」


「そうでいすか。彼女はいい人に巡り合ったんですね。よかった。」


 と警察官は感慨ぶかげに言った。


 しばらくして、婦人警官が出できた。


「後ほど、署の方での手続等があると思いますので、ご連絡申し上げます。」


 と言って、二人の警官は頭を下げた。


「わかりました。本日はご苦労様でした。」


 と山田も深くを頭を下げた。


 病室に入ると、美香子は体を起こしていた。


「疲れたろ」


 と山田が声をかけると、コクリと頷いた。


「横になっていいよ。何か欲しいものはある」


 との山田の問いに首を横にふった。


「迷惑ばかりかけて、ごめんなさい」

 と美香子はいって頭を下げた。


「いや、いいんだ。好きでやってる」


「好きで?」


「ああ。好きなんだろう。昭和生まれのおじさんには。ダメかな」


「ダメじゃない。とっても嬉しい。でも、いつかいなまなってしまうから寂しい。」


 と言って、美香子はうつむいた。

 山田はベットの端に座ると


「いなくなったりはしない。俺も独りだから。一番つらいときに、美香子がいたから耐えられたから、この数か月、美香子がいてくれたから耐えられた。だから、今度は、俺が美香子のそばにいるよ。」


「ほんとに?」


「ほんとに!」


 といって、山田は美香子の頭に手をのせて髪をくしゃくしゃに撫ぜた。


 山田は、美香子から頼まれて、緒方のバイク便に暫く休むことを告げに言った。

 店に着くと、緒方が笑顔で迎えてくれた。


「この度は、中野さんが怪我をして、休まれるらしくそれを伝えに来ました」


 山田のこの言葉に、緒方はすこし険のある顔つきをした。


「山田さん、事情は分かってるんだ。回りくどい言い方はやめてくれ。地元で起きたことはすぐにわかる」

 と緒方は吐き捨てるようにいった。


「すみませんでした」


「あんたに怒ったわけじゃない。あのばか母親にだ。なんてことをしたんだ。くそ 頭にくる」


 といって、椅子を蹴り上げた。


「あの子はいい子なんだ。頑張り屋でな。バイク乗るのが好きで、そんな子にあんなひどいことをさせやがって、くそ」

 とまた緒方は椅子を蹴り上げた。


「知ってたんですか。あの子の事情を」


 山田の問いに、緒方は頷いた。


「もう、2年も前になるかな。最初の出会いは最悪、あいつ、いきなり"おじさん 遊ばない"ときやがったので、どなりつけてやった。そしたら、泣き出しやがって事情を聞けば、ひでえ話だし、じや俺んとこで働けと言ってやったら、ほんとに来やがった。でも真面目に働いたんで、バイクの免許も取らせた。結構稼ぐようになっんだ。ばかなことはしなくなった。俺は喜んでたよ。俺でも人助けができるってな。」


  緒方の目にうっすらと涙が滲んでいた。


「あの馬鹿、母親だ。ろくでなしのな。もっともあの母親の母親もろくでなしだった。なのにあの子は、それから抜け出そうと思っていたよ。それが、最近妙に変わってな。すごく笑うようになったんだ゛。訳を聞いたら、"お父さんみたいな人が出来た"といって、あんたの名前を言ったときは、びっくりしたが、変な意味じゃなくて、父親のように慕っているようだったから安心した。山田さん、あんたやっぱりいい人だったんだね。あの子の顔見てたらわかった。帰りによくスーパーで嬉しそうに買い物してたもんな」


 山田は、ちょくちょく来ては、ご飯を楽しそうに作る美香子の姿を思い出していた。

 美香子はきっと、父親の姿を山田に見出していたのだろう。


「山田さん、どうかあの子のことを頼む」


 と緒方は頭を深く下げた。


「私こそ、あの子には、美香子には救われています。大丈夫です。どんなことがあっても守ります。」


「ありがていな」


 といって、緒方は山田の手をしっかりと握った。

 美香子は一週間ほどして、退院した。

 その間に、美香子に暴行と強姦を行った、母親の情夫は強姦致傷罪で逮捕、母親も美香子が高校1年の時に無理やり売春をさせたとうことで児童福祉法違反と売春防止法違反の罪の逮捕された。

 ともに実刑は固いということを、警察が美香子に通知してきた。


 これも、短期間で美香子の母親の周辺調査をして、情報提供してくれた田代のおかげだった。

 田代は、悲痛な面持ちで、調査結果を山田に手渡してくれた。

 そこに書かれていたのは、美香子の話どおりだったが、語られていない真実があり、中学の3年から、母親から強制的に売春行為を強いられていたらしい。

 高校1年の時に、補導されたが、母親が援助交際だと言い張り、うやむやになったが今回は、娘の証言も取れたので、時効にかかっていない分の立件となるらしかった。

 また、美香子の母親の情夫から性的な関係を強制されおり、最近それを拒否続けていたので、かっとなっての今回の事件となったらしいかった。

 そういえば、ここ最近は、よく山田のアパートにいることが多かった。それで、納得がいった。


 山田はタクシーで病院から、美香子を乗せて帰ってきた。

 何故か、美香子はアパートのドアの前で、立ち止まった。


「どうした」


「・・・・・」


 美香子は無言だった。


「入ってもいいの。迷惑じゃないの」


 と恐る恐る訪ねてきた。


「自分家に入るのに、遠慮がいるのか」


 と山田が言うと泣き出してしまった。


「さっ、とにかく中に入ろう。今日は夏至だから、いつまでも明るいぞ。お日様の下で泣くのは、うれしいときだけだ。」


「うん、うれしいから泣いてるの。とっても嬉しいから」


「そっか。よかったな」


 と肩を抱いてドアを開けて美香子を中に入れた。


 山田は優しく


「お帰り」

 と言った。


 美香子は


「ただいま」


 と言った。


 夏至の夕日が、窓を赤く染めていた。

 明けない夜はないのだと山田は思った。

 

もう少しで、完結します。読んでくれている人がとてもうれしく思います。正直書きながらひどく疲れていることに気づきますが、アクセス記録を見て元気がでます。どうも最近の異世界だの魔法だのには免疫がないものですから、どうしても現実の世界を舞台にしてしまいます。やはり、悲しみと怒りに満ちた世界であっても救いはあるという思いがあります。あったことをなかったことにして、タラればの話が書けないのが致命的ですが。もうしばらくお付き合いください。今月中には完結です。仕事の関係で暫く書けなくなってしまいますが、また帰ってきます。それまで忘れないでください。

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