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ある一族の物語  作者: 岸野果絵
イーウイア
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夢のような世界

 ロドヴィーゴは馬車から降りると、イーウイアに手をさしのべた。イーウイアはニコッと微笑むと、ロドヴィーゴのエスコートで馬車から降りる。

 

 イーウイアの目の前には大きな赤い壁の建物がそびえていた。 

 イーウイアにとって、その建物は今までに見たことのないような建物だったが、イーウイアは一目でその建物が一体どのようなモノをなのかがなんとなく分かった。

 ここはおそらく娼館というところだ。イーウイアのような子供がきていい場所ではない。 


「大丈夫。話はつけてあるから、安心して」

 ロドヴィーゴは戸惑うイーウイアを安心させるように優しく微笑みかける。

「うん」

 イーウイアは固い表情のまま頷くと、ロドヴィーゴに手を引かれながら建物に入った。


 そこは別世界だった。

 柱などには豪華な装飾がなされ、天井から色とりどりの薄絹が垂れ下がっている。

 イーウイアは口をポカンと開け、キョロキョロと辺りを見回しながら、ロドヴィーゴに手を引かれていく。


 2人は奥の大きな1室に通された。

 その部屋も豪華な装飾がなされていて、掃き出し窓があり、中庭に出られるようになっていた。開放された窓には薄いカーテンがかかっていてた。風に揺れる度に、カーテンはキラキラと輝く。

 部屋の壁ぎわには楽器が並べられていた。

 部屋の奥にはこれまた豪華に装飾された赤いソファーがあり、イーウイアはうながされるまま、そのソファーに腰かける。ロドヴィーゴが隣に座った。

イーウイアは天井を見上げた。天井には豪華なシャンデリアが輝いていた。


「すぐにはじまるはずだから、もうちょっと待っててね」

 イーウイアはロドヴィーゴの言葉にうなずきながら、部屋の中をキョロキョロと見回していた。


 しばらくすると、カーテンがさっとまくり上げられ、色とりどりの綺麗な衣装を纏った女性たちが室内に入ってきた。

 女性たちはらイーウイアの目の前に勢揃いすると、一斉に深々とお辞儀をした。

 イーウイアもつられて、座ったままぺこりと頭を下げる。


 女性たちが左右に捌け、何人かは楽器を手にして座った。

 中央には1人の美しい女性が残った。

女性が艶やかな笑みをたたえながら、ポーズをとる。

 静かに音楽が流れ出した。


******


 ショーが終わった。

「はぁ~。素敵だったぁ」

 拍手をしたイーウイアは、うっとりとため息をもらした。

「楽しめた?」

 ロドヴィーゴがニコニコしながら尋ねる。

「うん。とっても、とっても。まるで夢の中みたいだった」

 イーウイアはまるで祈るかのように両手の指を胸の前で絡め、うっとりと微笑んだ。

 ロドヴィーゴはそんなイーウイアの様子に目を細めて

「それは良かった」

 とつぶやくように言い、

「でも、あんまり子供が来ていいところじゃないから、ここに来たことは内緒だよ」

 と、神妙な面持ちで付け足した。

 イーウイアは真剣な顔をして「うん」と大きく肯いたが、

「あたし、あのお姉さんたちみたいになりたいなぁ~」

 と、すぐにうっとりとした表情になる。

「う~ん。それは難しいかな。というよりも、君みたいなきちんとしたお(うち)の子はなれないし、ならないほうが幸せなんだよ」

 ロドヴィーゴはちょっぴり困った顔をしながら言った。

「そうだよね……。それくらい、あたしも分かる。でも、憧れるなぁ~」

「煌びやかな世界にみえるもんね。実際は違うけど……」

「うん」

 イーウイアはまだ子供ではあったが、娼館にいる女たちが、どのようなことをしているのかは何となく分かっていた。そして、彼女たちには、イーウイアには想像も出来ないくらい大変な事情があり、娼館で働くしかないということも……。

 

「はぁ~、それにしても素敵だったなぁ~」

 イーウイアはうっとりとため息をもらした。

 過酷な環境であることは百も承知であったが、先ほどの美しい夢のようなショーは、イーウイアの心を鷲づかみにしていた。

 

「よしっ。あたし決めた」

 イーウイアは突然拳を握って叫んだ。ロドヴィーゴは驚いてイーウイアの顔を覗きこむ。 

「踊りのお稽古する」

 イーウイアは立ち上がりたからかに宣言する。

「え?」

 ロドヴィーゴはびっくりまなこでイーウイアを見上げた。

 

「お祖母(ばあ)ちゃまの実家が、確か芸事関係だったはず」

 イーウイアはドスンと腰を下ろし、ロドヴィーゴのほうを見て、少し自慢げにニヤリと笑った。

「そうなんだ」

「ジャンルは違うっぽいけどね」

 イーウイアは小首をかしげて、そうつけ加えた。

「そっか。でも、お祖母ちゃん経由なら安心だね」

 ロドヴィーゴはホッとしたようにニッコリ笑った。イーウイアは目をキラキラ輝かせて肯く。

「うん。あたし、頑張る」

「踊れるようになったら、僕に見せてね」

「もちのロンさ」

 イーウイアはニンマリと笑った。

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