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巻き込まれただけですから!  作者: とある世界の日常を
5/11

03.自由

いつの間にかブックマークが増えていて大変嬉しく思います。


なかなか文章力が上達せず、稚拙なものになりますがお楽しみ頂けると幸いです。

 あれ以降、同郷だからという理由で聖女関連の相談が別部署からも持ち込まれるようになった。

 と言っても正式な依頼のようなものではなく、ふと見掛けた時に「こんな感じなんだけど、何か問題があるのかな?」みたいに世間話というか、愚痴の延長線上で聞いてみた。という印象が強い。


「見張られているようで嫌だとか、リドガル様がいらっしゃる時は護衛の必要はないとか、最近では視界に入ると睨まれるようになって…」

「前の世界ですと、そういった状況になる事がまずありませんから、息苦しいのでしょう。部屋付きではなく城内の見張りなのだと説明して、1度自室付近だけがそのような状況なのではないと認識させるのが良いのではないでしょうか?」


 実際は聖女の私室前なのだから当然警備兼監視は厳しい。それを一日、というよりも聖女を案内する時間帯だけ全体で同様の警戒態勢を見せれば良い。流されやすい日本人はそう説明され、視察までさせられたら納得せざる得ない。


「自分だけが不自由な状況に置かれれば、不満は溜まるものです。であれば、皆同じなのだと認識して頂けば良いのです」

「なるほど、上官に相談してみます」

「見せる為に連れ出すのではなく、何か別の理由で連れ出してから、さり気なくその状況を見て頂くのが宜しいかと思います」


 その数日後、実際に彼は上官に相談し、そしてそれが採用されたらしい。


「と言うわけで、ご協力お願い致します」

「エントヴァ様よりお伺い致しております。謹んで承りたく存じます」


 事前に上官に話が通っているのだから、断る理由などない。

 聖女を連れ出す理由は騎士の選抜だ。本来であればまだ先の予定だったそうだが、色々な要因が重なり早める事になったそうだ。


「カエデ様は当日、お仕事をお休み頂き居室にて待機して頂く事になります」

「かしこまりました」

「つきましては人選をお願いしたく・・」


 人選はある程度年齢が上で、屈強な兵士を2名と平均的な体型の兵士を3名選んだ。聖女の近衛が大体5~8名である事からの判断だ。部屋に籠もるのであれば、それ以上は不自然だろう。


「参考までに選考基準を教えて頂けますか?」

「人数的には近しい数にしつつも、聖女である特別待遇も無意識にでも感じて頂ければと、年齢は少し高めの方を選ばせて頂きました。また圧迫感を与えないよう控えめに選ばせて頂いたつもりです」


 厳つい顔は見慣れていて怖いと感じることはない。故にそのつもりで選んでも、相手に想定内の印象が与えられるかどうかなどただの予測でしかない。


「なるほど、悪くはない人選でしょう」

「ご納得いただけたようで幸いです」

「ですが聖女様にお付けしている騎士は若者が多いのです。一人は聖女様に付けている騎士と同世代にした方が違和感も少ないのではないでしょうか」

「お任せいたします」

「では最終決定が出ましたら一度顔合わせの場を設けます」

「よろしくお願いいたします」


 後日紹介されたうちの一人は、本当に若いと感じた。なんと18歳だ。

 今後の為にもこういった事を経験させておきたいらしい。


「問題はありませんか?」

「はい、大丈夫です。短い期間ですが、よろしくお願いいたします」


 軽く挨拶を済ませて打ち合わせを行う。当日違和感がないように行動するため、練習もかねてこの5名はそのまま警護任務を開始する事になった。夜間は一人が扉前に交代でつく事になった。定位置に兵士の見張りがいるのだが、聖女は夜に抜け出そうとするそうで、それを防ぐためにも夜は扉前に2名の騎士をつけているのだそうだ。日中は室内に1名から3名、扉前に2名の騎士が付く事になる。室内の人数に変動があるのは交代で休憩をとってもらうからだ。

 そしてそのままの流れで当日まではお手伝いはお休みして、エヴァンシュによる教育に重点を置くことなった。簡単に言えば移動時には5人全員が付いてくるので、その人数でうろうろするのは少々都合が悪いのだそうだ。まあ有体に言えば邪魔なのだ。いろんな意味で。


「まだいつにするのかは決まっていませんが、来週中には終わる予定です」

「かしこまりました」


 とは言っても実際警護任務と言ってもやることはない。5人もいるのだ。暇を持て余すのは当然と言える。それを幸いとエヴァンシュはカエデのダンスパートナーとしてライオネルを指名した。末席ではあるがライオネルは貴族なのだ。


「ダンスは得意ではないのですが・・」

「そんな、お上手ですよ」


 騎士は騎士のダンスパーティーがあるらしく、それぞれが一応ダンスを習っているのだそうだ。しかし平民出身の貴族は付け焼刃の技術であるためお世辞にも上手とは言えない人が多い。それに比べ末席ではあっても貴族であれば幼少の頃から習っているのでその技術も高い。


「(やっぱりお相手がいてのダンスの方が踊りやすいな)」


 いつもは相手がいる事を想定してのエアダンスである。相手がいない分、足を踏む心配もないので気楽ではあるが、何分エアであるために感覚は掴みづらい。


「カエデ様も随分とお上手ですね」

「そう言っていただけると嬉しいです」


 それから穏やかな日が過ぎていった。

 時折変更点や追加事項で打ち合わせを挟みつつ、ついに当日になった。


「それでは、本日聖女様がこちらにお伺いいたしますので」

「はい、打ち合わせ通りに過ごしております」


 こうして彼らに協力はしているが、聖女と祭り上げられたアカリという少女には多少同情してしまう。

 おそらく彼女はこうなる事を全く考えていなかったのだろう。そして今なぜそのような状況になったのかさえ理解していない可能性はある。しかしそれも仕方のない事ではある。日本において、そのような状況になる可能性は往々にして限りなく低いからである。特に都心に住んでいたとなるとその自由度は地方に比べても格段に高くなる。想像しろという方が無理なのだろう。

 それに比べて私は概ね自由に行動させてもらえているだろう。聖女ではないというのが一番の理由だと思うが、それなりに城内を散策できるのはありがたい。それに仕事が決まれば城下に降りる事は決まっている。数日護衛兼見張りとして数人付けられる程度、終わりがあるとわかっているのだから苦痛にもならない。


「(そっか、彼女は終わりがあるかさえ分からないものね)」


 面倒な仕事や嫌な上司との飲み会であっても、終わりが来るとわかっているからこそ、愛想笑いを浮かべ社交辞令を並べて恙無く終わらせる事が出来る。終わりがいつ来るのか、そもそも終わりがあるのかどうかもわからない状態で「受け入れ難い事態」が続けば癇癪も起こしたくなるだろう。


「(今回の対策でも落ち着かないのであれば、今度提案してみようかな)」


 友人になれるタイプだとは思ってもいないが、彼女に不幸になってほしいわけではない。誰しも心穏やかに暮らす事が出来るのであればそれが一番なのである。


 しかし若いからこその適応力というものなのだろうか。彼女はあっけない程にその現状に渋々ながらも納得し、時間が過ぎるほどに護衛や侍女がいる事も忘れてしまうようになるのであった。

 つまりは、人目も憚らずに男に迫っているとも言える。人の口には戸が立てられない。いつの間にか彼女はイケメンには殊更甘いという評価がつけられる事になる。


 アカリのその評価は後にカエデを悩ませることになるのだが、今はまだ、カエデもその可能性に気付いていない。そしてその可能性を想定する事もないまま、日常が戻ろうとしていた。


「カエデ様にはこのまま二名の護衛を付けさせていただきます」

「護衛、ですか?」

「はい」

「・・どなたが残られるのでしょうか?」

「ラルガとライオネル殿です」

「ああ、なるほど新人教育の一環ですか、よろしくお願いいたします」


 人を護衛する機会はあるだろうが、その機会に新人を出すのは難しいのかもしれない。王族や高位貴族の護衛に出したとして、もし何かあれば斬首は免れないだろう。しかし低位の貴族に護衛を付けるには理由が足りない。新人を教育する場というものが少ないのだろう。

 しかし私であれば貴族ではない上に近いうちに城下へと降りて平民になる事が決まっている。何かがある可能性も低いうえに、もし何かあっても斬首になる可能性はない。しかも護衛を付けやすい理由もある。今回の出来事でそれは更に容易になったはずだ。この上なく好条件の新人育成機関になるだろう。


 さらに言えばラルガは平民出身であるゆえに貴族の護衛に新人として出す事が出来ないというのも理由の一つであった。通常、王族や高位貴族の護衛や侍女は低位の貴族の子息令嬢から選出され、年若い時から行動を共にし、その両親の護衛や侍女から指導されつつ経験を重ねていく。元々貴族であるためそれなりの礼儀作法は身に着けているので最低限はクリアしているのだ。

 それに比べ礼儀作法の身についていない平民をそばに置くのは難しい。臣下の失敗は主人の恥。リスクを負ってまで平民を召し上げようと思う貴族は砂浜で一粒の砂金を探すよりも難しいのだ。しかし近年、才能のある平民の騎士を育てようとする動きもあり、平民の友人が多いライオネルが中心となって新人の指導を行っていた。彼らにとって、カエデの護衛という仕事はまさに降って湧いた幸運だったのである。

 もちろん、カエデにそこまで知る機会はない。


 かくして王宮にいる間のみではあるが、カエデには常に二人の護衛が付く事と相成った。


「本日の予定は午前中はエヴァンシュ先生による授業、ダンスもありますのでまたお相手をお願いしたいのですがよろしいでしょうか」

「はい、問題ありません」

「せっかく城内に詳しい方がおられるのですし、昼食は食堂を使いたいと思っています。ご案内をお願いしても?」

「お任せください」

「ありがとうございます。食後はエントヴァ様のお手伝い予定ですが、最近は仕事も落ち着いてきたそうで、実をいうとそんなにお手伝いできる事もございません。新たに仕事をいただければと思いますが、部外者が仕事を頂くのは難しいかと思います。ですので何もなければ城内の見学をさせていただこうかと思っています。許可が頂ければですが・・」

「城内は一定のエリアであれば自由に出入りする事が出来ますので大丈夫でしょう」

「その時は案内お願いします」

「はい、喜んで」

「夕食はいつも通りエントヴァ様がお招きくださっていますので、一度部屋に戻り支度を整えてから向かいます。食後は部屋に戻り入浴後は部屋で過ごし、そのまま就寝します」

「了解しました」

「それでは本日も宜しくお願い致します」


 五人体制の時は夜も扉の前に護衛兼見張りが一人付いていたのだが、二人体制になったので夜の見張りは以前と同じ体制になっている。

 二人はカエデの朝食の時間帯に部屋に訪れ、部屋から出る予定がなくなった時点で業務終了となる。一日予定がない日は日暮れまで一応は業務時間となるが、その時の二人の待機場所はライオネルと相談しつつではあるがカエデに一任されている。


「お二人とも適時休憩を取りつつ業務に取り組んでください」

「はい」


 朝食はすでに終わったから、今は準備をしつつエヴァンシュ先生の到着を待っている。


「それにしても、本来であれば護衛との打ち合わせは執事とするべきなのですが・・」

「私は貴族ではありませんので、執事がいないのです」

「ですが侍女のレイシーがいるではありませんか」

「彼女は私の侍女ではなく、この客室の担当者なのです」

「ああ、なるほど」


 基本的な事はレイシーがしてくれるが、私の専属というわけではない。だから管轄外のスケジュール管理は自分でしている。


「不便では?」

「むしろ過分な対応を頂いていると思います。人に管理していただくほどの予定もありませんし、予定管理くらいは自分でしなくてはご厚意に甘えすぎになります」


 本来であれば客室の利用は数日の予定であったのに、すでに数週間に伸びている。

 言語に関しての問題はなくとも、異世界人の就職は案外難しいのか予想よりも随分と時間がかかる。仕事の出来るエントヴァでも手古摺っているのだから、今しばらくはここでお世話にならなければならないのだろう。手伝える事があればまだマシなのだが、ここ最近は仕事も少なくなっている。


「(何もしないで与えられるだけとか、居心地悪いのよね)」


 現時点で明らかに与えられる方が多くはあるが、せっかくのご厚意を無下にする事も憚られる。そうこう考えているうちにいつの間にか今の状態になっていた。はっきり言って今でも十分に過分だ。


「カエデ様は真面目なのですね」

「ここでの生活は面白いですもの」


 日本にはない設備に、体験した事のない事ばかり。日本では習おうと思っても金銭的余裕や時間がないといった理由で断念した事もある。それがここでは無料でさせてくれるのだ。僅かばかりの労働の対価を払ってはいるものの、本来であればそれでは明らかに足りない。

 しかしそこは相手が必要だからと提案してきたものであって、私からしたいと言ったわけではない。心の中でそんな言い訳をしながら今を楽しんでいる。


「(こんな快適な生活を続けてたら、離れ難くなっちゃいそうね)」

「エヴァンシュ様がおいでになられました」

「通して差し上げてください」


 出迎えに向かえば、定位置についたところで扉が開けられる。


「ごきげんよう、カエデ様」

「ごきげんよう、エヴァンシュ先生」


 学んだ通りのカーテシーであいさつを済ませれば、いつもの多種多様な習い事が始まる。



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