霧に包まれた湖
夢の中で、レイラは深い霧の中を歩いていた。
ここは幼いころから、何度も来ている場所だ。
この先には広大な湖があるはずだった。
しかし、その湖までたどり着けたのは、今まででに三度しかない。
初めて湖を見たのは、まだ初級魔術師だった頃だ。
あの日、可愛がっていた犬が死んだ。
いくら名前を呼んでも目を覚まさないシロを抱きしめながら、何度も何度も名前を呼び、泣きつかれて、いつしか眠ってしまった。
あの時は、気がつくと湖のほとりに立っていた。
霧にかすむ湖からシロが元気に駆けてきたのだ。
レイラは思う存分、シロと戯れた。
次に湖を見たのは、中級魔術師の時。
自分の容姿の醜さに絶望した時だ。
あの時は、濃霧の中を進み、湖にたどり着いた。
何もかもがイヤになっていたレイラは、迷わず湖の中に突進した。
しかし、もう少しで沈むというところで、母・ラセリアに揺り起こされてしまったのだ。
最後に見たのは、母・ラセリアが死んだ時だ。
ラセリアの後ろ姿を追いかけて、湖へとたどり着いた。
そこには、いろいろなラセリアがいた。
微笑みながら赤ん坊のレイラをあやすラセリア。
一族の前で堂々と演説をするラセリア。
父・マティアスと仲睦まじく語らっているラセリア。
弟・レクラスに厳しく指導しているラセリア。
そして、レイラは辺りに浮かぶ幻影を見ながら悟った。
この湖は人々の記憶が行き交う場所――『夢幻の湖』なのだと。
幼い頃、ラセリアがよく『いにしえの夜の女神』の話をしてくれた。
この世のどこかに『夢幻の湖』という、人々の記憶や夢が生まれてたどり着く場所がある。
そして、その『夢幻の湖』に浮かぶ小島に、『いにしえの夜の女神』が眠っている。
レイラは今宵も霧の中を歩きつづける。
もう一度、『夢幻の湖』にたどり着くために。
そして、そこに眠るという『いにしえの夜の女神』に会うために。




