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ある一族の物語  作者: 岸野果絵
イーウイア
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人助け

 イーウイアは地面に降り立つと、ニンマリと満面の笑みを浮かべた。

 今回の塀は予想外の高さだったが、すぐ脇に手頃な木が植わっていたので、意外なほどあっさり攻略できた。

 イーウイアは魔力を消すと、足音をさせずに走り出した。

 角を曲がると、すぐに街並みが見えてきた。

 イーウイアは速度を緩め、不自然にみえない程度の早足で人が多そうな方向へ進んでいく。


 人が隠れるのには、人ごみの中。

 イーウイアは、何処かで聞いたその言葉の通りに、繁華街へと向かった。


「すご~い」

 大通りにでたイーウイアは感嘆の声をあげた。

 ここは国でも有数の大都市だ。馬車や荷車、さまざまな人々が行き交う光景は圧巻だった。


 イーウイアはいろいろな店が建ち並ぶ大通りを、キョロキョロと興味深く歩き回った。

 小さな女の子がこんなところに1人でいるのは少し違和感があったが、あまりにも多くの人々が行き交うので、そのことに注意を向ける者はほとんどいなかった。

 イーウイアは大通りを堪能すると、少し細い路地へ入っていった。

 そこでは、蚤の市が催されていた。

 イーウイアは目を輝かせて、露店の間を歩き回る。一通り見終わったイーウイアは、道端の少し崩れた石垣に腰を下ろした。


 そろそろ、イーウイアの脱走に気が付いた追っ手がやって来てもおかしくない頃合だ。

 イーウイアは目を閉じ、意識を集中させる。

 見当違いな方向に師匠の魔力を発見したイーウイアはほくそ笑んだ。


 もう少し探検できそうだ。

 イーウイアは立ち上がると、さらに細い道へと進んだ。

 狭い道を抜けると、川端へ出た。左右を見回すと、大きな蔵が建ち並んでいるのが見える。ここは倉庫街のようだ。

 イーウイアは、現在地を確認しようと、事前に用意していた地図を懐から取り出した。


 と、子供を抱えた風体のよくない男たちの姿が視界の端を横切った。

 イーウイアは反射的にそちらに走り出す。

 すばしっこいイーウイアは、すぐに男たちに追いついた。


「ちょいと、待ちな」

 イーウイアの声に、男たちの足が止まった。

「なんだ、ガキか」

 子供を抱えた男は鼻で笑うと、そのまま行こうとした。

「その子を離しなさい」

 イーウイアは素早く男の前に立ちはだかった。

「お嬢ちゃん、ケガしないうちに帰んな」

 子供を抱えていない髭面の男が凄味のある声で言った。

「ケガをするのは、お前の方だよ」

 イーウイアはそう言うと、髭面に向かって手を振り上げた。

 髭面はイーウイアの手をやすやすとかわす。

 と、その場から去ろうとした、子供を抱えた男の足もとの地面がぐにゃりと波打った。

 男はもんどりうって地面に転がる。

 男の手から子供が離れた。

 子供は猿ぐつわをされ、縄で縛られてはいたが、男から少しでも離れようと、もがきながら転がっていく。

 イーウイアはつかみかかってきた髭面の攻撃をかわし、素早く魔弾を練ると転倒した男に向かって投げつける。

「ぐはっ」

 立ち上がろうとした男に魔弾は見事に命中した。

「魔術師か」

 髭面が真っ赤な顔をしてイーウイアに襲いかかってくる。イーウイアは髭面に向かって手をかざした。髭面はイーウイアに触れるか触れないかのところで、突然痙攣し、そのまま硬直したように後ろに倒れた。


「益ない殺生いたしてござる」

 男たちは死んではいなかったが、イーウイアは手をパンパンとはたきながら、先日みた芝居の台詞の真似をしながら転がっている子供のところへ行き、猿ぐつわと縄を解いてやった。

「ありがと」

 少年は涙に濡れた目をこすると、眩しそうにイーウイアを見上げ、立ち上がった。

 少年は、よく見るとイーウイアと同じくらいの年頃だ。色白で柔らかそうなくりくりのブロンドの巻き毛に、つぶらな青藍色の瞳。パッと見は女の子のようにも見える。

「当然のことをしたまででごんす」

 イーウイアは、これまた以前みた芝居の主人公よろしく、ニコッと不適な笑みを浮かべた。

 そんなイーウイアをみて、少年はくすりと笑った。

「僕はロドヴィーゴ。君の名は?」

「名乗るほどの者でもございやせん」

 イーウイアは芝居がかった口調でそう言ったが、少年が困ったような顔をしたのに気が付き、

「あたしはイーウイア。弱い者の味方よ」

 と、言い直した。

「ありがとう、イーウイア」

 ロドヴィーゴは改めて礼を述べる。

 イーウイアは少し照れたようにはにかんだが、次の瞬間、パッと身をひるがえし走り出した。


「イーウイアっ」

 イーウイアの背後から父親の声が飛んでくる。

 イーウイアはすかさず倉庫の間の狭い道に入ろうとしたが、それよりも先に、父親の放った魔網がイーウイアを包みこんだ。


 イーウイアは見事に捕縛された。

 

「父上~。あたし人助けしてたのっ。悪さしてないってばぁぁ」

 父親に担がれながら、イーウイアはそう抗議したが、父親は全く聞き入れる様子はなかった。

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