番外編 レイラの旅立ち
レイラがまどろみの岸辺に立っていった。レイラの横には一艘の舟がある。
ニコラスがそばにに寄ると、レイラはニコラスの方を向いた。
「ニコラス。妾は夜の女神の元に行くことにした」
「それでは、見つかったのですか? 」
レイラは大きく頷くと、
「そちは師範魔術師。一人前じゃ。もう妾が居らなんでも大丈夫じゃな? 」
と、ニコラスの顔を覗き込んだ。
「レイラ婆……」
不安そうにつぶやくニコラスに、レイラは微笑みかける。
「ニコラス。そちゃもう大丈夫じゃ。妾は何の心配もしてはおらぬぞえ。そなたは独りではない。クレメンスもダニエルも居る。これからはそなた達の時代じゃ。年寄りがいつまでも居座っておっては、なにかと煙たいじゃろうて」
「師匠……」
うつむくニコラスにレイラは小首をかしげたる。
「なんじゃ? なぜそのような悲しい顔をしておるのじゃ? そちゃ妾の門出を祝うてはくれぬのか? 」
「……」
ニコラスの灰色の瞳が悲しげに揺れる。
「妾の長年の夢が叶う時じゃ。やっと、やっとじゃ。ようやっとこの時が来た。妾はこのために生きながらえて来たのじゃ。ニコラス、喜んでくりゃれ」
レイラは嬉しそうにキラキラと黒水晶の瞳を輝かせた。
「レイラ婆。おめでとうございます」
ニコラスは精一杯の笑顔で言った。
「ニコラス。良い笑顔じゃのう。妾の晴れの門出にふさわしい」
レイラは満足そうに頷くと、舟を『夢幻の湖』へ浮かべ、トンと身軽に乗り込んだ。
「ニコラス。達者での。人生を楽しむのじゃぞえ」
そう言うと、レイラは櫂をもち、静かに漕ぎ出した。
舟は霧の中へ進んでいく。
ニコラスは、舟が見えなくなっても、しばらくの間、湖を眺めていた。




