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第7話 朗報

 「うらが」が入港した後、程なくして岸壁に一台の大型トレーラーが姿を現す。

 最大積載量約40トン、74式戦車を運搬するべく開発された73式特大型セミトレーラーの上に「うらが」のクレーンで吊されたドラゴンの遺体が載せられる。

 その周囲には武器を携帯していないものの、警戒に当たる陸上自衛官達の姿があった。


「どこに運ばれるのかしら?」


 「ゆきかぜ」の艦橋から守と一緒にトレーラーに固定されるドラゴンの姿を見てレジーナは言葉を漏らす。

 

「どこかの研究機関かな? この世界ではドラゴンのような大きな飛行生物は存在しないから貴重な研究対象になると思うよ」

「私達が誇るアル・マジード艦隊は風魔法を駆使した高い機動力で帝国艦隊を翻弄してたんだけど、ドラゴンの攻撃によって壊滅してしまったわ」

「人が乗ることはあるの?」

「竜騎士隊の多くはそうだけど、一部は秘術の力によってドラゴンの意識をリンクさせることもあるわ」

「凄いねそれ......」


 ドラゴンの特徴を聞き、守は感慨深くなってしまう。

 レジーナのいた連合王国では大型のグリフォンがいる反面、帝国本土には多くのドラゴンが生息しており、帝国は野生のドラゴンから奪った卵から生まれたドラゴンを使役することにより圧倒的な航空戦力を確保することに成功したのである。

 しかしながら、強靱な鱗と圧倒的な攻撃力を持つ反面で食事の妨害や危害を加えられる以外で人間を襲うことが無いために、操者を失ってしまうと戦闘を止めてどこかへ飛び去ってしまう弱点があった。

 

「私達は当初、操者を狙うことによってドラゴンを無力化してきたんだけど帝国側が大陸の辺境地区に住んでいた少数民族の秘術を駆使し、ドラゴンと意識を繋げることによって操者を乗せなくても自在に操れるようにしてしまったもんだから為すがままにやられてしまったの」

「ある意味弓矢だけで武装ヘリコプターを相手にする行為かな」

「ヘリコプター?」

「うん、今は搭載していないけど空飛ぶ機械だよ」

「空飛ぶ機械!?」


 レジーナが驚きを口にするも守は羽田空港の方を指さして口を開く。


「あれもそうだね」

「鳥じゃ無かったの!?」


 視線の先には羽田空港から飛び立ったであろう飛行機の姿があり、遠目で小さく見えたためかレジーナは今までそれを鳥と思い込んでいたのである。


「100人以上もの人を乗せて飛び立てるんだよ」

「魔法を使わずに空を飛べるなんて」


 ドラゴンやグリフォンはその巨体を持ち上げて空を飛ぶのに魔法の力を駆使している。 自身の体重にかかる重力を操作することによって少ない筋力で羽ばたくことが出来るのだが、鳥のように揚力を利用して滑空することが出来ないために航続距離は短く、帝国と連合王国間を行き来することが出来ない。

 要はずっと羽ばたかせて魔力を放出させなければ浮き上がれない不憫な生き物である。

 しかしながら、本来彼らは陸上で生活する生き物であり羽が生えた理由としては魔法の力を効率的に活用して重たい体を支えるためであると言われている。


「まさかこれを利用した兵器も存在してるの?」

「あ、ああ」

「どれだけあるの!!」


 顔を近づけて問いかけてくるレジーナの姿に、守は頬を染めながらも口を開く。


「主力戦闘機だけで約200機」

「えええええ!?」


 それは帝国が保有すると言われているドラゴンの総数に匹敵するものであった。

 連合王国が喉から手が出るほど必要としている戦力。 レジーナは守の言葉を聞き、ある思惑を抱いてしまう。


(この国と同盟を結べば帝国の侵攻を防げるかもしれない)


 ほくそ笑むレジーナを見て守は思わず背筋に冷たいものがひた走る感覚に襲われてしまう。 自分は教えてはならぬことを彼女に話してしまったと感じた守は強引に話題を変えようと試みる。


「今日の夕飯は調理員長が腕によりをかけるって言ってたよ」

「そんなことよりもこの国の軍事力を教えて貰えないかしら?」

「いや、その......また今度で良いかな?」

「私は今知りたいのよ!!」


 守に向かって強引に迫る彼女の姿に艦橋にいた他の乗員は言葉が通じないこともあってか只の痴話喧嘩だと感じ、微笑ましい視線を送る。 守に至っては言葉に詰まってしまい冷や汗を流し始める。


「姫様、その者から離れて下さい!!」


 二人の姿に我慢が出来なかったのか広澤の制止を振り払ってフィリアが間に割って入る。 守にとってはありがたい事態であったが、レジーナにとっては邪魔者に他ならない。


「私は国家に関わる大事な話をしてるのよ!!」

「そのような話は艦長である森村殿とお願いします。 彼はただの一般兵です」

「そんなことしてもはぐらかされるだけよ。 あなたは黙ってそこにいる男と乳くりあってなさい!!」

「な......」


 顔を赤くするフィリアの後ろではジルと一緒に立っている広澤の姿があり、彼は言い争いをしている二人の会話の内容が分からないため黙って眺めていた。


「命令です、その大きな胸を有効に活用して彼から情報収集に努めなさい」

「姫様といえど無礼は許しません!!」

「いつから教育係になったつもり? あなたは私の僕であることを忘れたのかしら」

「いえ、そのようなつもりはありません。 私は単に姫様のことを思って......」

「父を見殺しにしたあなたが言えた口なの?」

「く、分かりました......」


 フィリアは唇を噛みしめつつジルが制止するのも無視して強引に広澤の手を掴んで艦橋から出て行く。 


「あそこまで言わなくても!!」


 ジルが抗議を口にするもレジーナは相手にしようとはせずに守の方へと振り返る。


「フィリアさんは君のお父さんを見殺しにしたのか?」


 守の問いかけに対し、レジーナは涙を堪えつつも口を開く。


「彼女は父の護衛だったけど、父が敗戦の責任を取って自決する際に止めることをせず黙って命令に従って介錯を執行したのよ」

「恨んでるのか?」

「分からない、だけど彼女がどのみち断ったところで父が死ぬことには変わりないと思うわ」

「だったらなぜあんな酷いことを」

「彼女の希望よ。 父が亡くなったことを伝えた際、彼女は父の遺言を伝えて生涯にわたって私を守ると言ってくれた。 だけど父を失った悲しみによって自暴自棄になった私は父の後を追って自決しようとした」

「まさか彼女は......」

「ええ、私の自決を思いとどまらせるために自分を父親殺しの憎しみの対象として扱ってくれと言ってくれたわ。 それ以降私はことあるごとに彼女に強く当たるようにすることで父を失った悲しみに耐えるようになったの」 


 レジーナの心の闇に触れ、守は言葉を失ってしまう。

 幼い彼女の心は今も父親を失ったことによる悲しみであふれており、仇でもある帝国の皇帝に嫁ぐことになってもフィリアに当たり散らすことによって自我を保ってきたのである。


「おや、ここにいたんだね」

「艦長!?」


 二人の元に市ヶ谷から戻った森村が声をかける。 艦長という身分でありながら、彼はきままに艦内を出歩くことがあり、時折後ろから現れて乗員達を驚かす癖があったりもする。


「どうでしたか?」

「色々と収穫があったよ、詳しいことを話すから艦長室に来てくれ」


 森村は二人を艦長室に招き入れ、応接用のソファーに座らせる。


「「うらが」の件は知ってるとか言わないよな?」

「......知ってます」

「やれやれ、君達には隠し事が通じないみたいだな。 一体どこでそんな情報を仕入れてるんだ?」

「王女には簡単な予知能力があります」

「それって競馬の予想に使えそうか?」

「いえ、突然脳裏に焼き付くので本人の好きに制御することが出来ないみたいです」 


 雪風や浦賀の存在については双方からの希望もあって二人の他には広澤とフィリア、ジルだけの秘密となっている。

 彼女達からもたらされた情報は基本的にレジーナの予知能力という形で森村達に伝えられている。 森村はその言葉に対し少々疑いを抱いていたが、魔法の存在している世界から来た手前真実で無いかと納得はしている。

 まあ、艦魂の存在を話したところで困惑されるのが目に見えているが。


「まあ良い、これからの方針についてだがどうやら日本政府は王女達を国賓としてあらためて迎えるつもりのようだ」

「よかったですね」


 その言葉を受けてレジーナは笑みをこぼすも森村は更なる喜ばしい情報を彼女に伝える。


「これまでの件を考慮して防衛省では小笠原沖で大規模な調査を展開しようとしている」

「それってまさか......」

「ああ、王女達がこの世界に来た原因が究明されるかもしれない」


 守から森村の話を聞かされた途端、レジーナは喜びのあまり森村の手を握って感謝の言葉を口走る。 レジーナの行為に対し森村は照れながらも「帰れると良いですね」と伝える。

 艦長室で守達が喜びに沸き立つ一方では、格納庫の上で一人塞ぎ込むフィリアの姿があった。

 彼女の隣には広澤の姿があり、言葉が通じないものの何とか彼女を励まそうと声をかけている。


「なあ、拗ねてないで戻ろうぜ」

「......」

「もうすぐ夕飯なのに」


 海上自衛隊の夕食時間は早く、「ゆきかぜ」においては夕方5時から食べられるようになっている。 ドラゴンを載せたトレーラーが走り去る姿が見える中、フィリアはこれまでの自分の行いに対し思いを巡らせる。


「私は姫様に失礼なことをしたのだろうか......」

「何を言ってるか分からんけどあんまし気にしない方が良いよ」

「守の上司としてお前はどう思うんだ?」

「あいつらはまだ若くて世間知らずなだけだよ」

「ふ、言葉が通じなければ意味が無いな」

「やれやれ、どうすりゃいいかな」


 対応に困り、広澤はポケットの中を探っているとあるものの存在に気付いてしまう。


「これやるから元気出しなよ」


 彼はたまたまポケットに入っていた飴玉をフィリアに渡し、袋の開け方を見せて口の中に入れる。 彼女もまた真似をして飴玉を口に入れるとその甘さに思わず頬をほこらませてしまう。


「甘い......」

「はは、俺はタバコを吸わないから一息必要なときは飴を舐めるようにしてるんだ」

「お前は優しいな...」


 初めて会ったとき、言葉が通じないためにお互いが歩み寄れない状態で睨み合う中、彼は先陣を切ってフィリアと絵を使ってコンタクトを計ってくれた。 人間と外見の違う自分達に対し、広澤は紳士的な対応でフィリアの要望を聞き入れて艦長との交渉を担当してくれたことにより、慣れない世界でありながらも無事に過ごすことが出来た。

 昨夜は下品なこともあったが、フィリアの胸には彼に対する感謝の気持ちで満たされており、落ち込む彼女を何とか励まそうとする広澤の優しさは心に傷を持つ彼女にとって心安まる行為であった。 


「お前、恋人はいるのか?」

「最近はカロリーを気にしてあんまり舐めないようにしてるけどな」

「やっぱり通じないか......」


 何を考えたのかフィリアはふと広澤の肩に頭をもたれてしまう。 彼は突然の行為に驚くも何かを察したのか黙って彼女の肩に手を回す。


「こうしていると何だか落ち着くな」

「俺なんかに心を許しちゃダメだぞ」

「しばらくこのままにしてくれ」


 急激に事態が進行していく中、徐々にではあったがフィリアは広澤に心を許すようになってしまう。



 同時刻、本土と小笠原沖の間を結ぶ海面に映る全長約33メートルの巨大な機影。 新明和重工製のその巨大な機体の側面には大きな日の丸と海上自衛隊の文字が描かれており、訓練のために父島にいたその機体は市ヶ谷からの命令を受けて急遽、訓練を中止してこの海域での異変の調査に当たっている。


「波も穏やかで特に異変は見られませんね」


 隣に座る副機長の言葉に機長は怪訝な表情を送る。

 彼を覗く10名の搭乗員達の内手空きの者は双眼鏡を使って海面を舐めるかのように見入っているが、今のところ期待されたような報告は入ってきていない。


「燃料がそろそろ限界です」

「帰るとするか......」


 副機長の言葉を受け、機長は本土に向けて機首を傾けると不意に前方を何かが横切ってしまう。


「何だ今のは?」

「鳥ですかね?」


 お互いの顔を見て先程の光景を確認し合う二人。 お互い飛行経験豊富のベテランパイロットであったが、目の前を横切った物に関しては説明がつかなかった。


「レ、レーダーに突然機影が!!」

「そんな馬鹿な!?」


 急速接近する物体を知らせる警報が鳴り響いたことにより意識を戻した二人が正面を振り返ると、窓の外では何度も翼をはばたせながらも飛行する全長10メートルほどの大きさのドラゴンの姿があった。


「信じられん......」

「UFOの方が現実味がありますよね」


 機長はこちらを無視して隣で飛び続けるドラゴンを横目で眺めていたが、不意に海面を捜索していた搭乗員から信じられない報告が舞い込んできた。 


「奇妙な霧があります!!」

「霧...どういうことだ?」

「真っ白ですが、普通の霧と違って均等な形で海面に留まっています」


 報告を受けて機体を大きく旋回させてみると目の前に海面からドームの様に広がる白い霧の塊があり、海面から空に向かって細長く伸びるその姿は今朝方朝食に出ていた卵と酷似していた。


「何だあれは......」

「機長、ドラゴンが!!」


 機長が驚く暇も無く、副機長の指さす先には先程のドラゴンが霧に中に向かって飛び込む姿があり、それは中に入ったあと再び姿を現さなくなってしまう。


「信じられん...」

「一応記録は撮ってありますがどうしましょうか?」

「どうするも何もありのままを伝えるしか無いだろ」

「そうですね」


 彼らが見つけた謎の霧。 それこそ漂流していたレジーナ達をこの世界に呼び込んだ原因であり、この存在によって双方の世界において大きな騒動を生み出すことになる。


 序盤は相変わらず戦闘シーンが無くて退屈されるかもしれませんが、次回は少しだけ戦闘シーンが出る予定です。

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