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ある一族の物語  作者: 岸野果絵
シンシア
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行方

 仕事に区切りがついたレイラは庭に降りた。

 早咲きの黄色い水仙がぽつぽつと咲き始めている。外はまだまだ寒かったが、レイラにはその寒さが心地よかった。

 

 レイラは水仙の前に屈むと、花を見つめながら大きなため息をついた。

 

 シンシアが姿を消してから、数ヶ月が経過していた。捜しに出たレクラスからも未だに何の連絡もない。レイラ自身も仕事の合間をぬっては、何度もシンシアの魔力を感知しようと試みてはいたが、微かな気配すら感じ取ることは出来ないでいた。


 シンシアはもうこの世にいないのではないか。

 そんな予感にレイラの心は押しつぶされそうになる。

 

 もっとシンシアの動向に気を配るべきだった。

 もっときちんと話をしておくべきだった。


「レイラ」

 呼びかけられ、顔を上げると、父・マティアスが静かに立っていた。レイラは立ち上がると会釈をした。

「近頃レクラスの姿を見かけないのですが……」

 マティアスは軽く首をかしげ、いぶかしげに言った。


 マティアスはレクラスが成人すると、その補佐を完全に退しりぞいた。今は研究に専念しており、自身の研究棟で寝起きしているため、めったに人前に姿を現さない。そんなマティアスが今回のことを知らなくてもおかしくはなかった。

 

「レクラスはしばらく留守にしております。そのかん、わたくしが当主の代行を……」

「そうでしたか。私はあなたがたの決めたことに口を出すつもりはありません。ですが、一体何があったのです?」

 マティアスは眉間にシワを寄せながら尋ねた。


「お父様。実はシンシアが姿を消してしまったのです」

 レイラはかすれるような声を出した。

「シンシアが? なぜです?」

 マティアスは「全くわからない」という様子で首をひねった。

「真実は分かりません。ですが、どうやらあのは、自分の出自に引け目を感じて……」

 レイラは目を伏せた。

「引け目? せませんねぇ」

 マティアスは腕を組み、先ほどとは反対側に首をひねった。

「彼女は海に消えたラステルームの末裔。我が一族の同胞です。ラセリアが探し出してきたむすめですよ?」

 マティアスは片手を頬にやりながら言った。

「はい。ですが、大叔母上が、イザベラ殿が……。あの方は海の民のご出身」

 レイラは目を伏せたまま、囁くように言った。

出口でぐちをはさんだのですか」

 マティアスは顎の下に手を移動させ、低い声を出した。レイラは静かにうなずいた。

 マティアスはため息をつく。

 レイラは悲しそうに吐息をついた。

迂闊うかつでした。わたくしの手落ちでございます。あの娘に何かあったら……」

 声が震えてきて、レイラはそれ以上喋ることが出来なくなり、口元をギュッとおさえた。みるみる瞳が潤みだし、レイラはそれを隠すかのようにうつむいた。

 マティスはレイラの様子をチラリと見たが、すぐに何かを考えるかのように軽くうつむいて視線を斜め下に落とした。


 長い沈黙のあと、マティアスは顔を上げた。

「案ずることはありませんよ、レイラ。シンシアは生きています。おそらく、無事です」

「お父様、居場所がお分かりになるのですか?」

 レイラは顔を輝かせ、マティアスの顔をまじまじと見つめた。

「正確な位置まではわかりませんが……」

 マティアスは再び何かを確認するかのように視線を落とすと、

「まぁだいたいの場所は……」

 と、言った。

「お教……」

 レイラはシンシアの居場所を聞きだそうとした。しかし、マティアスはそれを遮るように、

「レイラ」

 と、呼びかけた。

「はい」

 レイラは反射的に返事をする。

 

「私は何の心配もしてはおりませんよ」

 マティアスはニッコリしながらそれだけ言うと、レイラに背を向け、まるで何ごともなかったかのように静かに歩きだした。


 マティアスは手を貸すつもりないのだ。

 レイラは愕然とし、去りゆくマティアスの背中を見つめていたが、すぐにその真意に気がつき、ハッと目を見開いた。

「お父様……」

 レイラは見えなくなったマティアスに向かって、深々と頭を下げた。

黄色い水仙の花言葉・・・「わたしのもとへ帰って」

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