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四億円当てた勇者ロトと俺は友達になってる  作者: 新木伸


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ろとまま比べ

「はい。笑って笑ってー」


 俺は言う。

 二人並んだ、ろとと、ろとままは――。


「はーい」

「ん……。笑う、というのは、私にはどうにもよくわからないのだが。たまに同僚が、私が笑っていたと指摘してくるのだが、自覚的に笑ったことはなく。顔面の表情筋をどう操作すれば顔の形が世間一般的にいうところの〝笑い〟の形になるのか、じつはよくわかっていない。これは私には難しいということではなく、まだ未学習の領域というだけだから、きっと教えてもらえれば私には〝笑い〟を習得することは可能なはず。なにしろ私は天才なので、これまで何事であっても、習得しようとしてできなかったことはないので。……って、聞いてる? おにいちゃん」


「えーと……、ろとまま。笑うのが苦手……っと」


 俺は手許のメモに、そう書いていた。


「そこ。訂正してくれないか。私は苦手なのではなく、まだ未学習なのだと言っている」


「はい。じゃあつぎー。怒って怒ってー」


 俺はとりあわず――そう言った。


「え? お、怒る?」


 ろとままは、きょとんとしている。

 さっきの表情でいいんじゃないかと思うのだが、いざ「怒って」といわれると、どうしていいかわからないという顔。

 対して、ろとは――。


「ぼく……? おこったことって、ないからー……。わからないよー?」

「私はっ……、さっきも言ったろう。怒りというものを学習する機会を与えてくれさえすれば、当然、怒りだって身につけることができるはずだ」

「いや30年生きてて学習する機会なかったんだから、たぶん無理だと思いますよ」


 俺は、ろとままに言った。


「うーむ。付きあいのある人間を考えるべきか。私の職業は研究職なので。感情で行動する人間は少なくてね」


「えーと……、ろと、ろとままは……、怒る、できない……。と」


「ところで。さっきから、いったいなにを調べているのだ? おにいちゃんは?」

「とれぼー。しらべてるのー? 身長ー、はかるー?」


 ろとが唇の端に指先にあてて、首を傾げる。


「いや身長は見ればわかるから、測らないでいいな。ろとままのほうが、何センチか、小さいな」


「ふふん。ままの勝ちだぞ」

「まけちゃったー」


 いや。どう客観的に考えても、ろとの勝ちのような気がするんだけど……。

 まあ。いいか。


 俺がいまやっていることは、ろとと、ろとままの違いを調べることだった。

 この二人……。なんか似ている。


 ちっこいところも似ているし。髪の長さをべつにしたら、容姿だって、そっくりといっていいぐらい似ている。最初に訪問されたときには、ろとの妹が訪ねてきたと、一目見て、そう思いこんでしまったくらいだ。


 まあ実の親子なんだから、あちこち似ていて当然なのかもしれない。

 だが二人が似ているというのは、外見だけでなくて、性格のほうでも、そうなんじゃないかと……。俺はそんなことを考えはじめていたところで……。


「では怒りポイントチェックです。ろとが大事にしまってあった、冷蔵庫のプリンを、俺が食べてしまいました。――ろとはどうしますか?」

「とれぼー。ぷりん。たべたいの?」

「さあ。食べたいかどうかはわからないが、とにかく、食べちゃったんだな。ろとの大事なプリンを。さあ。どうする?」

「とれぼーが、たべたいんだったらー、いいよー?」


 ろとは、なんのこだわりもなく、そう言った。

 うーむ……。やはり、ろとには……。「怒り」は……。ないっぽい?


「ふふっ。さあ次は私の番だなっ。――きたまえ。プリンごときで私の心は揺らがないぞ?」

「では怒りポイントチェックです。ろとままの大事にしている、ろとを、俺が食べてしまいました。――ろとままは、どうしますか?」

「えうっ? あっ? ……あれ? プリンじゃなくて……? え? ろと? たべちゃうの? おにいちゃん……、たべたいの?」

「食べたいかどうかはわかりませんが、とにかく、食べちゃったんですね。ぺろりと。さあ。どうします?」

「えっ? えっ? えっ? ……ええと」


 ろとままは、狼狽しきった顔で――、ろとを見た。


「お、おにいちゃんが……、食べたいんだったら……、い、いいけど?」


 俺はメモに書きつけた。

 ふむ。ろとままも、「怒り」は、ないっぽい。

 念のためもう一つ聞いてみるとするか。


「ろとままが大事にしまってある、きのこの山とたけのこの里12パック詰め合わせセットを、俺が、きのこの山だけ、もしくは、たけのこの里だけ、どちらか片方ぜんぶ食べてしまったとします」

「な、なぜそんな悪逆非道なことをするっ!? ――というか!? なぜ私が押し入れの奥に、大事に隠してあることを知っているのだ!?」


 おや? 本当にやってたっぽい?

 ……あれ? 押し入れって、どっちだ? うちの押し入れじゃないだろうな?


 ろとままは自室にいるより、うちの大六畳間でくつろいでいるときのほうが多い。朝ご飯と夕ご飯も、ごくあたりまえのように、うちで食べてゆく。ちなみに昼は大学とやらの学食で食べているっぽい。なんの仕事をしているのか、いまだにはっきりとしていない。本当にこんなチビっこ教授が、教壇に立って、大学生に教えているのだろうか?


「ど、どっちだ!? きのこか!? たけのこかっ!? そ、それが問題だっ!」


 おや? こんなところに、怒りポイントが?


「じゃあ、ろとままの、嫌なほうで――」

「オーッ! ノーッ!」


 ろとままは、大袈裟に嘆いてみせた。


「まあ。しかたがない。残された、たけのこを、慈しみながら食すとしよう」

「あれ? 怒らないんですか?」

「東洋には覆水盆に返らずという諺がある。同様に、なくなってしまった、きのこは、もう戻らないからな。しかたがないな」


「ままー。こんど、きのこー、あげるよー?」

「いや。私はどちらかといえば、きのこが好きなのは確かであるが……。きのこと、たけのことを、交互に、あるいは同時に食す行為が、人類に与えられた最大級の贅沢だというだけで、べつに、きのこだけを食べたいというわけではないんだ。〝きのことたけのこに貴賤なし〟なんだ」

「まま。むずかしいよ?」

「ろと、おまえも大人になったらわかる」

「そうなのー?」


 よくわからないが――。両者、怒りポイントはなし。いまのところイーブンである。


「ところで、おにいちゃんは、さっきからいったいなにをやっているのだろう?」

「ぼくわかるー」

「おお。わかるのか。さすが長年一緒にいるだけはあるな。ぜひ、ままに聞かせてくれまいか」

「ぼくと、ままのー、まちがいさがしー」

「ふむ……? しかし、間違いを探しをするには、いささか、簡単すぎるのではないだろうか?」


 ろとと、ろとままは、なにか二人で話をしている。

 俺はメモを書いている。


「おにいちゃん。ちょっとあっちを向いていること」


 あっちを向いているもなにも、俺は下を向いているわけで――。

 なにか、ごそごそ――という音がしてきたので、顔を上げると。


「うわあ! なにやってるんですか!」


 服を脱いでる最中の二人が――そこにいた。


「だからあっちを向いていなさい、と言ったのに」

「とれぼー。みるー?」


 二人とも、着替えを見られても平然としている。俺だけが一人で慌てている。

 やっぱりこの二人――似ている。


 じっと背中を向けて、衣擦れの音に耐えることしばし――。


「もうこっちを向いてもいいぞ」


 そう声を掛けられて、俺が体を向けると――。


「じゃーん」

「じゃーん」


 服も同じで、顔も髪もそっくりな二人が立っていた――。


「髪はそれ、どうしたんですか?」

「これか? これはうぃっぐというやつだー。どんきでみかけて、こんなこともあろうかとおもって、かっておいたのだー」


 ろとままが言う。

 俺は、なるほどー、と、うなずいて、そっくりな二人を、じーっと見ていた。


 ――と。


「……ほら。ろと。言ったろう? おにいちゃんは気がつかないと」

 ろとのほうが、そう言う。

「ほんとだー」

 ろとまま……のはずのほうが、そう返している。


「え? あれ? ……そっちが、ろと? こっち……ろとまま?」


 俺は、指差し確認しながら、そう聞いた。

 俺が髪のことを聞いて、最初に答えてくれたほうが、ろとままなんじゃなくて……?


「うむ」

「そうだよー」


 二人がうなずく。おなじ仕草で。


「おにいちゃんがなにを質問してくるか。天才である私にはまったくお見通しであったからな。言うべき台詞を、ろとに教えておいたのだ。おにいちゃんは、まんまと引っかかってしまったのだ」

「とれぼー。ひっかかったー?」


「あ、ああ……。ひっかかった……」


 二人の違いを見わけるのは、難易度、たかいなぁ。

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