閑話3 閑話にされる程度の主人公の活躍と、ちょっとした解説
第四章を始める前の小話です。あ、違った主人公の活躍のダイジェストです。
トラベリング、知っていますか?
それは練習試合会、日新学園の1試合目の終盤のことである。
璃々は満を持して初出場を果たした。ちなみに玉子との交代である。
初めて選手としてコートの上に立った感想は、まあ、これといってない。
というのも、璃々は意識が昇天しており、その時のことを一切覚えていないのだ。
しかし、
出場早々!
杏樹の右サイドからのセンタリング(?)に合わせて、璃々はゴールエリアに飛び込んだ。そして、見事にボールをヘッド(?)で捉え、ゴールネットを揺らしたのだ!
「お、おお……リリー。まさかヘディングでシュートを決めるなんて――」
「なでしこジャパンが放っておかない逸材だね」
「真似できない」
「これバスケでしょ……」
厳密にいうと璃々は杏樹からのパスを取りそこねてボールが顔面に直撃し、それがいい感じに跳ね返って、たまたまゴールが決まったのである。
2試合目。
やはり試合終盤。お鼻の頭に絆創膏を貼って璃々は再びコートに立った。
今度はさすがに心に余裕があったのか。「とりあえず落ち着け」という零奈の言葉に「ひゃい!」と、返事することはできた。
すると、
出場早々!
愛羅からの愛の無いパスを上手くキャッチできた璃々は、ボールを持つなり、ついついサービス精神が出てしまい、応援してくれる観客席の皆様のために華麗な踊りを披露してしまった。
――ピピッ! トラベリング!
「お、おお……」
「……もはや哀れすぎていじる気すら起きない」
「かわいそう」
「酷いこといわないの!」
ちなみに璃々はカチンコチンに緊張して頭が真っ白になり、ずっと練習してきたドリブルを忘れ、盆踊りのようなステップを踏んだのである。それは東京音頭に似ていた。
◆閑話の中の閑話◆
ここで、せっかくだから『トラベリング』の解説をする。(◆の間は読み飛ばしても問題はないが、読んでおくとバスケに詳しくなれるよ!)。
トラベリングとは世間では『3歩歩くこと』と捉えられているが、厳密には違う。これがまた結構ややこしいルールである。
そこにはまず『「軸足」を動かしたらトラベリング』という定義がある。
ただし、これは『軸足が動いた瞬間にトラベリング』ではなく、『軸足を動かした結果、次の行動に移せなかったらトラベリング』という点に注意して貰いたい。
『軸足』とはなんぞや、というと。
バスケにはピボットという動作が有り、それはボールをキャッチした時に最初に接地した足さえ動かさなければ、それを軸にして自由に動いていいというものだ。
この最初に接地した脚が軸足となる。
そして、トラベリングは、その軸足がコートから離れ、『流れ』につながらなかった場合起こる反則だ。
じゃあ、『流れ』ってなんだよ――というと、単純にいえば『次に行う動作』のことだ。例えばジャンプした時、それは当然軸足がコートから離れることになるが、そこでシュート、もしくはパスをすれば次の動作につながったということでオーケー。ジャンプして何もせずに着地してしまうと、次の行動に繋がっていない、つまり『流れ』を止めたからトラベリング。
この時に、うっかりやってしまいがちなのが、軸足を先に床から離してから、もう片方の脚でジャンプしてしまうこと。これはもちろん、軸足を先に動かしてしまっているからトラベリングだ。だからジャンプするときは両足同時、もしくは軸足のみでジャンプすることを心がけなければならない。
でも、実際にバスケを見てみると、レイアップシュートとかランニングパスの時は、普通に軸足が離れている光景が頻発する。
それもまた『流れ』というもので説明できる。飽くまでもトラベリングとは『軸足を動かした結果、次の行動に移せなかったら――』というものなのだ。
ダッシュやドライブ中、走っている時にボールをキャッチした場合、ボールを掴んだ際に接地していた脚が軸足となる。つまり1歩目が軸足。そして、それまでの走っていた動作を止めること無くプレーを続けられるのであれば、次の『2歩目』自体が、先の『ジャンプからのシュート』と同じ『流れ』のプレーとして判断され、それを踏むことが許される。『ジャンプからのシュート』と似た表現をするなら、『走ってたから、もう1歩』という感じ。(この判定があるからレイアップシュート、ランニングパスは軸足が離れていてもトラベリングにならない)。
2歩目を踏んだら、そこでジャンプするなり、シュートをうつなり、ぶん投げるなり、何かしらの動作をしないといけない。
何も行動ができず、3歩目をつくと、『軸足を動かした結果、次の行動に移せなかったから』トラベリング。これがいわゆる『3歩歩くこと』といわれる所以だ。
また1歩目から2歩目に移るところで急激に方向転換をしたり『リズムが悪かったり』などすると、『流れ』を一旦止めているわけだから、2歩目は許されず、すぐにトラベリングになったりする(これがまた審判の気分次第だから腹が立つ)。
ただし、どちらの定義でも軸足を動かした後のドリブルやパスをしてはダメだ。
それは『ドリブルやパスより先に軸足が動くとトラベリング』という、『流れ』よりも優先される決まりがあるからだ。
ピボットの状態からドライブを仕掛けるときなど、焦ってドリブルの一つ目より前に軸足を動かしてしまったら、審判にピッピ、ピッピと笛を吹かれる。1対1の場面ではこれが頻繁に起こる、というか審判が狙っている。
本当にややこしいルールだが、トラベリングに関する基本的な説明はこんなところでいいだろう。
まだまだボールを持った状態で転んだ時の軸の変化とか、『ゼロステップ』、『ギャロップステップ』などなど、トラベリングの穴をついた技術の解説をしたいが、本題から逸れすぎてしまうので、また別の機会にする。
そういうわけで、
当然。
ボールを持って踊り出したら、そりゃトラベリングだ(軸足を動かさずに器用に踊れるなら可)。
◆閑話の中の閑話休題◆
3試合目。
これまでの活躍(あったかな?)が評価され、璃々はいよいよ試合開始から出場した。
零奈ヘッドコーチはいった――
「逆に試合開始なら、なんとか……きっと、たぶん……」
ジャンプボールで愛羅が弾いたボールを璃々はしっかりキャッチする。そして速攻! 今度はトラベリングもせずに、今日まで練習してきたドリブルを披露した。
ディフェンスもいない。よし、今度こそまともなシュートを決めてやろう――と、思った瞬間、味方から飛んでくる声。
「逆だ!」
――攻める方向を間違えた。
「まあ、あれはよくあるよね」
「小学生の低学年の試合とかでよく見るよね」
「高校生だけど?」
「話してないで、フォローしてあげなさいよ!」
ちなみに、これらのミスはほんの一例であり、全部を挙げたらキリがない。予告通りのダイジェストカットである。
そんな数々の失敗をした璃々の姿はそれはもう滑稽で、仲間たちは盛大に爆笑していた。
「笑うことないじゃない!」
試合が終わった頃にはプンスカプンスカと、璃々はご立腹。
初心者だって笑われたら嫌な気分になるのである。でも面白かったのも事実である。
璃々は反論できる言葉を持たず、ぐぬぬと唸るだけだ。
――次は失敗しないもん! だからもっと試合に出して!
璃々はめげない。折れない。屈しない!
次回から第四章、始まります。