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巻き込まれただけですから!  作者: とある世界の日常を
7/11

05.評判

文章は相変わらず拙いですが、楽しんでいただければ幸いです。


 それを耳にしたのは、日々邁進して精力的に様々な情報を収集していた時の出来事だ。


「本当に聖女様なのかと、疑いたくもなりますわ」


 愚痴のようにこぼされた言葉に、カエデは苦笑いを返すしかない。面倒臭そうだからと見捨てたまだ未熟な子供。あの日あの時、偶然その場所に立ち会ってしまっただけの、見知らぬ子供。


「(関係ないと、切り捨ててしまった子供・・)」


 あまり良くない評判を聞くたびに、ジワリと罪悪感のような居心地の悪さが胸に広がる。


「大体、殿方に色目を使うばかりで、礼儀作法の教育もろくに進んでおりませんのよ」

「元の世界では、そういったものは殆ど必要がありませんでしたので・・アカリ様は本当に、まだ幼いのです。私も同じ年頃の時は余り勉強もしなかったものです。学ぶ事の大切さを知ったのは、大人になってからでした」

「それでも、もうアカリ様も15歳なのでしょう?来年には大人ですわ。もう自覚を持ってもおかしくないお年ですのに」

「元の世界では16歳もまだ子供なのです。成人は20歳を過ぎてから・・・そのような常識ですので、自覚を持つという事が難しいのです」


 概ねカエデが接する事が多いのは同年代ばかりであり、一番若いのは18歳のラルガである。ごくまれに研修という形で成人したばかりという16歳の青年がエントヴァのいる職場に訪れる事があるが、見目もそうだが、中身もそれなりに成熟していると感じていた。恐らく、そうであるように教育されてきた結果だろう。

 確かにそれらを見ていると、いかに元の世界の同年代の子供たちが幼いかというのが実感できる。見目もその要因の一つではあるが、立ち振る舞いに明らかに差がある。教育一つで、ここまで変わるものなのかと驚きを隠せない。


「子供が子供でいられる期間は余りにも短いのです。戦争のない平和な世になり、大人たちは子供にゆっくりと育ってほしいという願いを込めていたのでしょう」


 ゆっくりと育てすぎて一時期ゆとり世代などと呼ばれるような結果も出てしまったが、詰め込まれ過ぎた大人たちにとってはそれが良い事だと思って実行したのだ。悪気があったわけではないし、その後は幾度か改善もされている。


「彼女はそんな中で優しく育てられたのです。この世界とはあまりにも常識が違います。それに慣れるにはとても時間がかかるでしょう」


 成長するには時には厳しい言葉も必要だとは思うが、あえてそれは言わない。受け入れたのは彼女とはいえ、勝手に連れてきたのはこの世界に住む彼らなのだ。帰りたそうにしていなかったとしても、ここに来た事自体には彼女の意志はない。多少の我儘には融通をきかせても良いんじゃないだろうか。


「カエデ様はこんなにもしっかりなされているのに・・・」

「私は向こうの世界でもとっくに成人していましたからね。大人として扱われていなかった子供を、突然寄る辺もなく大人として扱うのは酷な事です」

「カエデ様がお側にいましたら、アカリ様も少なからず落ち着かれるのではないかと思うのですが・・」「最初にご説明いたしました通り、元々知り合いというわけではないのです。本当に、あの時偶然そこに居合わせて巻き込まれただけで、近しい間柄ではないのです」


 アカリの愚痴を耳にするたびに、同郷だから何かしらを期待しているのだろう。こうして聖女の近くを勧められる事は今回が初めてではない。


「(恋愛脳って印象が拭えないし、そういうタイプって思考が全く違ってて苦手なんだよね。可哀相とは思ってるけど、積極的に関わりたいとは思わない)」

「カエデ様のお返事は分かっているつもりでしたけど、改めてお断りされますと寂しいものですわね」


 こういう時、なんと返事をするべきか迷う。だからカエデはあえて返事をせずに曖昧に笑みを浮かべるだけに留めた。


「でも本当に、カエデ様がご一緒でよかったですわ。もし聖女様だけで同じような行動をされてしまったら、きっと聖女様は希代の悪しき聖女として認識されてしまっていたでしょうから・・・」


 常識の違いとは時に恐ろしい結果を招く。第三者として情報を提供できる立場にいてよかったのかもしれない。


「そうならなかった事に感謝致します」

「カエデ様はお優しいのですね」

「彼女にはそれしかして差し上げる事ができませんから」


 それでも噂がやむことは無い。

 流石に男性と関係を結んだという噂は出て来ないが、やれ誰々の尻を追いかけているだとか、いつの間にか何処かに行ってその間は男と密会してるやら、気に入らない女性を直ぐ辞めさせるとかそんな噂ばかりだ。

 実際、彼女はもう何人もの侍女を辞めさせているらしく、その辞めさせられた女性は何故か悉くカエデの元を訪れていた。


「何故お暇を申しつけられたのか分からないのです。聖女様は紹介状も御用意下さいませんでしたので、聖女様の侍女が務まらないような者なのだと、心無い言葉を掛けられる事もございます」

「それについてはエントヴァ様がご対応下さいますでしょう。以前ご相談にいらっしゃった方も同じ事で悩んでおいででした」


 本来であれば王族や高位貴族の侍女になるような女性達だ。だからこそ聖女という権力者の侍女に抜擢された。それを紹介状もなしに放り出すのは、侍女が庇いようのない失態を犯したのだと言い触らしているようなものだ。

 だが辞めさせられる侍女が全員同じように放り出されている訳ではない。今相談に来ている侍女を含めた3名の侍女以外は聖女専属の侍女長が後日紹介状を届けている。それがない3名は聖女直々に紹介状は書かないと明言されてしまった者たちだ。つまり聖女は紹介状の存在は知っているのだ。

 しかし複数人から話を聞く限り、侍女達に落ち度はない。


「(あえて、辞めさせられた侍女達の共通点を上げるとするなら・・皆美女ってとこかしら)」


 器量も良ければ、我慢強く従順でまさに淑女。


「暫くは私の侍女として働いて頂くことになるかと思います」

「ありがとうございます・・カエデ様にご相談して宜しゅうございました・・・」

「ご対応下さったのはエントヴァ様です。私に権限はありませんので、お礼はエントヴァ様にして頂けましたら」


 聖女専属の侍女の住居からも追い出されたという事で、エントヴァに指示されていた通りの対応を行う。


「(そういえば、使用人用の宿舎って空いてなかったんじゃ・・最近空いたのかな?)」


 聖女専属の侍女用居室は一人につき一部屋与えられると聞くが、使用人用の宿舎は男女分かれているものの、数人でシェアする仕様になっている。

 形としては聖女と共に来た異世界人が城下に下りるまでにまだ期間が空くので、聖女付きの侍女を臨時でもう一人に付けたという事になる。城下に下りる際には新しい聖女付きの侍女がいるという理由で、紹介状付きで高位貴族の侍女になる予定だ。

 とは言え噂自体がなくなるわけでは無いので、心無い言葉を言う者はいなくならないだろう。ただ紹介状はあるから、表立って問題になる事はない。


「(もう少し考えて行動した方が良いと思うけど・・)」


 こうして都度常識の違いだと説いてはいるが、改善されなければ不満は高まるだろう。だからと言ってありのままの状況を述べたとしても彼女が素直にそれを聞き入れるとは思えない。


「(いや、それも偏見か・・)」


 噂を否定しながらも、カエデ自身が噂に翻弄されていることに気付く。カエデの中でアカリという少女は我儘な癇癪持ちの子供というイメージになってしまった。本人とは数日、というよりも数時間しか関わっていないのにだ。


「(だけど仮にイメージ通りの子だとして、嫌われた時に即刻お城を追い出される結果になりかねないからリスクが高いよねぇ・・)」


 何しろ侍女を紹介状もなしに即日解雇という暴挙に出た実績がある。そんな事をする子供に権力なんて持たせないでほしい。大体聖女の条件って何なんだろうか。これも偏見ではあるが、アカリは清純からも程遠ければ、処女であるかも疑わしい。案外処女であるかもしれないが、その割には男性に対しての接触が積極的すぎるように感じられる。


「(どの道、今以上の事はできないし・・)」


 思考のループから抜け出すために気持ちを切り替える。


「(今は、関係ない)」


 そう思考を切り替えても、似たような噂話がまた同じようなループへと誘う。


「(私、何やってんだろ)」


 城下に下りる目途は未だにたっていないし、それを良いことにいつまでもエントヴァの好意に甘えている。


「(情報は得られるようになったんだし、自分で探した方が良いかもしれない)」


 文明の進んでいない世界だからこそ、有力者からの紹介というアドバンテージは大きい。けれど同時に紹介する側とされる側にもリスクが発生する。

 私が何かしらの失敗をすれば紹介する側の名に傷が付き、雇用側は私の扱い方如何によっては紹介者からの不況を買う可能性がある。親類であれば許されるソレも他人、しかも国の責任者からのソレは互いに扱いづらいものがある。


「(結局甘えてるのは私も同じね)」


 相変わらず耳に入る噂はどれも良い噂とは言えない。それでも自分の身を振り返れば、彼女を批難する事など出来ないのだ。


「アカリ様は変な所をご自分だけで為さろうとするのです」

「例えばどういった事でしょう?」

「香油でのマッサージは受けて下さるのですが、最後は一人が良いと途中から絶対に人を居室にお入れにならないのです」

「裸は恥ずかしいのではないでしょうか?」

「でもマッサージの時は裸ですのよ?」

「・・それは・・」

「それに朝のご準備にも侍女を入れるのを酷く嫌がりますの・・それで辞めさせられた侍女もおりますわ」

「ああ、テレーズね」

「はい、とてもお怒りのご様子だったと・・」


 テレーズとは最初に私に助けを求めに来た侍女である。彼女は初めて紹介状もなしに放り出された侍女でもある。


「(テレーズもどうして逆鱗に触れたのか分からなかったみたいなのよね、他の侍女と同じようにカーテンを開けてお声を掛けただけだって話だったし・・何が嫌だったのかしら)」

「あれ以来、侍女はいつそれらが自分の身に降りかかるのか、内心では怯えているのです」

「香油マッサージは私も前の世界で何度も受けておりました。公衆浴場にも行く事がございましたのでマッサージも入浴も侍女に手伝って貰う事に抵抗はありませんが、別々の機関が行うサービスでしたから、入浴には抵抗を感じるのかもしれません」

「そうなのでございましょうか・・」

「でも朝はどうしてなのでしょう」

「今はどのように為されているのですか?」

「今は居室に伺いカーテンを開けてお声を掛けるだけにございます。何度かお声掛けするとアカリ様からお返事がありますので、確認したら居室から一度退室致します」

「なぜ?」

「アカリ様からそのようにするようご要望があったのです」

「・・・」


 もしかして、スッピンが見られたくない?


 この世界の人は基本的に薄化粧だ。元々の顔立ちが濃いめというか、堀が深い。典型的な西洋人だ。堀が深いからといって全員顔が整っている訳ではないのだが、好きな人は好きだろう。

 対してアカリの方はぱっと見でも濃いめの化粧をしている。この前の視察の時も結構濃かった。付け睫毛もバッチリついて、多分カラコンやアイプチもしている。涙袋も化粧で陰影をつけてあたかも涙袋がそこにあるように見せ掛けている。かなり化粧は上手だと思う。

 所謂詐欺メイクというやつだ。スッピンがまるで別人のよう、という可能性がある。


「(聞いた事によって意識が向く可能性があるから聞けないかも・・)」


 化粧をしているからこそ、スッピンを見られるのが嫌だというのは理解できる。私の肌は赤みを帯びやすいから化粧は薄いものの、ファンデーションだけはしておきたいと思う。

 今はもうそこまで気にしていないけれど、若いときは少しコンビニに行くだけという時も絶対にファンデーションだけはしていた。


「その後はどうされるのですか?」

「大体1時間ほどで入室が許可されますので、1人は居室の前で待機しております」

「(化粧に1時間程かかっているなら、やっぱりスッピンとの差が激しいのかな?若い子って化粧上手だから、あんまり分かんないんだよねぇ)」


 本人と仲が良いわけでもないので本人にも聞けないから、これも予測でしかない。


「私たちでは常識の違いに気付くことができません。どうか一度お話の機会を設けていただきたいのです」

「もし聖女様ご本人が望むのであれば構いません」


 なんだかんだ言って、小言が予測される私との会話を彼女も望まないだろう。

 地位もそうだが、立場も彼女に比べれば段違いに低い。だからこそ、彼女に断られてしまえばその場を設けるのは難しくなるし、彼女が望んでいないからと今後断りやすくなる。


「それではアカリ様にお伺いしたのち、再度ご連絡いたします」

「よろしくお願い致します」


 まさか彼女がそれを望み、予想以上に早く会う事になるとは思ってもいなかったのだ。

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