雷雨
夕方から降りはじめた雨は、夜になるにつれ、雷を伴った、激しいものとなっていった。
レクラスは布団を頭からかぶって震えていた。
カーテンを閉めているにも関わらず、時折、外の稲光が室内を照らし、ドドンという爆音が腹の底にまで鳴り響く。
レクラスは雷鳴が轟く度に、身体をかたくした。
怖かった。
稲光や雷鳴も怖くないと言ったらウソになる。
しかし、レクラスが恐怖を感じていたのは外の物音ではない。
雷鳴とともに微かに聞こえる、隣の部屋からの物音と気配が、レクラスの恐怖心をかき立てるのだ。
轟く雷鳴に紛れ、何かが叩きつけられるような音がする。
ガラスの割れるような音も聞こえてくる。
唸る雨風の音に隠れて、悲鳴のような、何かを引き裂く音が聞こえてきた。
隣の部屋の住人ーー姉のレイラの身に、一体何が起こったのだろうか。
夕食の時のレイラは、一見、いつもと変わらない雰囲気だった。
しかし、レクラスは姉の微笑みの奥に、底知れない何かを敏感に感じ取っていた。
寝ている猛獣の檻の前にいるような、息が詰まり、心臓がぎゅっと掴まれるような感じ。
それは本能的な恐怖だ。
レクラス以外は誰も気がついていないようだった。
そのことが、さらにレクラスの恐怖心を煽った。
ふと、風音が止んだ。
隣からの物音も聞こえなくなった。
レクラスは恐る恐る布団から出た。
カーテンがふわりと揺れ、何かの陰が見えた気がした。
レクラスは好奇心に負け、ゆっくりと窓際に向かった。
震える指先で、カーテンを軽くつまみ、できた隙間から、外を覗いた。
視界の端に、魔力の輝きが揺らめいた。
息をひそめながら、ゆっくりと視線を、そちらの方向に動かした。
隣の部屋のバルコニーに、誰かが立っている。
解放された魔力が燐光のように、淡く青白く燃えている。
滝のようにふり続ける雨の中で、ずぶ濡れにもかかわらず、振り乱した髪がゆらゆらと宙に浮かんでいる。
ピカッ
閃光が走り、一瞬だけ昼間のように明るくなった。
血走った眼を大きく見開き、口元はまるで笑っているかのように歪んでいるレイラの横顔が、レクラスの視界に飛び込んできた。
レクラスの息がとまる。
ズドーン
地面が割れるような爆音が響いた。
レクラスは我に返り、飛び上がるように窓から離れると、這いつくばるようにして、布団を掴み、ベッドの下に潜りこんだ。
歯がガチガチなってしまうのを必死で押さえ込む。
その晩、レクラスは一睡もできず、ベッドの下で息を殺していた。




