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ある一族の物語  作者: 岸野果絵
イーウイア
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大伯母の家

 イーウイアは祖母に連れられ、祖母の姉の元へと向かっていた。


 イーウイアはロドヴィーコに見せてもらったショーが忘れられず、どうしても踊りを習いたいと母方の祖母・ミルドレットに頼み込みんだのだ。ミルドレットは演奏家である姉のテレーズなら伝手つてがあるはずだとイーウイアを連れ、テレーズの家へ行くことにした。


 テレーズの家の門には大きな看板がかかっていた。ふたりは門をくぐり、玄関へと進んだ。ミルドレットが玄関の戸を叩こうと近寄ると、中から声が聞こえてきた。


「お家元、よろしくお願いいたします。では、御免下さいまし」


 ミルドレットは人が中から出てくる気配を察知し、道をあけるようにイーウイアとともに戸の横へと移動した。

 戸が開き、中から髪を低い位置でまとめた女性が出てきた。年の頃は20代前半というくらいだろうか。ぼってりとした厚い唇と潤んだように見える瞳がとても印象的だ。

 女性はミルドレットとイーウイアに気がつくと、ニコッと微笑んで軽く膝を折り会釈した。ミルドレットは応えるように会釈を返したが、イーウイアは、その女性を口を半開きにして見とれていた。女性はそんなイーウイアの様子に気がつくと口元に手をやりクスッと笑った。その何気ない仕草がじつに色っぽく、イーウイアはぼーっと呆けたままだった。

 女性はそのまま向きを変えると、楚々とした足どりで行ってしまった。

   

「大おばちゃま。今の綺麗なひと、だあれ?」

 イーウイアは挨拶もせずに出迎えたテレーズに尋ねた。テレーズは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに笑みを浮かべ、

「踊り子のアリスティアさんよ」

 と、こたえた。

「アリスティアさん……」

 呆けるように呟いたイーウイアに、ミルドレットはたまらず笑い出した。

「お姉さん。この子ったら、さっきからこの調子なのよ」

「無理もないわねぇ。アリスティアさんはほんと、お綺麗だから」

 テレーズはクスクスと笑いながらこたえると、ミルドレットとイーウイアを奧へといざなった。


 テレーズはミルドレットの話を聞くと、少し考えるように視線を落とし、

「どなたがいいかしらねぇ。相性や好みがあるからねぇ」

 と呟くと、イーウイアに視線を合わせた。

「イーちゃんはどんな踊りが好き?」

 そう尋ねられ、今度はイーウイアが考え込んだ。


 イーウイアはあのショーを観るまで舞踊をみたことは何度もあったが、あまり興味がなかったため、いつも半分うつらうつらとしてみているだけだった。

 だから、改めて「どんな」ときかれてもこたえられない。強いて言えば、あのショーのような踊りだが、テレーズの伝手はあのショーとはジャンルが違うのを知っていたし、あのショーについて、上手く言葉に出来そうもなかった。


「何ヶ所か見学に行くといいわね」

 テレーズは考えこむイーウイアをみながらそう言った。

「ねぇ、お姉さん。アリスティアさんは?」

 ミルドレットはふと思いついたように、そう口にした。

「アリスティアさん」

 イーウイアがハッと顔を上げた。

「ああ。あのは置屋にいるだからねぇ……」

 置屋に住まう踊り子は、たいていの場合借金があり、その返済のために料亭や娼館で客をもてなす者が多い。そのため、自由の身ではない。アリスティアはそういった踊り子の一人なのだろう。

 テレーズの言葉にイーウイアはうなだれた。

 テレーズとミルドレットは、そんなのイーウイアの様子に笑い出した。


「イーちゃんはよっぽどアリスティアさんを気に入っちゃったようね」

 クスクスとしながらテレーズは続けた。

「イーちゃん、明後日あさって、来られる? 」

「お姉さん? 」

 不思議そうに首をかしげたミルドレットに、テレーズは合図をするように軽く片目をつぶった。

「一般の方に向けて花街でちょっとしたイベントをすることになっててね、アリスティアさんも踊るのよ」

「絶対来ますっ」

 イーウイアは立ち上がらんばかりに言った。

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