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女子だって、スラムダンクをしてみたい!  作者:
第三章 バスケって楽しい!!
13/34

見てきたものと同じプレー


          1



 やはり、というべきだろう。

 試合開始直後から、目立っていたのは愛羅と勇羅だった。


「たけぇな、あの2人。男子みたいだ」


 インサイドのプレイヤーとしては愛羅のほうが一枚上手か。

 シュートが外れれば愛羅がほとんどのリバウンドをとる。その高さも、力強さも、シュートの外れに対する反応も、俊敏性も、何もかもがハイレベル。敵味方関係なく吹き飛ばしてボールを奪うその力強いプレーは男子のそれを思わせる。

 オフェンス時であればそのゴール下のプレーは誰も止められない。ゴール付近でシュートをうてば一本たりとも外れる気配がない。


「あの身長であれだけ動けたらもうバケモンだな。リバウンドをとった後もボールを降ろさないし、肘を張って奪われないようにしてる。着地する前に周囲の状況を把握しているから、展開も早い。基本が高いレベルでしっかりできてるね」

「……でも、オツムのレベルは低い」


 対してAチームの主軸となる勇羅。彼女は実に柔らかいプレーをする。

 リバウンド時。愛羅に有利なポジションを取られても、その『後ろ』から、ヒョイッと手だけを伸ばして、ボールをタップして打ち上げる。すぐさまもう一度跳躍し、ボールを奪う。ファールにならないようにそれを行う柔軟なボディコントロールは、勇羅の持つ武器なのだろう。

 さらに驚嘆すべきはその巨体に似合わぬ素早さと、小手先の技術。

 相手に身体をぶつけてゴリ押しする愛羅とは真逆に、勇羅は逃げるように身体を離す。そして片手でボールを持ってふわりと高い弧を描くシュートを放つ。『フックシュート』だ。高打点から放たれるそれはもはや構えた時点で止めることは出来ない。そして2対2の時に見せたアウトサイドシュートはまぐれではないといわんばかりに、コート上を縦横無尽に動きまわってディフェンスを振り切りノーマークを作ると、スパスパと遠距離からのシュートを決める。


「あいつはどちらかというと、外の選手っぽいな。でも、中もしっかりできる。プレーの幅が広くてオールマイティに使っていけるね」

「……でも、心は狭い」

「うーむ。これはなかなかどうして、とんでもない連中だ。どっちも主戦力だわ」

「……でも!」


 璃々は激怒した。

 憎き宿敵がべた褒めされていることが気に入らないのである。だから、双子の今までの悪行を、あれやこれやと3割ぐらい脚色して暴露するのだが、


「あはは! 私立学校が推薦で取り合うレベルの選手なのに、名前が知られてないのはそれが理由か。いやぁ、逆にラッキーだ!」

 

 と、零奈の機嫌を逆に良くしてしまうのだった。

 ちくせう。ぐすん。


 試合はゴール下の攻防が拮抗しているから、自然と展開が外のプレーに変わっていく。

 相対するは咲(Aチーム)と杏樹(Bチーム)だった。


 Bチームの攻撃。杏樹がトップでボールを持ち、攻めるコースを探している。そこで何やら手で合図を送る。

 するとゴール下で、玉子が佳奈をマークするディフェンスの進行を身体で塞ぐブロックプレーを行う。それによってノーマークになった佳奈へ向けて、パスが通った。

 急増のチームですでに連携を行うことができるのは、杏樹が中心になってうまくまとめているからなのだろう。地味なのだが、これは実際にやるとすごく難しい。

 ノーマークになった佳奈がシュート。

 しかし、覚束ないフォームで放たれたそれはリングに弾かれる。

 こぼれたボールを愛羅がリバウンド。Bチームにはゴール下の絶対的な守護神がいるから佳奈のような初心者でも気楽にシュートが打てるのだ。

 オフェンスリバウンドを取った愛羅はそのままシュートをうとうと構える。

 直後――、

 パコンと軽い音を立て、愛羅の手からボールが叩き落とされた。

 愛羅の懐に咲がいた。佳奈がシュートを打った瞬間、それが外れると見越した咲は、さらに愛羅がリバウンドを取るというところまで読んでゴール下に潜り込んでいたのだ。

 あとは愛羅がボールを構えたところを奪うだけではあるが、零奈が先ほどいっていた通り、リバウンド後の愛羅からボールを奪うのは、身長差も相まってかなり難しい。他の選手ではできないことだろう。


 カウンターに走る。咲のスピードに追いつけるものは敵味方問わず誰一人としていない(いちおう足だけは速い聡子が頑張って追いかけていたけど、止まれずに壁に激突していた)。

 咲は綺麗なレイアップシュートを決めた。ボールを奪ってから、ほんの数秒の出来事だった。


「あの2人は2年と特待生だし、なんていうか別格だな」

「さすが咲先輩! もっと愛羅をこらしめて!」


【A 16 ‐ 20 B】


 試合は続く――



           ∞



 ダンダンダンダン――璃々のドリブル練習も続く。

 練習を始めた当初と比べて、今ではずいぶんとうまくなったものである。指をつることだってもうない。

 左手でドリブルをして、右手で得点板をめくっていく。そんな璃々のドリブル練習の様子をちらりと見た零奈がふと、いった。


「今日まで何回ぐらいやったの?」


 すると璃々はドヤッとした顔で答えた。


「数えてないです!」

「なんでそんな自信満々なんだ……別に数えなくたっていいけどさ……」


 零奈はこめかみに手を当てて、深い溜息。そしてこういった。


「ボール、撫でられる?」

「ボールを撫でる?」

「そう、ドリブル中にボールが手についた時、空中でグリっと撫でんの」


 ジェスチャー付きで零奈が教えてくれる。

 それに従って璃々は床から跳ね返ってきたボールを手に触れたところで、撫でてみる。すると自らの手の動きに従って、ボールがグリっと動いた。


「おお! 出来た!」


 そんなドリブルを右手左手と繰り返していく。


「それができたらドリブルチェンジがいろいろできるからやってみ。やり方は――」


 と、零奈がいっている間に璃々は股下を通すドリブルを試していた。


「――なんだ、知ってんのか。初心者って聞いてたけど、知識はあるんだね」


 零奈は璃々のプロフィールシートを取り出して、「バスケを見るのが趣味か……また、なんていうか女子らしくないな。友達いなそう」と、ド直球にいった。璃々はドリブル練習に夢中なので聞いてなかったようだ。幸いである。


 璃々は足を前後に開いて、ダン! とドリブル。ボールは足の間を通って綺麗に左右を渡る。これがクロスオーバードリブルだ。

「お!?」

 今度は自身の背後でチェンジ。バックビハインドチェンジ。

「おお!?」

 右手だけでくるりと回転。ロールターン。

「おおお!?」


 まるで曲芸のように、璃々は様々なドリブルを繰り返していく。


「璃々、うまくなった!」

「良かったなー。それじゃあ、璃々にはもう少し発展したドリブル練習を教えてやる――」


 そこで零奈は『ピィイイイッッッ』と大きく笛を鳴らした。

 試合に励んでいた少女たちの動きが止まる。


「前半終了! インターバルは2分。それぞれチームに別れて作戦会議!」


 零奈の指示に従って、試合に出ていた面々は思い思いの場所に集まって話し合いを始めた。


「それじゃ、璃々はこっち」

 そして璃々はフロアの隅っこに連れて行かれた。



          

          2




「今まで璃々がやってたのは、ぶっちゃけ、練習の練習だ」

「練習の練習……?」

「お前がやっていたのは、練習をするための下準備だったてことだ。そもそも、試合中に足をおっぴろげて止まったままドリブルしてる選手がいるか?」

「そういえば……いない!」

「練習っていうのは、本番でも使えるものじゃないといけない。だからこれからやるのが、本当のドリブルの練習」

「おお! つまりレベルアップしたのね!」


 零奈が璃々に指示したものはこういうものだった。

 ――フロアの端っこをジグザグにドリブルをして行け。

 ――右側に進むときは右手。左側に進むときは左手。

 ――チェンジは今できるようになったやつを何でもいいから、低く素早くやれ。

 ――そして上手い奴のドリブルと、目の前にディフェンスがいることをイメージしながらやれ。


「まずは、とりあえずやってみて。頃合いを見て声をかけるから」


 璃々はそれに従って練習に取り組む。手本とするイメージはやはり咲だ。

 先ほどまで得点板の周りをちょこちょこ動き回りながらドリブルをしていたから、歩きながらのドリブルはもう簡単にできる。ちょっとスピードはないが低いチェンジもできる。

 しかし、どうしてだろうか。イメージする咲のそれとはかけ離れている。彼女のドリブルはゆっくりとしている時でも『攻め』を思わせるのだが、璃々のこれはただ歩いているだけだ。


「うーむ……」

 考える。考える。自分の中のバスケの知識をフル動員して――

 これは本番で活かすためのドリブル練習。そうだとするのなら、本番では璃々の前には必ずディフェンスがいる。

 ディフェンスは、必ず璃々のドリブルを奪おうとしてくるはずだ。

 簡単に取らせるものか――璃々はそれまでブラブラと揺らしているだけだった片手を、ディフェンスに向けて拒絶するように上げた。

 それだけで、なんとなくサマになった気がした。

 次は視線をどこに置くか。咲はどんな時でもコートを味方を、ゴールを見ていた。

 顔を上げ、遠くに視線を向ける――


 すると、零奈が「ほうほう」と嘆息していた。


「ちゃんとわかってんのな。よろしい。次に行こう」

「はえ? 今ので終わりですか?」

「そうだよ。今のはドリブルをするときの意識を見出す練習前の『準備』だ。それじゃあ、本格的な練習なんだけど、今の姿勢を忘れずに、ジグザグをスピードつけてやるだけだ」


 やり方はただ走るだけじゃない。

 ドリブルチェンジをしたあとの1歩目は姿勢を低くし、自分のできる全力の速さで踏み出すこと。その直後は身体を起こす。それを繰り返していく。


「咲がドライブをする時、だいたい1回のドリブルで相手を抜いてるだろ? あれが基本なんだ。あいつに勝ちたいなら、あれをマスターしないとな。コツは――」

「腰を落として低いドリブルをつく?」

「その通り。『縦には高く、横には低く』っていうのはバスケのすべてのプレーにおける基本だ」

「縦には高く、横には低く……」


『縦』というのはリバウンドなどの高さが必要となる立体的な動き。『横』というのは、ドリブルや、恒常的なダッシュなどの速さが必要となる平面的な動きのことだ。

 零奈はいう。


「回数は定めない。自分の満足するまでやれ」


 コクリと頷いた璃々は、隅っこで1人、ドリブル練習に取り組み始めた。



           ∞



 試合は滞りなく終わった。

 しかし、


「すまん、忘れてた」


 零奈の第一声はそれだった。

 試合の最終スコアは得点板だけを見れば【A 16 ‐ 20 B】とあるが、前半終了間際から数字が動いていない。つまり、零奈が得点をつけることを忘れていたのである。

 璃々がドリブル練習を始めてしまったものだから、うっかりしていた。

 まあ、今のゲームは、勝敗はどうでもいいのである。この試合で選手の個々の特徴を見ることができたから、そこから今後の方針を決めるのだ。

 そういうわけで零奈は素知らぬ顔で試合の総評を始めようとした――その前に、


「お前、何やってんだ?」


 試合に参加していなかった璃々はコートの端でドリブル練習をしているはずだった。

 それなのに、今の璃々はピボット(※ボールを持った時に最初にコートについた足を軸足にして、片足を動かしながら姿勢を変える基本動作)をして、一向にドリブルをしようとしない。

 やがて、璃々はいった。


「ど、ドリブルが出来ない……さすがコービーだわ……」


 いったい彼女はイメージの先で、どれほどのレベルの敵と戦っているのだろうか。

 それを見た零奈は「アホだ……」と、頭を抱える。


「璃々……お前の挑戦心は評価するが、さすがに相手のレベルを下げよう。身近な人にしておけ。玉子ぐらいでいいんじゃねぇの?」

「ふむ――あ、抜けた! 簡単だ!」

「璃々ちゃん!? どういうこと!?」と、玉子が不満を訴えるのは当たり前である。


 ともかく、

 それからミーティングが始まったのだが、零奈はこう短くいうだけだった。


「まあ、初日だからな。個々の技量が高く見えても、チームとしては何一つとして良い点はない。だから特にいうこともない。これからだ。これから一ヶ月で日新学園というバスケを完成させる。初心者も、ちょっとバスケが出来る連中も、それぞれ意識を高く持つように。ただ、これだけは先に断言しておこう――」


 零奈は不敵にいった。

「――お前らは間違いなく強くなる!」


 その後はさらなる厳しいフットワーク練習が課せられ、少女たちは懸命に励む。

 バスケの練習のその大半はただ走るだけに終わることのほうが多い。零奈の指示したソレもやはり、ひたすらダッシュ。

 ちょっとでも気を緩めようものなら叱咤が飛んでくる。

 第3体育館にはいまや、ピシリと緊張感が漂っていた。


 そして、数十分後――

 まさに死屍累々。全体練習終了時には誰一人として立っていられるものはいなかった。

 今までは選手だけで自主練に励んでいたから、どんなに意識を高く持っていても、どこか甘えたところがあった。そこにコーチがつくというだけで、練習にはこれだけの変化が見られるのだ。

 コートの隅っこで少女たちはバタバタと倒れている。これが初日の練習の光景だというのだから、この先の地獄は想像できない。


「明日からはチームオフェンスとディフェンス練習もやるからなー。そんじゃ、あとは帰ってもいいし、個人練習してもいいよ。最終施錠時刻か最後の1人が帰るまで私も残ってるから」

 少女たちを散々しごいてご満悦の零奈は、鼻歌交じりに鞄から取り出した『先生の仕事』にとりかかるのだった。



         ∞



「あ、そうだ。璃々、ちょっとこっち来い」


 仲間たちとともにぐったりとしていた璃々は、急に呼び出されて、よろよろと零奈のもとにやってきた。


「なんですかー?」


 零奈はしげしげと璃々のつま先からアンテナまでを見て、一つ頷いた。


「ちょっと今の知識でシュート見せて」

「シュート? ――璃々、できないよ?」

「だから、教えてやる。ドリブルができるんだからシュートもできないとみっともないだろ?」

「おお! やる!」

「フリースローあたりでうって」


 璃々は途端に満面の笑みを浮かべると、ボールを拾い、手近なゴールのフリースローラインに立った。そしてゴールに向けて、咲に教わったツーハンドシュートを放つ。

 しかし、ボールはリングどころかボードにもかすらずに明後日の方向へ飛んでいった。


「……」零奈は何もいわずに璃々のことをジッと見つめてくる。

 璃々はその視線が怖くて、不安になって、ぐすん、と鼻を鳴らした。

 しばらくすると零奈は肩をすくめて、


「まず、なんでボールが狙ったところに飛ばないと思う?」

「……咲先輩には、体のバランスが悪いっていわれた」

 すると零奈は首をふる。

「違うよ。逆だ。お前はもうバランスができてるの。頭のなかで。それが身体と連動しないものだから、チグハグになって一見バランスを崩しているように見えるんだ」

「逆? 頭のなか?」

「ちょっとワンハンドでうってみ? やり方は――知ってるはずだ」


 零奈の言葉の意味がさっぱりわからず、小首を傾げる璃々だったが、とりあえず、いわれたとおりにやってみることにした。

 ボールを拾って、再びラインに立つ。

 ワンハンドシュートのやり方は、零奈のいうとおり、璃々は知っていた。

 今日まで見てきた数々のバスケ。その大半は男子の行うものだった。それを今日まで何度も何度も、頭のなかで容易に再生できるぐらい、見てきたのだ。

 胸の前でボールを構える。姿勢は右足を少しだけ前に来るように半身に。がに股にならないようにつま先はゴールに向ける。腰を落とすようにして軽く膝を曲げる。

 ゴールをしっかり見て、ボールを胸の位置から頭の上へと持っていくのと同時に、腰を落とすようにして膝を深く曲げる。そして一気に膝を伸ばして跳躍。生じるバネの力とともに右手を高く押し出して、手首を返す。


 するとどうだろう。

 そのフォームは違和感なく美しい。ボールには綺麗なバックスピンがかかり、嘘みたいに真っ直ぐに飛んで放物線を描くのだ。


「おお!?」


 リングには届かなかった。ボールは点々と床を弾むだけ。それでも、その多大な変化には璃々本人だけでなく、その様子をうかがっていた仲間達も驚愕していた。零奈は璃々にどんな魔法を掛けたのか――

 璃々のプロフィールシートに目を落としながら、零奈はいった。


「せっかく数々の試合を見てきた経験があるんだから、それを活かさないともったいないだろ? お前は女バスのイメージにこだわらずに、『見てきたものと同じプレー』をやってしまえばいいんだよ。見た目から始めるっていうことは必ずしも悪いことばかりじゃないからな。まずは真似したいプレーを見つける。そして真似てみて、どうすればうまくいくかを考える。徐々に徐々に修正して、自分のものにする。そうやって技術を身につけていけばいい」

「よくわからないけど、璃々、頑張る!」

「おう、頑張れ。今はゴールの近くからのシュートの練習しなさい」


 それから璃々は「ここなら届くだろう」という場所までゴールに近づいてシュートを放ると、ネットの跳ねる心地良い音を立て、初めて綺麗なシュートを決めた。

 しかも1本目で!

 考え方とやり方一つでずいぶんと変わるものである。


「見てきたものと同じプレー……」


 璃々はそれから疲れも忘れて何本もシュート練習に励んでいた。

 その姿にあてられたのか、他のメンバーも自主練習を始める。皆が皆、それぞれ1対1を始めたり、シュート練習をしたり、零奈にアドバイスを求めたり、まさに『バスケットボール部』の姿がそこにあった。





 その様子を眺め、零奈は思うのだ。


「ま、いいスタートが切れた、かな?」


 零奈が璃々にシュートを教えたのは、何も璃々のためだけではなく、今後、部活を円滑に進めていくために必要なことだった。

 今まで姿を見せなかった顧問が、いきなりああだこうだと指示を飛ばしたら、高校生ともなれば、ちょっとした反発心を抱くことだろう。今日は初日だからいいが、例えば双子なんかは、4対4の時に璃々から聞いた話どおりの人間性なら、そのうち「どうしてこんなチビに……」なんて思うに違いない。

 それは芳しくないことだ。

 だから、そこで零奈は初心者に言葉一つで技術を身につけさせた。

 これだけで十分、『指導力』を見せつけることができたはずだ。


 とはいえ、璃々が初心者で、女子はツーハンドでシュートをうつものだという先入観からやろうとしなかったことをやらせただけだ。ワンハンドの構えが綺麗だったのは璃々の知識があってこそだが、実はワンハンドシュートをまっすぐ飛ばす程度なら誰でも出来る。だから璃々が零奈の指導によってシュートができるようになったというのは錯覚なのだった。璃々はもちろん、他の部員たちだってその仕掛けに気づいていないだろう。


 ピョコピョコとアンテナを揺らして楽しそうにシュートをうち続ける璃々を見て、零奈はクスッと笑う。

 見てきたものと同じプレーをやる。璃々はその言葉を真に受けたようではあるが、


「見てきたものと同じプレーをできるようになりたいならば、これからは『見て楽しむ』という時間はなくなるよ。『見て学ぶ』。そんで実際にやって、身につけるんだ」


 零奈の視線の先で、力んだ璃々の放ったシュートはどこか見当違いの方向に飛んでいった。


「……まだまだ、これからだね」





 ――つづく

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