10.
まるで何もなかったかのように平凡な日々が過ぎていく。あれ以来あの子供には会っていないというよりも、あの場所がある棟に近付いてさえいない。
「(お咎めもなければ、言及さえされなかったのは少しおかしいわよね)」
だからと言って出来ることなどある訳がなく、日を重ねる毎に関係のない事だとばかりに考える時間も減っていった。
「また聖女の御用聞きを頼みたい」
「・・前回、あまりお役に立てなかったように思うのですが」
「そんなことはない。君は充分な働きを見せてくれたよ。時間は明後日の午前中、大変だろうから午後は休みを取ってくれ」
「・・ありがとうございます」
素直に喜べないのは、何か裏があるのではないかと疑ってしまっているからだ。疑り深いのは自分の悪い癖だった。
「(ここでは疑り深いのは悪いことじゃなさそうね)」
自分が中心人物ではないからこそ、色々な思惑に翻弄されている気がする。私は聖女ではないと言っても、同じ世界から来たのだから何か力があるだろうと思っているのかもしれない。
「(疑っているからと言って、何かできる訳じゃないけど)」
ここにいて実感するのは自分の無力さばかりだ。利用価値は見出だされても、ここでの実績は何もない。それ故に権限というものが存在しない。ここでは私は子供のような存在だ。
「(居心地が悪い訳じゃない)」
寧ろ子供として扱われている分、甘やかされていると感じる。だからお使いのような仕事しか与えられないし、それでもこなせば手放しで誉められる。