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ある一族の物語  作者: 岸野果絵
イーウイア
59/63

移籍

「ロドヴィーゴ。あたし、もうここに来なくなるんだ」

 イーウイアは塀の上に腰かけ、足をプラプラさせながら言った。

「え?」

 隣に座っていたロドヴィーゴは驚いた様子でイーウイアの横顔をまじまじと見つめた。

「こないだ、師匠が『もう手に負えない』ってこぼしてるの聞いちゃったの。たぶん、近いうちにクビになると思う」

 イーウイアの声に暗さは全くなく、あっけらかんとしたした口ぶりはまるで他人事のようだ。

「僕のせいだ。僕が君を連れ出したりしなければ……」

 ロドヴィーゴは沈んだ声でうつむいた。

「ううん、違うよ」

 イーウイアは首を軽く横に振り、ロドヴィーゴの方を向いた。

「いつものことなの。あたし、あなたと仲良くならなかったとしても脱走しまくるから。だって、魔術の訓練ってつまんないんだもん」

 イーウイアは頬を膨らませ、おどけた声で言った。しかし、ロドヴィーゴは無言でうつむいたままだった。

「私ね、常習犯なの。いろんな師範のトコに入門させられては、破門されまくってて……。今の所で5カ所目。だから、気にしないでね」

 イーウイアはロドヴィーゴの顔をのぞき込み、優しく微笑みかけた。

「……」

 ロドヴィーゴは顔を上げたが、その瞳は悲しそうに揺れていた。イーウイアは少し困ったように視線を落としたが、すぐに顔をあげ、 

「ロドヴィーゴ。今まで仲良くしてくれてありがとう。いろんな所に連れてってくれて、とってもとっても楽しかった」

 と、ロドヴィーゴに満面の笑みを向けた。 

「僕も楽しかった」

 ロドヴィーゴは瞳を揺らしながら少しぎこちない微笑み返した。


「あ、そだ」

 イーウイアは斜めがけしていたポーチの中に手を突っ込み、何かを握って出してきた。

「これ、あなたにあげる」

 そう言って、ロドヴィーゴの目の前で握った手を開いた。掌の上には小さなペンダントがのっていた。

「こないだ出された課題で作ったの。このペンダント、付与魔法が仕込んであるんだ」

「付与魔法?」

 ペンダントを手に取ったロドヴィーゴは首をかしげた。

「お守りみたいなもんかな」

 イーウイアは小首をかしげてそう言うと、ロドヴィーゴに顔を近づけ、

「でね、ちょっとした機能を加えたの。ギュッと握るとパッって光るの」

 と、まるで内緒話をするように言った。

「光る?」

 ロドヴィーゴは不思議そうにイーウイアの瞳をのぞき込んだ。

「多少の時間稼ぎにはなるでしょ? 軽くじゃダメよ。思いっきりギュッ」

 イーウイアはお手本を見せるかのように空っぽの手をギュッと握った。

「イーウイア……」

「ロドヴィーゴ。またさらわれないように気をつけるのよ。もうあたしはいないんだから」

 イーウイアは右の人差し指を立てて、言い聞かせるように言った。

「ありがと。大切にするよ」

 ロドヴィーゴはペンダントを両手で軽く包みこみ、ニッコリと笑った。イーウイアはちょっぴり困ったように眉間にしわをよせた。

「大切にするようなシロモノじゃないって。訓練用だし、試作品だし、いつまで効果がもつかもわかんないし……。もっといいのが手に入ったら、気にしないで捨てちゃってね」

「うん。ありがと。でも、大切にするよ」

 ロドヴィーゴはイーウイアをじっと見つめながらニッコリと微笑んだ。イーウイアは応えるようにニッコリする。

「ロドヴィーゴ。どこかで会ったら、その時はよろしくね」

「うん。その時はまた遊ぼうね」

「うん」

「あたし、そろそろ行くね」

 イーウイアはそう言うと、ロドヴィーゴのほっぺに軽くチュッとキスをした。ロドヴィーゴはびっくりしたように頬に手をやり、イーウイアの顔を見る。イーウイアは悪戯っぽくニヤリと笑うと、塀からポンと地面に降り立った。そして塀の上に座っているロドヴィーゴを見上げた。

「ロドヴィーゴ、元気でね」

 イーウイアはロドヴィーゴに向かって大きく手を振り、驚いて何も言えないロドヴィーゴを尻目に、

「じゃ、またね。バイバイ」

 と、さわやかに笑いパッと身をひるがえして駆けだした。

 ロドヴィーゴはその後ろ姿をいつまでも見つめていた。

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