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ある一族の物語  作者: 岸野果絵
イーウイア
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お出かけ

 勝手口に隙間を見つけたイーウイアは、迷わず戸を軽く押した。戸は「ギィ」と小さな音をたてながら開いた。

 イーウイアはニヤリとし、軽く辺りを見回してからスルリと外へ出た。


「やぁ、イーウイア」

「ロドヴィーゴ」

 イーウイアは小走りで木陰から姿を現した少年の前に駆けよると、満面の笑みを浮かべた。


「ねね。今日は何処に連れてってくれるの?」

いちに見世物小屋がきてるんだ」

「面白そう!」

 二人は手をつないで歩きだした。


 あの日以来、イーウイアは魔術の訓練を抜け出しては、ロドヴィーゴと遊び歩いていた。

 この街で生まれ育ったロドヴィーゴは、 街のことをよく知っていて、イーウイアをいろいろな所へ案内してくれる。地方でも有数の大都市であるこの街には、いろいろと面白い場所が多く、また、イベントもよく開催されていて、イーウイアにはわくわくすることばかりだった。


 見世物小屋を楽しんだ二人は、小屋の近くに広げられた露店をみていた。


「うわぁ、かわいい」

 イーウイアの視線の先には小さな蝶々の簪があった。

 ロドヴィーゴは店主に断って、その簪を手に取リ、イーウイアの髪にその簪を挿してやる。すかさず店主がイーウイアに手鏡を渡した。

 白蝶貝でできた蝶々は陽の光をあびて、キラキラと輝いていた。

「うわぁ~。やっぱりかわいい」

 手鏡を覗きこみながら、イーウイアは髪に手をやった。 

「君の黒髪によく映えるね」

 ロドヴィーゴはニッコリと微笑むと、店主に目配せをし、銀貨を手渡した。

「え、ちょっ。ダメダメ。こんな高いモノ」

 イーウイアは慌ててロドヴィーゴを制した。簪はそこまで高価なモノではなかったか、子供がポンとだせるような金額ではなかった。

「大丈夫だよ。お祖父さまからお小遣いいただいてきたから」

「でも……」

「お祖父さまはイーウイアにっておっしゃってたんだ。お世話になってるからって」

 眉間にシワを寄せたイーウイアにロドヴィーゴはそう言って笑いかける。

「う~ん」

 イーウイアは腕を組んでしばらく考えていたが、

「ロドヴィーゴのお祖父ちゃまからなら、いっか。お祖父ちゃまにありがとって伝えといてね」

 と、ニパッと笑った。

「うん」

 ロドヴィーゴは満足そうに微笑んだ。 

 

*****

「あ、やば。追っ手だ」

 不意に魔力を察知したイーウイアはピクッと立ち止まる。

 

「ロドヴィーゴ、今日はありがとね」

 イーウイアは急いでロドヴィーゴに手を振ると、一目散に駆けだした。


「イーウイア」 

 目の前に異母兄のシュタインが立っていた。シュタインはイーウイアの父の先妻の息子。イーウイアとは17歳ほど年が離れていている。

 

「あらあにさん。ご苦労様」

 イーウイアは立ち止まると、とりすました声でねぎらいの言葉をかけた。

「いい加減にしてくれよ」

 シュタインはため息交じりにぼやく。

 最近イーウイアは魔力をに消すという技を覚えたようで、脱走するとなかなか見つからず、とっくに独立したシュタインまで捜索に駆り出されるようになっていた。

 

「兄さんも大変ねぇ~」

「あのなぁ……」 

 見つけたら文句の1つでも言ってやろうかと思っていたシュタインだったが、イーウイアのまるで他人事のような様子に、気力が削がれていくのを感じた。

 何を言ってもイーウイアの大人ひとをナメ腐った態度は変わらないだろう。


 イーウイアが生まれたとき、シュタインは可愛い妹が出来ると、ちょっぴり期待していた。当時、既に上級魔術師となっていたシュタインは、父の後妻に遠慮して実家を出てはいたが、母親は違っても妹は妹だ。女の子というのは可愛いもの、なはずだった。ましてやイーウイアは生まれてすぐに魔術を扱うような天才だ。父親の喜びようはものすごかったが、シュタインもイーウイアが可愛くてしかたがなかった。

 そう、イーウイアが赤ん坊のうちは……。

 イーウイアは成長するにつれ、とんでもない悪ガキになっていった。

 最初のうちはイーウイアの邪悪な一面に気がついていたのはシュタインだけだった。しかし、師範魔術師に入門し、本格的に魔術の訓練を始めたイーウイアは、その本性を周囲に現すようになった。しょっちゅう魔術の訓練を抜け出したり、師匠に対して不遜な態度をとったりして、入門先からことごとく破門されるようになったのだ。

 イーウイアを溺愛し、言いなりだった父も、イーウイアがとんだ問題児であることを認識しはじめたようで、近頃では頭を悩ませている様子だ。


「気の毒だから大人しく帰ってあげるわ」

「……」

 上から目線でニッコリと笑うイーウイアに、シュタインは何も言う気が起きなくなっていた。

 

 一刻も早く、目の前の小さな悪魔から解放されたい。


 シュタインは静かに瞬間移動術を唱え始めた。

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