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ある一族の物語  作者: 岸野果絵
イーウイア
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親友の家(前編)

 イーウイアは大伯母の家から帰宅するや否や、荷物を放り投げ、パッと身を翻した。

「イーウイアっ!」

「アンちゃんとこっ」

 イーウイアは母の制止に振り向きもせずに家を飛び出した。行き先はアンナの家だ。


 アンナはイーウイアと同じ年で、イーウイアにとっては一番の仲良しだ。

 アンナは父親と二人暮らしをしている。アンナの父・ジルベルトは剣士で大きな商家の用心棒をしていている。普段はフタラニーヤにいるが、たまに商品の輸送や主人の護衛として遠出することがあった。そんな時、アンナはイーウイアの家に預けられることが多かった。

 だから、イーウイアにとってアンナは友達以上姉妹未満というとても親しい存在だ。

 アンナは幼い頃に患った大病のせいで、少し足に障害があるが、手先はとても器用で、よくイーウイアにいろいろなものを作ってくれていた。イーウイアのお気に入りのポシェットも、アンナのお手製だ。


 イーウイアはアンナの家の裏の垣根をよじ登ると、アンナの部屋の窓の前に降り立った。窓から中を覗くと、机の上で何か作業をしている柔らかな少し癖のあるセミロングの少女の姿が見えた。

「アンちゃん、アンちゃん」

 イーウイアの声に少女――アンナが振り向いた。イーウイアの姿をみとめたアンナの少し薄い碧色の瞳が輝いた。

「イーちゃん!」

 アンナはすぐに立ち上がり、麻痺の残る左脚を心もち引きずりながら窓際にやってくると、思いっきり窓をザッと開けた。間髪入れずにイーウイアが窓から室内へ飛び込んだ。


「アンちゃん聞いてっ。今日、すっっごくきれいなお姉さんに会ったの」

 イーウイアはアンナに掴みかからんばかりにしゃべりだした。

 アンナはそんなイーウイアの様子にクスクス笑いながら、イーウイアを腰掛けるように促した。

 イーウイアは椅子に向かいながらも、今日あった出来事をしゃべり続けた。


「アリスティアさんて、すごく素敵な方なのね」

「うん。すっごくすっごく素敵。はぁ、あんな素敵な人がいるなんて……」

 イーウイアは思い出すかのようにうっとり目をつぶり、長いため息をついた。アンナはしばらくイーウイアの様子を眺めていたが、

「一目惚れ?」

 と、指摘した。

「うん。ぞっこん一目惚れ。フォーリンラブっ」

 イーウイアは大きく頷く。

「私も会ってみたいなぁ」

 アンナはクスクス笑いながらもちょっぴり羨ましそうに呟いた。

「そう、それっ」

 イーウイアは思い出したかのように大きな声をだした。アンナは不思議そうに首をかしげた。

明後日あさって、イベントでアリスティアさんが踊るんだって。アンちゃん、一緒に行こううっ!! 」

「うん。パパが帰ってきたら、お願いしてみる」

 アンナは嬉しそうに大きく肯いた。

 二人はその後、アンナの父が帰宅するまでアンナの家でおしゃべりに花をさかせた。

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