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ある一族の物語  作者: 岸野果絵
シンシア
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憂慮

 レイラは帰宅するや否や、急ぎ足で執務室へと向かった。

 ノックもせず、慌ただしく扉を開け、室内を見渡す。部屋の奥に家宰と話をしている弟・レクラスの姿をみつけたレイラはつかつかと歩み寄った。そんなレイラの様子をさっしてか、家宰はそそくさと逃げるように部屋を出ていった。

 

「シンシアが姿を消したとはまことか?」

 レイラはレクラスの目の前に立つと、開口一番そう言った。

「はい。心当たりを捜してはおりますが、一向に……」

 レクラスは視線を落とし、首を横に振った。

「だからさっさと手をつけておけと申したのに。この愚か者めが!」

「……」

 レイラの言葉にレクラスはうつむいた。

 そんなレクラスの顔をレイラはいぶかしげに覗きこむ。

 

「つけたのか……」

「……」

 レスラスは無言でうなだれたままだった。

「手をつけたにも関わらず逃げらるとはのぉ……」

 レクラスは押し黙ったまま微かに口をへの字に曲げ、「それ以上言ってくれるな」と恨みがましい上目遣いで訴えてくる。

 レイラは気まずそうにレクラスから視線をそらすと、わざとらしく咳払いをした。


「あ、あれじゃな。そういう素振りはなかったのか?」

 レイラはあさっての方を見ながら、軽くうわずった声で尋ねる。

「前の晩までは何も……」

「そなたが気がつかなかっただけではないのか? 殿方とのがたとは、まことに鈍感な生き物だからのぉ」

 レイラが少し小バカにするように言うと、レクラスはピクリと顔を上げた。

「お言葉ですが、姉上。私はシンシアについては、かなり気を配っております。いつも彼女とは良く話し合っておりますし……」

「良く話し合った結果がこれかえ?」

 レイラは眉尻を上げた。

「それは……」

 レイラの鋭い指摘に、レクラスは目を伏せた。


「さっさと祝言をあげぬからじゃ。女子おなごはのぅ、きちんとカタチで示してやらねば、不安になる生き物じゃぞ」

「それについては、彼女が待って欲しいと。師範になってからと……」

「ときには強引さも必要じゃ。何のために悪所へ通っておったのじゃ」

 レイラは薄い目をしてレクラスを睨みつける。

「それとこれとは、まったく勝手が違います」

 レクラスは少しムッとした様子で反論する。

 レイラはため息をついた。

「しょうのない奴じゃのぅ。妾も心当たりをあたってみることにしよう」

「よろしくお願いいたします」

 レクラスは深々と頭を下げた。

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