(過去話・番外編 )ある日の執務室
執務室の扉がいきなり開き、レイラが入ってきた。
書類に目を通していたレクラスは静かに顔を上げる。
「レクラス。シンシアの進捗状況はどうじゃ?」
レイラは机の前にやってくるとそう尋ねた。
「順調です。あと2回ほどお教えすれば完了するかと」
レクラスは書類を手にしたままこたえる。
「そうか」
そう短く返答したレイラは、何か言いたげにレクラスをジッと見おろし、そのままその場に立っていた。
「彼女は素晴らしい素質をお持ちですね」
レクラスは書類を置くと、そう言って微笑んだ。
「そうであろう。そうであろう」
レイラは満足そうに目を細め、大きく頷く。
「姉上。私はシンシアを妻に迎えたいと考えております」
レクラスの言葉に、レイラは満面の笑みを浮かべた。
「おお、そうか。シンシアは良い娘じゃ。うむうむ。あの娘ならば、我がザルリィディア本家の嫁として申し分ない。妾にも異存はないぞ。それどころか、大賛成じゃ」
レイラはニコニコしながら机の上に身をのりだし、手を伸ばしてレクラスの頭をワシャワシャと力強くなでまわした。
レクラスはじっと動かずに、されるがままになっていたが、レイラが頭から手を離すと、
「後は、彼女が私を受け入れてくれるかどうかです」
と、ぐちゃぐちゃにされた髪を整えながら、静かにそう言い、視線を落とした。
「ん? そちにしては弱気じゃのぅ。命ずることもできるのじゃぞ?」
レイラは上半身を机の上にのせたまま、至近距離でレクラスの顔をまじまじと覗き込んだ。
レクラスは視線を上げると、レイラの顔を真っ直ぐに見た。
「いいえ、姉上。私は彼女に強要するつもりはありません。彼女の意思を尊重します」
「そうか。本気なのじゃのぅ」
レイラは目を細め、ニヤリとしながら言った。
「はい」
レクラスは静かに頷いた。
「まあよい。好きにいたせ。妾には男女のことはよう分からぬし、興味もない」
レイラはそう言うと、机から降り、プイッと向きを変え、出口の方へと歩き出す。
「どの口が……」
レクラスがレイラの後ろ姿を眺めながら呟いた。
「ん?」
レイラは首をかしげながら振り向いた。
「貴女方には敵いません」
レイラは、静かにそう言ったレクラスの方につかつかと戻ってくると、眉を上げ、
「当然じゃ。妾はともかくも、母上様は策士じゃからのぅ」
と言ってレクラスを見おろした。
「全くもって」
レクラスはため息交じりに同意する。
レイラはニヤリと満足そうな笑みを浮かべると、目をカッと見開き、
「レクラス。シンシアは特別な娘じゃ。大切にするのじゃぞ」
と、真剣なまなざしで命じた。
レクラスは「はい」とレイラをジッと見返しながら返事をする。
レイラは表情を緩めた。レクラスもほぼ同時に緩める。二人は同時に視線を落とすと「ふふっ」と笑みを浮かべた。




