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女子だって、スラムダンクをしてみたい!  作者:
第二章 愛と勇気とお姫様
9/34

愛と勇気とお姫様 その4



         1



 2対2の様子をコートの隅っこで見学中の璃々は、思った。


 ――最初から素直に「練習に付き合ってください」って頼めばいいのに。


 突如として始まったこの2対2。双子が杏樹に喧嘩を売ったなんて聞いた時は、璃々はかなり驚いたけれど、その真実は、何の事はない。

 愛羅と勇羅はただ、杏樹に練習相手になって欲しかっただけである。


 いつだったか、彼女たちが適当にバスケをやっていると思ってしまったことは、さすがに訂正してやろう。あの実力は適当にやって身につくものではないのだ。それにもしかしたら、璃々の知るバスケットボール選手の中でも屈指の実力を持っているかもしれない。

 だが、あの2人はそれだけ上手くてもまだ満足していない。もっともっと、上手くなりたい。そのために杏樹に手伝って欲しかったのだ。練習に付き合って欲しかったのだ。

 でも無駄にプライドが高いから、不敵な言葉と、生意気な態度でその本心をひた隠し、胸の内に秘めた向上心を決して悟られまいと演じていた。

 そういえば先程、最初から得意なポジションでやればよかったのに、と咲にいわれた時、愛羅と勇羅はこう答えていた。


(得意なプレーばかりやってても上達しないでしょー?)

(苦手なプレーを克服しないと戦う意味が無いでしょー?)


 その言葉は、彼女たちの向上心の表れでもあるのだが、同時に、璃々はそれが負け惜しみの言い訳であることもわかっていた。

 ポジションを変えた時、2人は気づいたのだ。

 杏樹が欠片も本気を出していない、と。

 途中まで本気を出していなかったという事実は、杏樹にも当てはまる。それでいて愛羅と勇羅は徐々に追い詰められていた。杏樹も双子も、どちらも手の内を隠していたのに、『明確な実力差』が現れていたのだ。それを思い知った時はきっと、悔しくて悔しくてたまらなかったことだろう。


 璃々には双子の心理が手に取るようにわかる。だって、まあ、その、幼馴染だし。

 だから、もう一つ、気づいていた。


「愛、勇……」


 一時中断した試合が再開されたかと思えば、その後の試合はファールに継ぐファールの荒れた内容へと変わっていた。

 なんとも泥臭い試合だろうか。それまではどんなに疲弊しようとも『綺麗なバスケ』をしていたというのに、今や双子は咲に抜かれれば腕を絡ませ、杏樹がゴール下でボールを持てば手を使って身体を押した。これが正式な試合であったなら、双子はとっくに『ファイブファール』で退場しているだろう。

 はたから見たら璃々の大切な友達である杏樹が、双子に乱暴されているようなものだ。

 今すぐ止めに入りたいところだが、当事者たちがラフプレーに対して文句ひとついわずに戦っているのだから、部外者は口を挟むなんてことはできない。

 どうして愛羅と勇羅は、そこまでして必死にすがりつくのか。

 その理由が、璃々にはわかっていた。痛いぐらいに、わかっていた。双子が何を思って、無様を晒しているのか。

 だって、そうだろう。無駄にプライドが高い2人のことだ。


 ――手を抜かれたままでは終われるわけがない。


 今、コートにいるのは愛羅と勇羅、杏樹だけではない。

 もう1人、いるのだ。未だに飄々とした表情で、後輩たちの『練習』に付き合ってくれている優しい先輩が。


 ――安城咲。


 1年生の頃から先輩たちに『カントク』と呼ばれて慕われ、今はたった1人の先輩として日新学園を引っ張っていく立場になった人。

 璃々が見学に来た昨年度末の練習試合の時は、様々な事情で咲は本気を出さずにいた。今日までの自主練では、基礎練習しかやっていないから、彼女の技術は片鱗しか見られない。

 おまけにこの2対2ですら、彼女は本気を出そうとしていない。

 咲は、この2対2が「愛羅と勇羅の練習」だということに最初期から気づいていたのだろう。だからこそ、ここまではまるで指導するように、愛羅と勇羅、さらに杏樹のレベルに合わせて、一歩引いたプレーをしていたのだ。

 もしかしたら、途中まで愛羅と勇羅は咲のことを「脚が速いだけのありふれた選手」とでも思っていたのかもしれない。しかし、違う。咲はただ、彼女たちに合わせてプレーしていただけ。『合わせられる』ということは、つまりあの3人以上の実力を持っていることの証明だ。

 愛羅と勇羅はそれが納得出来ないのだ。自分たちを相手に手を抜くなんて許せないのだ。

 だから2人は咲に本気を出させようとしている。練習気分を辞めて、咲が双子を『練習相手』から『対戦相手』として認め、本気で迎え撃ってくれるまで。

 無様を晒してでも――


 そんな2人の姿は、生まれて初めて見た。あの2人が何かに一生懸命取り組んでいるところなんて、イタズラの罠を仕掛けている時しかみたことがない。

 意地悪な双子。大嫌いな双子――でも、今、この瞬間だけは格好いいじゃないか。

 璃々も咲の本気を見てみたい。見せて欲しい。

 これはバスケ好きとしての本能だ。

 愛羅と勇羅がそれをやろうとしているというのなら――

 だから、

 璃々はこう叫んでしまうのだ。


「愛羅、勇羅! 頑張れ! ぶっ倒せ!」


 それは生涯で今後二度とないだろう宿敵に送るエール。

 お口がとっても痒かった。



          ∞



 愛羅と勇羅は久しぶりにやってきた攻撃の機会の最中、璃々の声を聞いていた。

 もう腕が上がらない。ドリブルをつくのもしんどい、パスだってバウンドパスに見せかけた転がるようなパスしか出せない。それでも璃々の声が聞こえた時、足がしっかりと動いた。


 中学三年間、一度たりとも聞いたことのない声援。

 知らなかった。声援というものがこれだけの力を分けてくれるなんて。

 知らなかった。最後までコートに立って戦うということは、とても大変なことなんだって。

 咲と杏樹は正々堂々と戦っているのに、双子はずっと卑怯なことをしている。まるで中学生の時の最後の大会で、愛羅と勇羅の髪やユニフォームを掴んできた名も知らぬ誰かのように。

 そして愛羅と勇羅はふと理解する。

 

 ――そういうことだったのか。


 中学生の時、初めて出た最後の試合。あの時、自分たちが殴ったり蹴ったりしてしまった相手の気持ちがわかった。

 今、自分たちがやっていることと同じだ。

 良い悪いは差し置いて、あの時の相手はがむしゃらに戦っていただけなのだ。しかし、ただただ未熟だったのだ。実力が足りなくて、どうしようもなくなって、それでもなんとかしたくて、無我夢中であんな真似をしてきたのだ。

 いつも途中で終わってばかりで、愛羅と勇羅は本気で戦ったことがなかったから、その気持ちを理解できずに、暴挙で返してしまった。

 そもそもあの時の相手チームの選手がやったことはルールに背いている。そんなもの、肯定する訳にはいかない。

 しかし、今ならば堂々と「かかってこい」といってやれるかもしれない。

 そうすれば、相手だって別の手段を考えられたかもしれない。

 バスケで勝負ができたかもしれなかったんだ。


「これからは売られた喧嘩はバスケで返そう」

「どうせ売るならバスケで挑もう」


 そこにたとえ大きな壁があろうとも、折れず、屈せず、試合終了の合図が鳴るまでコートに立ち続けよう。相手のプレーに敬意と賞賛を。自らの未熟さには反省を。


「「――それでこそバスケットボール選手だ」」


 不良と呼ばれた少女たちは一つ、大人になった。

 いや、バスケットボール選手としての階段を一歩、高みへと近づけたのだった。



           ∞



 一見、どちらも同じように疲弊している双子であったが、その度合は愛羅の方が深刻だった。

 ポジションを変えてからというもの、攻防にかかわらず、咲の一つ一つのプレーから尋常ならざるプレッシャーを感じていたのだ。それを真正面から受けて立っているものだから、まるで波に崩れる砂の城のように、体力がガリガリと削られていた。

 杏樹の言葉が脳裏を過ぎる。


(気づいてないの? 咲先輩はずっと手を抜いてる)


 ――これでもまだ本気じゃないっていうの!? これを『雑魚』っていったのだれよ?


 愛羅はローポストにポジションを取る。直後に勇羅から弱々しいパスが飛んでくる。

 ボールを受け取り、ちらりと背後を見る。そこに立つ咲の瞳は風のない静かな湖面のように澄んでいる。先程からどこか雰囲気が変わっている。恐ろしいまでの集中力だ。

 怖い、と思った。愛羅のほうが咲よりも10センチも背が高いはずなのに、そこに壁があるように感じる。

 

 ――ビビるな。勝ちに行くんだ。私はサイキョーだ。もっと、もっと上手くなるんだ。

 ――行こう……行け。


 愛羅は咲に背を向けたまま左に一つフェイクを入れてから、ロールターンドリブルを仕掛ける。

 勇羅が行ったものとは比べ物にならない速さ。それでも咲にはこの程度のプレーが通用しないだろうが、関係ない。咲をぶっ飛ばしてでも、このボールをゴールに入れてやる。

 だが「――っ!」、ドリブルをついた瞬間にガクンと膝が落ちる。もう足腰は愛羅の巨体を支える力が残っていなかったのだ。大きな身体が、前のめりに倒れていく。


 ――ふざけろ!


 瞬間。

 愛羅はギリっと歯を食いしばり、姿勢が極端に低くなったところで、全身全霊を込めて強引に一歩、足を踏み出した。

 直後、愛羅の動きに皆が驚愕する。

 その時、愛羅は『ダックイン』と呼ばれる技術を引き起こした。それは相手の腰の下を潜り込むような低い姿勢で、ドライブをかける技術。ただでさえ背の高い愛羅がそれをやれば、ディフェンスの目にはその姿が消えたように見えたはずだ。

 愛羅の視界がひらける。すなわち、偶然の産物であれど、技術でもって咲を抜いたのだ。


 どうだ見たか! 正真正銘、これで勝ちだ――


 そして愛羅はゴール下でシュート。バスケをやろうと決めた日から、何十万回も繰り返してきたシュートだ。疲れていようが、外すわけがない。

 だが、


「甘い」


 その声は刹那の時にありながら、まるで世界が静止したかのようにゆっくりと、愛羅の耳から全身を打ち砕くように、響いた。


 気づいた時には咲が目の前にいた。

 そして、すでに愛羅が放っていたシュートは、『自分より小さい選手』に『自分より高い場所』で叩き落とされた。

 愛羅は着地と同時に放心する。弾かれたボールがフロアで大きく弾む。

 

 信じられようか。今、咲は愛羅に抜かれた後に、前に回り込み、ブロックをしてきたのだ。


 ハァ……ハァ……と肩で息をして、愛羅は言葉をひねり出す。


「冗談じゃなく……化け物だわ」


 愛羅は咲をキッと睨みつける。その内心ではふつふつと悔しさと怒りが燃えたぎっている。


「……ちくしょう」


 歯を食いしばる愛羅を前に、咲はふん、と鼻を鳴らした。


「悔しかったら、貴方も私を止めてみればいい」

 ――できるものならね。


 愛羅の身を寒気が襲う。鳥肌が立つ。今まで感じていた恐ろしいまでのプレッシャーが更に増す。しかし、その空恐ろしさと悔しさの中、愛羅はふと笑みを浮かべた。

「やっとか……」

 どうやら、練習の終わりの時間が来たようだ。



          ∞



 攻撃権が移る。杏樹と咲のオフェンスである。


 杏樹からパスを受け取ると咲がいった。


「私、昔っからポイントガードだったんだけど、今日からやめようと思うわ」


 右サイド、ゴールから45度の位置。スリーポイントライン上。そこでノーマークになってボールを受け取ったというのに、咲は攻め込んで来ず、愛羅を待つかのようにトラッシュトークを飛ばしていた。

 その作られた隙に乗じて愛羅はディフェンスの構えを取る。


「ワカメ先輩、パス上手いみたいだけど、お姫様の方がガードっぽいよね」

「そうそう、だからポジション変える」

「スモールフォワード?」と、愛羅がいうと、咲はコクリと頷いた。


 スモールフォワードとは主に得点に関わるプレーの多いポジションである。あるときは単独でディフェンスを己が技量で切り崩し、ある時は起点となってパスを回す。チームのなかであらゆる技能を持った何でも屋だ。


「杏樹がポイントガード。貴方がセンター。勇羅がパワーフォワード。シューターは……とりあえず玉子と璃々に頑張ってもらいましょう」


 楽しげに『この先』を語る咲。もう彼女には『チーム』のビジョンが見えているのだろう。

 咲はニコリと微笑み、


「だから、この2対2が終わったら、あなた達にはちゃんと入部届を提出してもらうよ?」

「ええ、しっかり土下座してもらって、提出するわ」


 愛羅の言葉に、咲はクスっと笑うだけだった。


 そして咲は『トーン……』という長い音を響かせて、大きく手を広げた位置でドリブルをついた。今まで必要最低限のドリブルしかつかなかったはずの咲が初めて見せる、意味の感じられないドリブル。

 身体から離れた位置でのゆったりとしたそのドリブルは、ボールを奪おうと思えば簡単に奪えそうに見えた。しかし1回、1回、とボールが跳ねるたびにプレッシャーが襲い来る。まるで遠くから巨人が足音を響かせて、1歩、1歩と自分を踏みつぶさんと近づいてくるような感覚だ。

 咲が見ているのはゴールのみ。愛羅など、眼中に入ってないようだ。

 その雰囲気が少しだけ怖かった。それでも、愛羅の胸の中は歓喜に満ち溢れていた。


 そう――やっと咲がその気になってくれた。

 それならば、


「……かかってこいよ」


 ただで負けてやると思うなよ。



          ∞



 トーン、トーン……――右、左と大きなリズムで繰り返されるドリブル。

 この大きなドリブルは、幾重にも折り重なったフェイントだった。取りに行こうとすれば、すぐさま神速のドライブが来る。愛羅は直感でそれを見抜いていた。

 トーン、トーン……――しかし、問題はこのリズムが変った瞬間だろう。


 愛羅はただ無心に、ジッと集中力を高めていく。

 咲がいった。


「服を掴んでもいい。髪を引っ張ったって構わない。脚を引っ掛けてくれてもいいよ。止められるもんなら止めてみなさい」


 タン。

 来――「――っっ!?」


 その瞬間、今までの高いドリブルが嘘のような低いドリブルが繰り出される。

 愛羅のダックインとは比べ物にならないほどの低さだ。膝が、胸がフロアをこすらんばかりの低空の突き出し。

 その高低差と速さに愛羅は一瞬、咲の姿を見失った。

 それでも、今日まで積み重ねてきた練習が、愛羅の足を動かす。見えていなくとも右手側、咲の正面に滑りこむようにして動き、立ち塞がる。

 しかし、その突き出しはフェイク。咲は1歩目で急ブレーキをかけると、元の位置に戻る。まるで時間が巻き戻されたかのように、姿勢まで元通りになっている。

 そのクイックネスを前にしたら、並の選手では、バランスを崩して大きな隙を作っていたかもしれない。

 愛羅はそれに反応する。キュキュッ。ダン! 力強い踏み込みがコートを震わせる。

 愛羅の目は、咲が再び逆方向へとドリブルを切り返す瞬間をしっかり捉えていた。

 見えている。劣っていない。身体も動く。ついていける。そう確信した、

 

 ――直後だった。


「え?」愛羅は、不意に浮遊感に襲われた。

 そしてプツリと糸が切れた操り人形のようにコートの上にストンと尻餅をついていた。

 転んだ。

 しかし、それは愛羅の不運でも何でもない。体力不足で足が動かなかったわけでもない。

 咲の動きに合わせて踏み出した愛羅の長い足はまだコートに触れていなかった。それなのに次の動きへと移行しようとしてしまった。結果、重心を崩し、足を滑らせてしまったのだ。

 いわば、咲によって転ばされた。高速の切り返しで、相手の重心を外し、バランスを崩して転ばせる。生半可なドリブル技術とスピードでは真似できないものだ。

 転ばされてしまえば、服を掴むことも、髪を引っ張ることも、足を引っ掛けることも、できないじゃないか。

 愛羅は確かに上手かった。しかし咲のその実力たるや――


「ははっ……すげー」


 サイキョーを自負する愛羅だけれど、まだまだ上には上がいる。それを知ると、どうしようもなく嬉しくて、笑わずにはいられなかった。

 愛羅は無様にコートにお尻をついたまま、咲の動きを目で追っていた。自身を抜き去っていく背中。絶対に見失ってはいけない。余すことなく最後まで、見届ける。


 完全に愛羅を抜き去った咲はゴールへと一直線に向かっていた。

「まだだ!」そこに勇羅がカバーに入る。杏樹は放ったらかしのノーマークである。

 それでも、咲はパスをしなかった。


 ――ああ、そりゃここでパスなんてしないよね。


 もし愛羅がこの状況になっても、咲と同じくバカ正直に突っ込んで、相手をふっ飛ばしてでもシュートに行く。


 なぜかって――そっちのほうが『かっこいい』からだ。それは男子も女子も関係ない。魅せてこそのバスケットボール。

 

 女子だって、スラムダンクをしてみたいと、いつだって夢見ているのだ。


 咲は自分より10センチ近くも大きい勇羅に物怖じせずに宙を舞った。

 勇羅もブロックに飛ぶ。タイミングはドンピシャだ。

 それでもなお、化け物は止まらない。止められない。

 咲は左手に構えていたボールを下ろす事によって空中で勇羅のブロックの手を躱す。さらに右手にボールを持ち替えて、その跳躍の勢いに任せてゴール下をくぐり抜け、バックシュートを放った。


 ガコンガコンと音を鳴らしたボールはリングの中へ――


「おお、入った入った。『ダブルクラッチ』なんて初めてやったけど、意外にできるものなのね」

 テンテンと弾むボールがやがて静かに転がる。


【3‐2】


 ――決着。



          ∞



 咲の神業に皆が一様に放心していると、やがてポツリと双子がいった。


「負けたー」

「勝てなかったー」


 多くのことを学ぶために挑んだ戦い。その大願は間違いなく果たされた。

 そして双子が得られたものは、2人が思っている以上に大きなものだった。

 2対2という野良試合ではあるが、生まれて初めて試合開始から終了まで戦った双子は、同時に初めての敗北を経験したのだ。だから――


「「……うわあああああああん――」」


 胸の奥底から沸き上がる熱い感情を抑えきれずに、双子は大きな声を上げて、泣き崩れる。途中で投げ出していたら、これを知ることはなかっただろう。


 敗北の塩っ辛い味は、最後までやり遂げたものしか、わからないものだ。






――つづく

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